リーガルコーナー第18回 北京市世澤律師事務所中国弁護士 姫軍、袁星
中国知的財産権侵害事件における対応の要点

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今号及び次号は、虎門中央法律事務所と共同事業を行う中国の世澤律師事務所に所属する弁護士が、中国における法律問題につき検討を行う。

日本と同様に、中国の知的財産権は、主に特許、商標、著作権を含む。中国にて企業を経営または中国企業と取引するとき、知的財産権訴訟を提起することで競争優位性を得ること、あるいは知的財産権訴訟が生じたとき、すみやかかつ有効に対応し、最大限度まで損失を低下させることが可能である。

権利者/原告として

一、適切な救済方法の選択

中国における知的財産権が侵害された場合、まず、適切な救済方式を選択することが重要である。知的財産権侵害訴訟の第一類の救済方式は「民事訴訟」で、すなわち中国裁判所に民事訴訟を提起し、禁止令及び損害賠償を求めることである。裁判所の判決結果は全国で効力を有し、かつ強制執行できる。

第二類の救済方式は「行政クレーム」(行政投訴)で、権利者は行政機関に知的財産権に起因するクレームを発することができる。行政クレームのメリットは、権利侵害行為を制止できることにあり、デメリットは行政機関の決定はその行政区域の範囲においてのみ効力を生じ、全国的に効力を生じるものではない点にある。また、行政クレームによって権利侵害の損害賠償を得ることはできない。

このほか、中国税関を通じて、輸入及び輸出商品に対し、知的財産権の侵害を調査することができる。税関の調査処分は税関の主体的な調査、または権利者から税関への申請による調査であり、税関が主体的に調査をする前提条件として、権利者が予めその知的財産権を税関に届け出ていることが必要となる。

二、権利者または利害関係者として

民事訴訟を提起

知的財産権の所有権者と共有権者が民事訴訟を提起できるほか、利害関係者、すなわち、独占的、排他的、一般許諾を含む被許諾者も、原告として民事訴訟を提起できる可能性がある。通常の場合、独占許諾の被許諾者は、単独で原告として民事訴訟を提起することができ、排他的許諾と一般許諾の被許諾者は、権利者の同意を得た上で、権利者とともに共同原告として民事訴訟を提起することができ、排他的被許諾者は権利者が起訴しないとき、単独で起訴することもできる。

三、証拠収集の方式

中国民事訴訟には、英米法における証拠開示制度がなく、原告は被告から証拠を得ることが比較的難しいため、原告自身の証拠収集または裁判所を通じて取得する証拠の量と質が、訴訟の勝敗に対し重要な作用を果たす。通常の場合、原告が自らまたは弁護士に依頼して取得する証拠の証明力は比較的弱い。例えば、原告が一方的に購入した商品、撮影した写真、技術対比の実施などは、往々にして被告によりその真実性と中立性が問われる。

証拠の効力を強化するため、原告は公証機構に商品購入、写真撮影を依頼し、公証書を作成することができる。原告はさらに、裁判所を通じて鑑定機構に依頼して、技術対比を行い、司法鑑定意見書を作成することができる。また、原告は、裁判所に証拠保全を申請、または被告には裁判所を通じて特定証拠の提供を要求することができる。このほか、裁判所に調査令の発令を申請し証拠調査収集するといった方法もある。これら三種類の方式は、いずれも原告が、事前に、被告に権利侵害行為が存在しうることを疎明する初歩的な証拠を裁判所に提出しなければならない。

四、管轄裁判所の選択

2014年より、中国は知的財産権専門の裁判所及び知的財産権専門の法廷を設置し、知的財産権裁判所と知的財産権法廷が設置された地区では、特許、技術秘密、コンピュータソフトウェア、不正競争などの類型の民事訴訟事件は、通常の場合、いずれも知的財産権裁判所と知的財産権法廷/審判廷が専門にリーガルコーナー第18回 虎門中央法律事務所中国弁護士 姫軍、袁星管轄することとなった。目下中国には、北京、上海、広州に3カ所の知的財産権裁判所が設置され、また各地に21ヶ所の知的財産権法廷(または知的財産権審判廷)が設置されている。(なお、知的財産権裁判所は単独の裁判所で、知的財産権法廷または審判廷は裁判所内部の部門で、両者は行政規画上違いがあるのみで、機能は近似する)

