既に中国に進出している又はこれから進出する日系企業には、コンプライアンス対策に積極的に取り組んでいる企業が少なくない。筆者は2007年頃から関連業務に携わっているが、15年以降、相談案件数が顕著に増加した印象がある。今回は、日本本社向けに、筆者の実務経験を踏まえ、中国子会社におけるコンプライアンス体制(以下「中国コンプライアンス体制」という)の構築・強化に関する重要なポイント、アイデア及び提案を紹介する。

一、中国コンプライアンス体制の整備・強化に関する重要なポイント

中国コンプライアンス体制の整備・強化については、会社の規模、管理体制、管理方針、事業の特徴などから様々なシチュエーションが考えられる。ここでは、両極的な規模の会社(①中国統括会社を設立し、法務・リスク管理部門だけで多人数を擁する大規模な会社と、②数名程度で運営している小規模な会社)以外の、中規模の会社を対象とする。

(1)日本本社が積極的に関与すること

中国における法務は基本的に中国現地法人に任せているという会社であっても、以下の点については日本本社が積極的に関与することが必要である。

①中国コンプライアンス体制の整備・強化の方針及び構成の策定かかる場面においては、中国特有の事象だけではなく、全社グループの行動指針やポリシーなどの共通事項、グループ内他社とのバランスについても考慮する必要があるため、日本本社の積極的な関与が不可欠になる。

②駐在員の派遣日本本社から法務担当の駐在員(以下「法務駐在員」という)を派遣することで、以下の効果を期待することができる。・日本本社に定着しているコンプライアンス意識及びノウハウを中国子会社にも浸透させやすくなる。また、リスク管理の方法及びノウハウも中国子会社に伝えやすくなる。・中国現地から収集することのできる情報量が多くなり、情報の質も高くなる。また、問題が起こったときに、日本本社とのスムースな連携、迅速な初動対応が可能になる。法務駐在員の派遣が難しい場合には、やはり日本本社の状況を良く知る現地法人の法務担当者を育てることが必要になるが、人材育成には相当の時間とコストがかかる。よって、日本本社と中国子会社を結ぶ役割を果たしうる顧問弁護士を活用することも有効な代替方法の一つになると考えられる。

(2)日本本社と中国子会社の権限の分掌・対応体制(ライン)の明確化

中国コンプライアンス体制の維持及び中国法務関連業務に関して、日本本社と中国子会社の権限の分掌・対応体制(ライン)を明確にしておくべきである。「真空地帯」が生じてしまうと、日本本社でのリスク感知、問題解決が困難になる。

(3)日本本社と現地とのコミュニケーションを重視すること

中国法務の現場では、法律規定のみならず、対応方法、思考回路まで日本とは異なることが多く、日本本社の考え方を一方的に押しつけても理解してもらえない。また、問題が起こったときの対応方針などについて、日本本社と中国子会社に温度差が生じることもある。日本本社と中国子会社とのコミュニケーションを重視し、「温度差」を生じさせないことが、中国コンプライアンス体制の定着及びリスク発生時の問題解決において重要になる。

(4)現地従業員のコンプライアンス意識を高めること

立派なコンプライアンス制度を整備しても、従業員の参加意欲が低ければ、制度が硬直化し、実効性のないものになりかねない。日本人駐在員だけではなく、現地従業員のコンプライアンス意識を高めることこそ、根本的なリスクヘッジに繋がる。

二、中国におけるコンプライアンス体制の整備・強化に関する提案

筆者の実務経験を踏まえ、中国におけるコンプライアンス体制の整備・強化について、具体的な方法及びポイントを紹介する。

(1)中国向けコンプライアンスガイドブックの作成、活用

中国子会社に配布するコンプライアンスガイドブックは、日本国内向け又は欧米向けのものを中国語に翻訳しただけでは通用しない。馴染みのない法規定・事例が羅列されているだけで、中国の現地従業員にはピンと来ていないといったケースが見受けられる。グループ会社に共通する行動指針・ポリシーをベースにし、その上で中国における多発リスク及び特有の事例を織り込むことにより、より実効性の高いものになる。

(2)日本本社と中国子会社の法務対応体制の明確化

中国の法務業務については、中国子会社又は日本本社のどちらか一方に任せきりにするのではなく、必要に応じて有機的に連動させることができるように対応体制を明確にしておくべきである。例えば、あるメーカーでは、コンプライアンスガイドブックの作成・活用、独占禁止法教育、定期モニタリング及び投資案件・知的財産権訴訟案件の取扱いについては日本本社主導で実施することとし、それ以外の法務業務を中国子会社で対応するという形で権限の分掌を定め、これと同時に、不祥事、訴訟案件、立入検査など緊急事態発生時の対応体制(ライン)を決め、かかる緊急事態への対応に関する日本本社と中国子会社の権限についても予め仕分けして、効率的な処理に繋げている。

(3)コンプライアンス教育の実施中国子会社におけるコンプライアンス教育の実施

に関して、二つのポイントを紹介する。
一つは、職務レベル別にコンプライアンス教育を実施することである。実施対象者を分けて教育内容の重点を調整し、教育の浸透性を高める。
もう一つのポイントは、コンプライランス教育を「教育」だけではなく、会社と従業員の「相互交流」、「潜在的リスク発見」の場とすることである。一方的に知識やノウハウを教示するよりも、より効果的な教育になる。

(4)日本本社による中国子会社に対するモニタリングの実施

日本本社が定期的に中国子会社に対しモニタリングを実施することで、コミュニケーションの促進及び潜在的リスクの早期発見という、一石二鳥の効果を期待することができる。以下、モニタリング実施のポイントを紹介する。
①中国子会社の事業内容にあわせてモニタリングチェックリストを作成すること。チェックリストの作成については中国の実務に精通する弁護士に依頼することを勧める。
②モニタリングチェックリストの項目及び使用方針は「本社と現地の情報共有」を目的すること。「監査」のスタンスで実施すると、中国子会社が警戒してしまい、モニタリングが形骸化してしまう。

(5)リスクホットラインの設置

中国子会社向けのリスクホットラインの設置については、躊躇する日系企業が少なくない。しかしながら、筆者が複数の会社のリスクホットライン対応を担当した経験上、社内での不祥事の早期発見、問題の早期解決、会リーガルコーナー第17回 虎門中央法律事務所中国弁護士 殷宏亮社管理の民主化・透明化、コンプライアンス体制の健全化など、むしろメリットのほうが多いように感じる。日本本社に属さず中立的立場を保っている社外弁護士を起用するなどの工夫をすれば、日本本社側にとっては中国の法律知識と言語面での問題をクリアすることができ、ホットライン設置のメリットをより効果的に引き出すことができる。

以上の方法及びポイントはあくまでも筆者が経験した実務を通じ、一般的な例として紹介したものに過ぎないが、基本的な構想の一助となれば幸いである。

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虎門中央法律事務所弁護士 殷宏亮(いん・こうりょう)

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虎門中央法律事務所 世澤外国法事務弁護士事務所(外国法共同事業)所属の中国弁護士

2002年中国吉林大学法学部卒業、2007年一橋大学大学院修士課程修了(法学修士)。現在、来日18年目となり、東京と上海を主な執務拠点としている。

日中間の投資案件、M&A・企業再編、債権回収、渉外紛争解決などを幅広く担当。コンプライアンス分野では、数多くの日系企業向けに中国におけるコンプライアンス体制の整備及び教育を実施しており、コンプライアンス違反への対処に豊富な実績を有する。