リーガルコーナー箭内 隆道弁護士

虎門中央法律事務所弁護士 箭内 隆道

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私は2018年3月まで約2年間、法務省から受託した「(インドにおける)日本企業及び邦人を法的側面から支援する方策等を検討するための調査研究」のため、インドに滞在していました。

同研究の報告書は法務省のホームページ(アドレスは上記経歴欄参照)で公開されており、インドの法制度の概要等も確認いただけます。また、今後情報をアップデートした改訂版も作成する予定ですので、ご注目いただければと思います。

さて、私自身は本帰国して1年が経ちましたが、情報のフォローも続けていると、インドにおける変化のスピードは、相変わらず法制度についても非常に速いものだと、当時も今も感じ続けています。

例えば、インドで会社を設立する手続は、すべてオンラインで行うことができます。私のインド滞在時も既にそうだったのですが、当時は、オンライン手続のための電子署名認証を取得した後に、取締役就任予定者の識別番号を取得し、希望する会社名の審査を受けた上で、そこから会社設立申請をする、という、順を追っての手続でした。また、設立後には納税のための番号を取得する手続等も必要でした。

しかし、今日では、電子署名認証を取得すれば、上述した必要手続が、全て一通のオンライン申請書でできることになったのです(「Form No. INC-32」という書式があります)。インド政府が「インドでは今や一日で会社が設立できる」「費用も低廉」と広く喧伝している所以です。

このようなオンライン申請を整備し、のみならず、検索性に優れ且つ頻繁な改正の箇所も一目でわかるように作られている条文集「e-book会社法」などの、使えるツールが揃っている、インド企業省(MCA: Ministry ofCorporate Affairs)のホームページは、こちらになります。

また、いわゆるFDI(Foreign DirectInvestment:外国直接投資)に関する規制も、大きく変わりました。私の滞在開始当時は、外国投資の可否を審査し承認するための外国投資促進委員会(と訳されていた機関)が存在しており、ここに申請を出したが、その後全然動きがない、という困った事態もよく生じていたようでした。それが、2017年には同委員会は廃止され、代わりにFIFPというポータルサイトが設けられ、申請がこれに一本化されたのです。

同サイトには、関係省庁が申請を処理するタイムリミットも明確に規定されています(最大10週間で承認手続が完了するとされています)。のみならず、そもそも承認が必要な事業分野や出資条件がどんどん緩和されてきています。例えば、「無印良品」がインドに進出した当時は、同社の業態である「単一ブランド小売業」を行おうとすると通常はインド政府の承認を得ることが必要でしたが、18年には外国からの100%出資でも承認手続は不要(「自動ルート」と呼ばれます)になっています。

申請手続を含め、外国直接投資の情報が得られるFIFP(Foreign Investment FacilitationPortal)はこちらです。

オンライン化で手続きはスムーズに

このように、オンライン化が進むことの利点は、利便性の向上のみならず、役人の介在なく手続を進められること、具体的には、対応が人によって違い過ぎるとか、(ちまちました)賄賂を要求されるなど、長く「インドあるある」として語られてきた弊害の余地が封じられることにも見出せます。(なお、インドでの汚職については、私が2017年時点で実施した日本企業アンケート結果においても多数の実例が確認されています。冒頭の報告書をご参照下さい。)

これも例を挙げると、日本人が雇用ビザでインド駐在を開始するにあたっては、入国から2週間以内に外国人登録を済ますことが法律上義務づけられており、違反には罰金が科されるのですが、私のインド滞在当時は、FRROという機関を訪問して手続をする必要があったところ、一日中待たされた挙げ句にわずかな誤記だけで「明日やり直せ」と命ぜられたり、一向に手続が進まず早くしてもらうためにはエージェントを通じてお金を渡すしかないらしいと思い悩んだり、非常にストレスを感じる手続で、これをいかにスムースに乗り切るかはインド滞在開始者の一大関心事でした。

しかし、昨年から、主要都市では「E-FRRO」というサイトが整備され、外国人登録についてもオンライン申請が可能になり、窓口に一回も行かずに登録を完了できることになったのです。私が見聞きする限りこれを利用した日本人の評価も上々のようです。(もっとも、オンライン申請したのに全くレスポンスがなく、さすがに役所に行き調べてもらったら、サーバーがダウンして処理が止まっていた、ということも最近あったようで、「日本の感覚では予想できない事態」というのは引き続き生じ得るようです)

法改正も頻繁

そして、手続面のみならず、法内容の改正も頻繁です。

例えば、インドでは新しい破産法が16年12月に施行され、これは名称こそ「破産(Insolvencyand Bankruptcy)」ですがその実質は日本法で言えば会社更生法に近く、いわゆるディストレス投資の新たな舞台として、(日本企業を含めて)活用されているのですが、早くも18年には、法律自体に重要と言っていい改正が行われました。

この破産法は日本法に比して債権者が申立てて開始決定を得ることが非常に容易な制度設計となっており、ここから、日本においては債権回収が精通分野の一つである私としても、これを直接的な債権回収手段としても活用する(手続開始決定に伴う経営権剥奪のプレッシャーのもとに任意弁済を心理的に強制する)ことも積極的におすすめしており、実際、開始決定後に全額弁済を受けたら手続を取り下げることも実務上認められていました。しかし、今回の改正で、取下げには債権者委員会の90%以上の同意が必要という制約がもたらされました(私個人的には残念なことではありました)。ただこのことを含め、制度の本来的な活用を促進するための法改正(条文解釈上の疑義をなくす、更生計画をより承認され易くする)のスピード感は、日本以上だと感じます。

なお、破産法関係で思い出す、これもインド的だなあと感じたこととして、私は日本で言えば「公的な管財人研修」に当たる席にオブザーバー参加させていただいたことがあるのですが、研修内容として、更生計画作成のための細かな知識はもちろんですが、それ以上に、管財人に何より必要な資質として「コミュニケーション能力」が非常に強調されており、債権者の同意を得るための説得など、交渉術的な講義に熱が込められていたことも、とても印象に残っています。

以上、第1回は雑駁な情報紹介でしたが、本稿で言いたいことは、インド的な感覚に個人的に共感するかはともかく、日本以上に発達しているインターネット利用がインドのあり様にも確実に影響を与えていて、また、法改正は頻繁でフォローは大変ですがルールの明確化自体は常態的に意識されている状況にあり、それは、総じて臨機応変より予測可能性を重視する傾向の強い日本人にとっては、ビジネス環境として歓迎すべき状況だろう、ということです。

次回以降、当研究所は「双方向シンクタンク」がモットーということで、インドの法制度について筆者はひととおり調査しておりますので(また、調査結果が全て公開されているわけでもありませんので)、ご関心等のある分野・トピックなどございましたら、リクエストなども頂戴できましたら幸いです。

やない たかみち 1994年3月、早稲田大学法学部卒業。2000年10月に東京弁護士会登録、虎門中央法律事務所入所。16年から18年3月まで、法務省受託事業「(インドにおける)日本企業及び邦人を法的側面から支援する方策等を検討するための調査研究」のため、ニューデリーをはじめインド各地に滞在した。

同調査研究報告書(法務省ホームぺージ)
http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00186.html

インドでの調査や生活を綴ったブログ
http://takamichiyanai-india.blog.jp/