裁判所の地域を選択する上で、原告は通常の場合、被告住所地または権利侵害行為地の裁判所を管轄として任意に選択することができる。例えば、特許権利侵害訴訟では、原告が提訴するとき、被告住所地、商品の生産地、販売地、出展の所在地、輸入地の一つにある裁判所を任意に選択することができる。原告は、利便性と裁判所の専門性に応じて適切な裁判所を選択して提訴することができる。

裁判所の等級上、原告、被告が裁判所の管轄区域にあるか、または外国法人であるか、及び事件の係争金額により、知的財産権一審民事訴訟事件は、区級の基層人民法院、市級の中級人民法院または知的財産権裁判所、或いは省級の高級人民法院が管轄しうる。

五、禁止令と損害賠償の獲得

知的財産権訴訟では、ひとたび権利侵害行為が成立すると、大多数の状況において、裁判所は被告に権利侵害行為を停止するよう判決する。ごく一部の状況においてのみ、例えば、係争の特許が標準必須特許である、または被告が権利侵害行為を停止すると社会公共の利益に重大な影響を及ぼす場合、裁判所は被告が許諾料を支払う方式により、引き続き係争の知的財産権を使用することを許容することもある。

訴訟前または訴訟中に、原告は判決を得ていない状況において、仮禁止令を直接獲得することができ、この手続は「行為保全」とも呼ばれる。行為保全を獲得するため、原告は、権利侵害行為が成立する可能性が高いこと、すみやかに制止しないと、原告に対し損害の補償が困難となる、または将来判決の執行が困難となることを証明しなければならない。また、行為保全しないと原告に及ぶ損害が行為保全により被告に及ぶ損害より大きく、行為保全が社会公共の利益を損なわないことを証明しなければならない。このほか、原告は保全対象及び保全時期に基づき高額の保証金を支払わなければならない。

原告は、被告の権利侵害行為により原告に及ぼした損失、及び原告が権利侵害行為を制止するために生じた合理的費用を支払うよう被告に要求することができる。損失の証明に用いる証拠には、被告の権利侵害行為により原告に及ぼした販売量の減少、被告が権利侵害行為により得た収入、原告から第三者への許諾料などを含む。原告は、損失を証明する証拠の提出に尽力する必要があり、原告が証拠を提出できない場合、裁判官は自身の経験のみに基づき判断することになり、このような場合の賠償金額は非常に低くなる。(通常は日本円200万円相当額以内)

被告として

一、戦略の選択と主体的地位の獲得

知的財産権訴訟を提起された場合、適切な対応戦略を選択することが非常に重要である。例えば、被告となった場合、現実的な問題として、往々にして準備をする十分な時間がないため、合理的な手続を利用して時間を確保することを検討する必要がある(詳細は下記を参照)。
訴訟において主体的な地位を占めることは非常に重要で、提訴された事件に積極的に対応するほか、相手側に知的財産権訴訟または不正競争訴訟を提起できないかを検討するこリーガルコーナー第18回 北京市世澤律師事務所中国弁護士 姫軍、袁星ともできる。このようにすることで、将来的に、多様化された方式(例えば片面許諾、交差許諾)をもって紛争解決できる可能性が生まれる。

二、すみやかに管轄権異議を提出

原告が訴訟を提起する裁判所に管轄上の問題があるとき、被告は当該裁判所に管轄権異議を提出することができる。当該裁判所が異議に対し裁定を下した後、いずれの一方も、当該裁定に対し上訴を提起することができる。

