リーガルコーナー第20回 北京市世澤律師事務所中国弁護士 盧偉、許文実

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米中経済貿易摩擦、経済成長スピードの世界的な鈍化、経済の継続的軟調のあおりを受け、さらには中国国内における資本調達の難しさのため企業の運転資金維持がさらに困難になっていることから、多くの中国企業が経営困難に陥り、業務上の契約代金が正常に支払われにくくなり、企業資金チェーン断裂のリスクが川下企業から川上企業へと確実に広がっている。現在、契約に基づく債権回収のプレッシャーはほぼすべての分野に存在し、ますます看過できなくなっている。

かかる背景のもと、企業は、契約履行の過程で取引先の約束履行状況を注視し続けなければならない。提携企業が期限を超えても代金を支払わない又はその可能性がある場合には、警戒を怠らず、かつ遅滞なく対策を講じて、債務者が資金困難に陥ったのに何の債権保障手段も講じていなかった、という事態が起こらないようにしなければならない。

債権回収分野における長年の経験に基づけば、債権回収リスクの発生後、債権者は、次のような措置の一部又は全部を講じてリスクの回避又は軽減を検討することができる。

第一・連絡を保つとともに、直ちに背景調査を実施する。

債権者は、遅滞なく債務者とコミュニケーションをとるとともに、第三者調査機関を含む複数のルートから、債務者が契約どおりに支払義務を履行しなかった理由とその経営状態を把握しておくべきである。
かかる背景調査は、債務者が契約違反した本当の理由を理解し、債務者の財務上の現状を把握するのに役立ち、さらには、この後に続く訴訟・仲裁段階で債務者に対し財産保全措置を申し立てるための準備として債務者の財産上の手がかりを集めるのにも役立つ。

第二、返済について協議し、担保の差し入れを求める。

債務者がなお債務弁済の意思と一定の弁済能力を有している場合には、返済協議書、返済計画書などの書面を債務者と締結し、債務者に一定の猶予期間を与えることを検討することができる。

しかしながら、このような債権者の譲歩は、債務者に債権保証を提供させ、それを前提として行わなければならない。最もよく見られるのは、債務者その他関係者による債務弁済に対する担保の差し入れである。

中国国内における実務上の状況に基づくと、一般的に言って、担保の中で最も優先的に選ばれているのは、土地又は建物に対する抵当権の設定である。なぜなら、土地と建物は相対的に価値が最も保障されている担保物件だからである。その次は、債務者の株主、実質的支配者又はこれらの名義にあるその他の企業に保証担保を提供させ、これによって個人の信用と債務を関連づけ、かかる個人にできる限り債務弁済が確実に履行されるよう促す方法である。これ以外にも、出資持分、商標などの無形資産、機械設備、完成品・半製品などを担保とすることも考えられるが、通常、これらは換金性が相対的に劣る。

このほか、債権者が債務者に対しなお一定の支配力と影響力を有している場合、例えば、契約に基づく機械設備につきなお債権者による据付け若しくはテスト調整に頼っている、又は債務者が債権者によって行われる後続のサービスを手放すことができないといった場合には、債権者は、かかる支配力と影響力を十分に利用して債務者にプレッシャーをかけ、債務者に最大限の努力を尽くして債務弁済するよう促すことができる。

第三、弁護士に依頼して弁護士レターを送付する。

債権者は、弁護士に依頼して弁護士レターを送付し、債務者に返済を促すことができる。弁護士レターは、債務者に対して裁判所判決や仲裁判断のような司法効力を直接に形成するわけではないが、債権者が債務者に対し債権回収を重視していることと厳しい姿勢を示し、法的措置を講じる用意があるという情報を伝えることによって、債務者に更なるプレッシャーを与え、積極的に交渉若しくは和解に参与させ、又は債務弁済させることが可能になる。実務においても、弁護士レターを受け取ると、債務者が自発的に債務の全部又は一部を弁済するといったケースが確かに見受けられる。

第四、訴訟又は仲裁を申し立てる。

前記の措置によっても期待した効果が得られない場合、債権者は、訴訟又は仲裁を申し立てることを遅滞なく検討しなければならない。訴訟とするのか仲裁とするのかは、基礎契約においてどちらを紛争解決の手段として選択しているかによる。
債務者に対し訴訟又は仲裁を申し立てる過程では、少なくとも次の点について注意しなければならない。

