リーガルコーナー第22回 台湾・有澤法律事務所弁護士 劉志鵬、黄馨慧

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日本と台湾の労働法令はとても似ていますが、両国の法律で規定が異なる議題がいくつかあります。労使紛争が生じ、戸惑いを避けるため、日本企業が台湾で投資する際は、これらの法令及び雇用実務の違いに留意すべきです。

一、台湾の労基法は、使用者は特定の状況の下において、はじめて労働者と定期契約を締結できると規定している。

台湾の労働契約は不定期契約を原則としており、業務に「継続性」がある場合は不定期契約を締結しなければならず(労基法第9条、業務に臨時性(予期できない非継続性業務で、その業務期間が6カ月以内である場合を指す)、季節性(季節性の原料、材料の出所又は市場販売の影響を受ける非継続性業務で、その業務期間が9カ月以内である場合を指す)、短期性(6カ月以内に完成が予測される非継続性業務のことを指す)又は特定性(特定期間内に完成できる非継続業務のことを指す)がある場合にのみ、使用者は労働者と定期契約を締結することができます。つまり、台湾労基法の規定の下で、企業は日本で普遍的な「非正規社員、契約社員」などの雇用形態を台湾で全般的に定着させるのは難しいということを人材を募集を行う際に留意すべきです。

二、管理職者に別途残業代を支給しないことは、台湾において適法性の争いが生じる可能性がある。

日本企業は一般的に管理職(管理監督者)以上の人員に対してより高い給与を支給しており、それには残業代が含まれているため、毎月、実際の労働時間に従って別途残業代を支給することはありません。しかし、このようなやり方は台湾労基法の規定に合致しない可能性があります。

台湾の労基法は労働時間に対してかなり厳しい制限を設けており、原則的に労基法が適用される全ての労働者の労働時間数は1日8時間、1週間で40時間の制限を受けます。毎日の所定労働時間数は残業時間を加え12時間を超えてはならず、毎月の残業時間は46時間を超えてはなりません(法定要件に合致する場合は、毎月54時間、3カ月で138時間にまで緩和することができる。また、7日ごとに1日の法定休日及び1日の休息日を与えなければなりません。

上記の労働時間数の制限は、いくつかの状況の下で例外となる可能性があり、例えば変形労働時間制、及び実務上よく見られる「責任制」がこれに当たります。

「責任制」の法的根拠は労基法第84条の1です。責任制の実施後、労働者の労働時間等は労使双方で別途約定することができます。しかしながら、全ての労働者が使用者と責任制の適用を約定できるわけではなく、主務機関が公告した職務であってはじめて責任制を適用させることができます。また、労使双方は約定書に署名締結し、当該責任制に関する約定書を地方主務機関に届出る必要があり、地方主務機関は承認を行う際に依然として労使双方が約定した労働時間について審査するため、責任制従業員の労働時間数と休暇は実務上においてかなり厳しい制限を受けることになります。

日本企業が台湾で労働者を雇用する際によく見られる問題として、使用者は別途残業代を支給しないことを従業員と約定することができるかどうかです。この問題はいくつかの重要な議題に関係します。
(一)日本の契約でいう管理監督者は、一般的に中間管理者以上の労働者のことを指しますが、これは日本企業の慣例用語に過ぎず、実際には月給が新台湾ドル15万元以上に達する管理監督者だけが、労基法で承認される責任制従業員となります。
(二)台湾の裁判所は、「特定時間数以内」の残業代を賃金に含め、一つずつ精算しないことを労使双方で約定した場合、この種の約定は実行可能であるが、給与のうちの一項目を「〇〇時間の固定残業代」とすべきで、且つ残業代を控除した後の賃金額は労基法の法定基本賃金(現在のところ新台湾ドル23・800元)を下回ってはならないと判断しています。
(三)労基法が適用される従業員全員に残業代支給の問題があり、使用者は「責任制従業員

三、台湾の労基法は解雇に対して厳しい制限を設けており、法定事由がない限り、一方的に労働者を解雇することはできない。

台湾の労基法は使用者が契約を終了させることについて厳しい制限を設けています。ご参考までに、関連労基法条文の内容は以下のとおりです。
(一)第11条(日本の整理解雇と類似)