管轄権異議を提出することで、望まない裁判所にて審理が行われることを回避できる可能性があるのみならず、より重要な意義として、管轄権異議及び上訴を通じて、被告が事件準備のための貴重な時間を確保することを助けることができることとなる。管轄権異議及び上訴の段階では、裁判所は事件に対し実質的な審理をしないからである。

管轄権異議は、答弁期間内に提起しなければならず、被告が中国実体または中国国内にて住所を有する外国法人である場合、答弁期間は日で、被告が中国国内に住所を持たない外国法人である場合は、答弁期間は日である。

三、権利の有効性を問い

事件の中止を試みる

知的財産権侵害訴訟の一つの戦略は、知的財産権の有効性を問うことである。中国では、いかなる者も(提訴されたかにかかわらず)、国家知的財産権局に商標無効宣告または特許無効宣告を提起することができる。競争相手の商標または特許無効化することで、根本から脅威を除去することができる。

権利侵害訴訟において、係争の商標または特許の無効宣告を申し立てるもう一つのメリットは、裁判所がこれにより、特許または商標の安定性に懐疑的になり、現在進行中の知的財産権侵害訴訟手続を中止する可能性がある点にある。これも、被告が権利侵害事件の準備に用いる貴重な時間を稼ぐことを助ける一種の方法である。

四、非侵害確認訴訟の提起と

不正競争の訴え

権利者が発した告知状、警告状または弁護士レター等の書面を受け取り、権利者がなおも提訴していないとき、書面を受領した側は、主体的に非侵害確認の訴えを起こすことリーガルコーナー第18回 北京市世澤律師事務所中国弁護士 姫軍、袁星ができる。非侵害確認の訴えを提起する前提は、書面受領側が知的財産権侵害の明確な警告を受領し、書面受領側が権利者に提訴を要求し、かつ権利者が警告を撤回しておらず、訴訟も提起していないことである。非侵害確認の訴えを提起するメリットは、書面受領側が事件管轄地を選択することができ、事件において主体的な地位を占めることができる点にある。

権利者が第三者(例えば取次店)に告知状、警告状または弁護士レター等の書面を発し、第三者に権利侵害行為があると告知した場合、商品の生産メーカーは、権利者を被告として、商業名誉毀損による不正競争の訴えを提起することができる。注意すべきは、権利侵害行為が最終的に成立するかは、商業名誉毀損行為の成立可否に影響を及ぼさない。例えば、特許権者A社が販売業者C社に警告状を発し、C社がB社の生産するX商品を販売することは、A社の特許権を侵害すると告知し、このときA社がなおも法院または行政機関の権利侵害成立の認定を得ていない場合、A社の行為はすでにB社に対する商業名誉の毀損を構成し、その後、A社が法院または行政機関から権利侵害行為の成立の認定を得たとしても、A社が商業名誉を毀損する行為はなおも成立する。

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姫軍

1991年 北京大学法学院を卒業、法学学士の学位を取得
92年~97年 日本に留学し東京大学法学院を修了し法学修士の学位を取得
95年~97年 日本の森・濱田松本法律事務所にて勤務
97年~98年 米国ハーバード大学法学院(Harvard Law School)に就学、
法学修士の学位を取得
98年~2000年 米Kirkland&Ellis弁護士事務所ロサンゼルス支所にて執務
01年~03年 中諮弁護士事務所にて執務
04年~ 創始者パートナーの一人として世澤律師事務所を創立
主に訴訟・仲裁及び渉外紛争解決、知的財産権、外商直接投資及びM&A等
の業務に従事。

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袁星

2008年 北京大学法学院及び北京大学中国経済研究センターを卒業
法学学士号と経済学学士号を取得
08年 世澤律師事務所に弁護士として入所
17年 米ノースウェスタン大学法学院を卒業、法学修士号を取得
17年 世澤律師事務所にてパートナーとして勤務
18年 CMS律師事務所ロンドンオフィスに派遣
主に知的財産権、訴訟・仲裁、紛争解決、会社法等に関する業務を担当。