①遅滞なく財産保全措置を講じること。
中国の民事訴訟法に基づき、当事者の一方の行為その他の理由により判決の執行が困難になる可能性のある案件について、相手方当事者は、債務者が訴訟/仲裁の過程で財産を移転することによって債権者が裁判に勝訴しても執行可能財産がなくなっていたという問題が起こらないように、裁判所に対し相手方当事者の財産の保全を申し立てることができる。これには、口座の凍結、土地・建物の封印などを含むがこれらに限らない。前段階で第三者機関に委託して債務者の財産を調査していない場合には、この段階で調査を行うとともに、財産保全の使用に供するべく、財産の手がかりを裁判所に提出することができる。

②適切な管轄を選択すること。
基本契約で仲裁を選択している場合、債権者は選定した仲裁機関に仲裁を申し立てなければならない。基本契約で仲裁を選択していない場合、債権者はまず、どの人民法院に訴訟を提起するかを検討し、かつ決定しなければならない。この場合、最初に確認を要するのは、管轄裁判所に関する明確かつ有効な取決めを契約中に行っているかどうかという点である。取決めをしている場合には、これに基づき訴訟を提起することになる。また、取決めをしていない場合には、中国の民事訴訟法において確立されている管轄規則に従い、被告住所地、契約履行地などの管轄権を有する人民法院に訴訟を提起しなければならない。複数の裁判所が管轄権を有している場合には、自身にとって都合のよい裁判所、司法水準と公正性が相対的に高い先進都市の裁判所を選択し、債務者所在地の裁判所はできる限り避けることが望ましい。

③強制執行措置及び手段が尽きたときの対応。
債権回収案件では、債権者が勝訴判決又は仲裁判断を得たとしても、すでに債務者に執行可能財産がなくなっていたことが判明するのは珍しくない。しかしながら、債務者に執行可能財産がないといったリスクに直面するとしても、訴訟又は仲裁を提起することはなお有意義である。これは主に次の2点による。一つは、近年、中国の裁判所の強制執行力が不断に拡大され、強制執行の効力も不断に強化されていることにある。封印、差押え、凍結など従来型の執行措置のほか、信用失墜被執行申立人ブラックリスト、高額消費制限、罰金、司法拘留などの執行措置、とりわけ法定代表者又は株主といった個人を対象とした執行措置が設けられ、債務者に対するプレッシャーが日増しに強化されている。もう一つは、債務名義(効力を生じた裁判文書)は債権者の権利に対する司法上の確認であるため、その時点で確かに債務者に執行可能財産がなかったとしても、債権者が後日に債務者の新たな財産を発見した場合には、いつでも執行の回復を裁判所に申請することができるからである。

第五、その他の手段

訴訟/仲裁によって債務名義を取得して執行をし終えても、なお債権を回収することのできない場合には、具体的な事案の状況に応じて、株主の責任を追及する、破産を申し立てる、代位権を主張するなどの措置を試みることができる。注意を要するのは、かかる措置はいずれも特殊な状況において行うものであり、特定の条件を満たす場合にしか実施することができないという点である。したがって、事案の具体的な状況を勘案した上で、実行可能性及び債権回収の可能性を判断する必要がある。

市場経済の環境にあれば、あらゆる企業に債権回収のリスクに直面するおそれがある。債務者にいったん契約違反の状況が生じた場合には、債権者は警戒を怠らず、専門家の指導のもとで適切な措置を講じ、債権回収のタイミングを逃さないようにしなければならない。実践では、案件ごとに状況が千差万別であることから、具体的な案件の処理方法については、各タイムラインでの作業を含み、なお債務者の具体的な経営状況、弁済意思、弁済能力などを総合的に判断する必要がある。以上は当職らの経験からまとめた一種の普遍的な措置であるが、債権回収に悩まれる企業の一助となれば幸いである。

盧偉

中国政法大学卒業、法学学士及び修士。2007年に北京市世澤律師事務所に入所後、2017年からパートナーとして参画。
紛争解決分野で豊富な経験を積み、多くの渉外及び国内の訴訟と仲裁案件を担当。また、労務人事分野や会社の企業法務全般で活躍し、2019年に北京市弁護士協会の労働・社会保障法律専門委員会委員に選任された。

許文実

中国人民大学卒業、法学学士及び修士。2012年に修士学位取得後、北京市世澤律師事務所に入所。主たる執務分野は、紛争解決(著作権侵害、特許権侵害、建設工事契約紛争、持分譲渡紛争など)、労務人事管理、その他企業法務全般。