「次のいずれかの事情がなければ、使用者は労働契約を終了させることを予告してはならない一、廃業又は譲渡した場合。二、欠損又は業務を短縮した場合。三、不可抗力により業務の一時停止が1カ月以上続く場合。四、業務の性質が変化し、労働者を減らす必要があり、適切な配置転換の業務がない場合。五、労働者が担当する業務に確実に適合しない場合。」
(二)第12条(日本の懲戒解雇と類似)

「1・労働者に次のいずれかの事情がある場合、使用者は予告なしに契約を終了させることができる=一、労働契約の締結時に虚偽の意思表示を行って使用者を誤信させ、それによって使用者が損害を受ける虞がある場合。二、使用者、使用者の家族、使用者の代理人又はその他共同で労働する労働者に対して暴行を加えた、又は重大な侮辱行為を行った場合。三、有期懲役以上の確定判決を受け、刑の執行猶予又は罰金刑に易科(懲役の代わりに1日あたり一定金額の法定基準に基づき罰金刑に変換する制度)することを言い渡されなかった場合。四、労働契約又は就業規則に違反し、事情が重大な場合。五、故意に機器、工具、原料、製品又はその他使用者が所有する物品を損耗した、又は故意に使用者の技術上、営業上の秘密を漏洩し、それによって使用者が損害を受けた場合。六、正当な理由なく無断欠勤が3日続いた、又は1カ月以内に無断欠勤が6日に達した場合。

2・使用者が前項第1号、第2号及び第4号から第6号の規定に基づき契約を終了させる場合、その事情を知った日から30日以内に行わなければならない。」

前記2つの条文規定の異なる点として、第11条に定める契約終了の原因は原則的に使用者の責めに帰することができるため、使用者が契約を終了させるにはまず法に基づいて予告し、離職の補償として解雇手当を支給しなければなりません。一方で、第12条の契約終了の原因は労働者の責めに帰することができるため、使用者は予告なしに契約を終了させることができ、解雇手当を支給する必要もありません。但し、労使契約の関係を確定させるため、使用者の終止権の行使には期間の制限が設けられています。

労基法は労働契約の終了に対して厳しい制限を設けているため、「合意解雇」は実務上よく見られます。「解雇の合意」は双方の自由な意思によるものであれば効力の問題は生じません。ただ、労働者が離職後、脅迫を受けたために離職に同意したと指摘するのを避けるため、企業は労働者と離職について協議の過程をはっきりと記録に残す必要があり、また離職同意書の内容をより明確にしたほうがよいです。

 

最後に、台湾は2020年1月より労働事件法が実施され、労働訴訟の形態が大幅に変更しました。特に、賃金及び労働時間に関する立証責任はいずれも使用者が責任を負うこととなり、また、労働者が訴訟中に地位保全の仮処分を申立てるハードルが大幅に下げられたため、労使関係により深い影響を及ぼすことが考えられます。日本企業は台湾で投資を行う前に、同法の内容について事前にその詳細をよく理解しておく必要があります。

劉志鵬

35年以上にわたり弁護士業務に従事し、かつて台北弁護士会の理事長も務めた。紛争解決、労働法、工事及び不動産の分野において、Asialaw、Chambers & Partners、Legal 500等、国際的な権威のある法曹評価機関から数多くの推薦を受けている。さらに、2019年にはChambers & Partnersより、台湾の労働法分野におけるBand 1の弁護士として選出されるとともに、紛争解決分野における同年度の推薦弁護士に選ばれた。

黄馨慧

これまでに600社以上の日系企業にリーガル・サービスを提供した経験を持つ。紛争解決、労働法の分野において、Asialaw、Chambers &Partners、The Legal 500 Asia Pacific等、国際的な権威のある法曹評価機関から数多くの推薦を受けている。さらに、2019年にはChambers &Partnersより、台湾の労働法、不動産開発及び紛争解決分野における同年度の推薦弁護士に選ばれた。