虎門中央法律事務所弁護士 陳軼凡

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中国――人員削減の原則、事前準備及び実施について

今回からは、5回にわたり、中国に関する様々な法令及びその運用を取り上げていきます。

日本企業にとっては、中国への進出と中国現地法人の縮小・撤退、両方同時に検討する時期が来ています。当職も、数多くの日本企業からの依頼により、中国現地法人の人員削減案件に携わった経験を有しています。本稿においては、こうした経験を踏まえ、中国現地法人の縮小・撤退を実施するに当たって、必要不可欠とされる人員削減の原則、事前準備及び実施について、その概要を説明させていただきます。

一、人員削減の三大原則
――「合法、合理、合情」を了得する

人員削減方案については、厳格に法に従っ
て策定し実施すること、そして相対的に「公
平かつ合理的」であることを基礎として、対象従業員の「感情」を読むことが求められ
る。

二、人員削減実施前の準備

1、対象企業の人事雇用状況に関するデューデリジェンス

人員削減方案を作成するにあたって十分な情報を得るべく、現状と予測されるリスクを分析しなけれが含まれる。

(1)対象従業員の基本情報の掌握。これには、年齢、勤続年数、会社勤務年数、少なくとも前12か月間の賃金データ、就業部署、法定特殊事由の有無、業務上の負傷又は職業病が発生したことがあるか、他の従業員との間に親戚又は夫婦関係が存在するか等を含む。

(2)規則制度の内容審査。就業規則、賃金規定等の規則制度について審査をし、法律法規と齟齬のある内容の有無を確認し、これが人員削減に及ぼす影響を評価する。

(3)従前の労働者使用過程における瑕疵の診断。例えば社会保険の過少納付・納付漏れ、時間外労働賃金の計算間違い等といった、コンプライアンス違反の状況が存在することがある。

(4)従業員の心理状態の把握、特殊事由のある従業員についての精査。企業の経営状態や人員削減の決定はすでに従業員の耳に入っている可能性が高く、従業員の心理状態を理解することも方案の策定と実施にとって有利に働く。このほか、一定の人望がある従業員又はいわゆる困り者といった特殊事由のある従業員の存否についても精査することが望ましい。

(5)従前の操業停止・ストライキの把握。人員削減の過程で過激行動が生じうる可能性を予測するためのポイントの一つである。

(6)労働組合及び従業員代表大会の状態の把握。労働組合が実際に機能を発揮しているか、集団労働契約を締結したことがあるかを含めて確認する。

(7)同じ業種、同じ地域における人員削減方案の把握。従業員は自社の人員削減方案の合理性をはかるにあたり、自分が知る範囲での他社の人員削減方案を基準の一つとすることが非常に多いことから、事前にそのの相場動向を知る必要性も高い。

2、法的根拠の確定

人員削減方案に携わる場合には人員削減の法的根拠を必ず明確にしておかなければならず、そうでなければ違法な人員削減となるリスクに見舞われる。法的根拠の判断にあたっては、対象企業の実情に基づく必要があるのみならず、対象会社の人員削減行為に更なる合法性をもたせるため、関連する法的根拠から関連する事実を逆に確定する必要もある。また多くの場合、人員削減方案には複合的な根拠が採用され、例えば、協議解除+ 一方的解除の形をとる。しかしながら、いずれにせよ必ず法的根拠を明確にしなければならないと同時に、当該根拠は必ず対象企業の実情に適合しなければならない。

3、人員削減方案の設計

人員削減方案の中核的内容となるのは経済補償方案である。補償方案については、厳格に法定基準に従い法定経済補償金を計算するほか、多くの人員削減事例において、企業は対象従業員と合意解除する目的を果たすために、法定基準に一定の補償を追加している。通常、法定経済補償金を超える部分には2つのスタイルがある。1つは逓減型であり、もう1つは逓増型である。いわゆる逓減型では、企業は往々にして協議期間を定める。かかる協議期間において補償金の総額は時間が進むにつれて段階的に逓減していく。言い換えると、より早期に合意するほど補償金の金額が高くなる、ということである。一方、逓増型はその名のとおり、双方が協議を進めるにつれて補償金の金額を徐々に引き上げ、これをもって最初に申し入れた金額よりも高い金額で労働契約を合意解除する。

金額で労働契約を合意解除する。経済補償方案のほか、安定配置方案も設計して、企業のヒューマニゼーションを体現するとともに、より対象従業員に受け入れられやすくするケースも見られる。よく見受けられるものには、一定の年齢に達した従業員を対象にする早期退職方案、再就職支援方案等がある。

4、労働行政部門とのコミュニケーション実務では、人員削減方案に関する当地の労働行政部門の意見を事前に求めておくことが望ましい。この後の人員削減の実施段階において有利に事を運ぶことができるからである。しかしながら、準備段階における労働行政部門とのコミュニケーションには、秘密保持原則を守るために、情報開示のタイミングに注意する必要がある。

5、中国各地域における風土と人情の違い、党又は中央政府の政策理論等の、従業員の「感情」に影響を及ぼす細部事項について事前に探っておく。

三、人員削減の実施

1、前段階の配置と準備実施段階の準備作業は次のように分けることができる

(1)補償金、賃金等のデータを再度計算し、データ計算の正確性を確保する
(2)すべての関連する書面文書をプリントアウトし、装丁する。
(3)人員削減実施当日の実施担当を手配する。
(4)当地の労働行政部門とのコミュニケーションを保つ。
(5)突発的事象の事前対策案を策定する。

2、正式発表及び実施

(1)労働組合又は従業員代表との協議
事前に情報漏洩せずに行うこととのバランス上、提案している対応方法は次のとおりである。

A=人員削減方案の発表と同時に、労働組
合及び全従業員に対し人員削減に係る経済補
償方案を発表し、相応の協議期間を設ける。

B=事前に従業員代表の名簿を確認してお
く。前もって従業員代表を選出し、選挙に係る予備方案及び関連文書を作成しておく。

(2)勤務継続の要求

人員削減方案を発表した後、従業員から企業の他の部署での勤務継続を求められる可能性がある。これについては、人員削減方案の発表時に適切な表現(穏やかな言葉遣い)で企業の人員削減方案の合理性及び合法性を十分に説明するべきである。

陳軼凡虎門中央法律事務所・世澤外国法事務弁護士事務所(外国法共同事業)所属の中国弁護士、外国法事務弁護士(中国法)。
1990年蘇州大学卒業、2001年中央大学大学院卒業(法学修士)。主に外商投資やM&A、債権回収、労働法、渉外紛争解決に関する業務を幅広く担当。労働法分野においては、これまでに何十社にも及ぶ企業再編、閉鎖において、補償金案やリスク予測を含む具体的な運用・法的アドバイスを提供し、多くの日系企業の労働争議や労務リスクに関する案件を迅速に処理した実績を有する。