コロナ禍から立ち直った中関村――AI、5Gの研究開発をけん引
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■陳言 毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー、日本企業(中国)研究院執行院長
1960年、北京生まれ。82年、南京大学卒。82-89年『経済日報』に勤務。89-99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99-2003年萩国際大学教授。03-10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。現在は「人民中国」副総編集長も務める。
10月初めの国慶節ゴールデンウイーク中に旅行に出掛けた中国人は6億人余だったが、山東省青島で院内感染から数例の新型コロナウイルス性肺炎患者が出たほかは、中国本土の他の地域で患者は発見されていない。
コロナ感染をうまくコントロールできたことによって、中国経済の発展には長期的な停滞現象は今のところ起きていない。今年の国内総生産(GDP)は、第1四半期はマイナス6・9%だったものの、第2四半期はプラスに転じて3・2%、第3四半期は4・9%だった。通年でも2%前後の成長が維持でき、大きな問題にはならないようだ。来年を展望すると、国際通貨基金(IMF)は中国経済が8%の成長を実現すると予測していた。今年の成長率がコロナ禍当初の予測を上回って、かなり高い上げ幅を実現していることから見て、来年は8%の予測値は実現できないにしても、中国にとって好ましい成長を達成できると言えよう。
マクロ経済の安定は北京・中関村の発展にも好影響を及ぼしている。ここでいくつかのデータから中関村の投資特性と状況をみてみよう。
中関村指数からみた全体状況
日本の読者の多くは中関村指数(ZHONG GUANCUN INDEX)をご存じないと思う。この指数は北京市統計局が策定。北京市のハイテク産業の発展状況に関する総合的なデータをまとめたもので北京市のハイテク産業のレベルを総体評価している。2005年1月14日、北京市統計局が初めて発表した。この指標は以下の5分類の指数で構成されている。経済成長率指数、経済効益指数、ハイテクイノベーション指数、人的資源・資本指数、企業発展指数である。
各分類はさらにそれぞれ三つの指標から構成され、合わせて15指標からなっている。今年10月20 日、北京市統計局は最新の中関村指数を発表した。それによると、この指数は徐々に上昇し、昨年222・4に達し、最近5年は年平均17・2上昇した。
その中で双創(創新創業)生態指数は375・9で1位だった。第13期5カ年計画(「十三五」、16~20年)期間には年平均27・9上昇した。イノベーションけん引指数は強含みで258・0に達し、「十三五」期間は年平均31・8上昇した。高質量発展指数と開放協同指数は急速に伸び、それぞれ180・2、178・7で、「十三五」期間にはそれぞれ11・0、10・7上昇した。また住みやすさ・働きやすさ指数は安定的に推移し、119・2に達し、「十三五」期間中は年平均4・8上昇した。
中関村指数から見て、中関村はけん引型、開放型の高質量発展状況を示し、持続的にイノベーションが推進されていることが分かる。
中関村に対する研究開発投資は巨大で成果も豊富
中関村は科学者が集中し、企業イノベーションが活発だという特長を備えている。地理的な位置では北京市海淀区に限らず、同市豊台区等にも中関村工業団地がある。本稿では中関村を北京で中関村の名前を冠している工業団地に拡大してとらえている。科学技術のトップクラスの人材が中関村の基礎研究を支えている。昨年時点で、ここには「世界トップクラスの科学者」194人が在籍し、中国全体の5分の1を占める。また21人は中国国家最高科学技術賞の受賞者が中心で、全国の6割を占めている。起業に対する投資の伸びは急速で、昨年の中関村企業のR&A投資額は1107億9000万元(約1兆6600億円)で前年同期比21・4%増、また、69社が欧州連合(EU)の「世界研究開発投資トップ2500企業」に選ばれ、全国の7分の1(13・6%)を占めた。
昨年、中関村のPCT特許出願件数は4638件だった。また技術提携成約額は約4000憶元(約6兆円)で全国の17・6%を占めた。北京および中関村の71プロジェクトが国家科技賞を受賞し、全国の29・7%を占めた。
世界的な科技の前戦に向かって、中関村は人工知能(AI)、集積回路(IC)設計、第5世代移動通信システム(5G)、グラフェン材料調整等の多項目の分野における新技術イノベーションで、世界と足並みをそろえ、中にはリードしている項目もある。汎用人工知能(AGI)の異種混合ICチップ-「天機チップ」、世界最小の5Gクラウドベースステーション、25チップ4インチグラフェン単結晶ウェーハ整備を実現するなどの方向に向かって世界に先駆けた研究開発を行っている。
国家的な重要な需要に応じて、中関村企業および機関は、LED表示駆動チップ、デジタルパフォーマンス・シミュレーションシステム、量子ドットスペクトルセンサー等の広範な新技術を研究開発している。新型コロナウイルス性肺炎関連のCT検査AIシステム、AI検温システム、防疫ロボット、無接触AIエレベーター等の200社余の科技関連製品が感染症対策にコアの支援を提供した。
昨年、中関村ハイテク企業の総収入は6兆6000万元(約99兆円)で、全国ハイテク新区の6分の1を占めた。また、1兆400万元(約15兆6000億円)の付加価値増を実現し、これは北京全市の29・4%を占め、前年を1・9ポイント上回った。
多数の企業、人材が中関村に定着
昨年末時点で、中関村の電子情報、バイオメディカル等の6大技術分野の総収入が全体の8割以上を占め、ベンツ新エネ自動車工場、小米(シャオミー)未来工場、衛星研究開発製造基地‐AI衛星工場等の重点プロジェクトが立地した。中関村のAI、IC,バイオメディカル等の優勢産業は全国的な発展をリードしている。
もっと多くの人材が中関村に来てその能力を発揮してもらうために、ここでは特に企業のふ化能力-インキュベーション能力に力を入れている。今年8月末現在で、ここには149カ所の国営のハッカースペース、42カ所のコア科技インキュベーター、15の科技成果活用基金がある。また5G+8K動画実況放送、「天璣(大熊座フェクダの中国名)」整形外科手術ロボット等の多数のイノベーション新成果の応用が実現している。
イノベーション、スタートアップの活力に満ちている。昨年、モデル区では毎日71社の科技企業が誕生した。またモデル区の93社が胡潤(ルパート・フージワーフ)研究院の「2020世界ユニコーン」に選ばれ、全国の4割を上回った。
昨年末現在で、モデル区には留学帰国者、外国人スタッフが5万3000人いて、「十三五」期間中に1万7000人増加した。多国籍企業63社の本社――例えば、日立研究開発公司、NTTdocomo研究所、ダイムラー中国産業創新基地、チリ在華技術創新センターは全部中関村にある。
筆者は筑波研究学園都市等の日本のイノベーション集積地を取材したが、これほど巨大な規模、人材集中、企業集合の工業団地は見たことがない。今年1月以降のコロナ禍期間中、中関村もこれまで見たことがないほど静まり返っていたが、中国の他の地域に比べて、回復が早く、そのスピードも速い。日本にも中関村のようなイノベーション、生産、科技先進の地域で経済が発展した地域を造成すべきではないだろうか。
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