陳言の中国「創新経済」

輸入代替戦略で解決できない中国の半導体問題

半導体チップの「追いつき追い越せ大競争」の潮流の中で、大規模チップ生産メーカー、武漢弘芯が8月下旬、突然、資金ショートにさらされた。

同社の半導体プロジェクトが2017年末に設立された時には、業界を震撼させたものだった。1280億元の投資を呼号し、世界の最高級半導体企業家の台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)のトップを歴任した、中芯国際集成電路製造(SMIC)の蒋尚義氏をヘッドハンティングして、14ナノメートル・プロセスを主力に、生能力は月産3万個に達し、さらに1年後には7ナノメートル・プロセスでTSMC、サムスンを上回ると宣言している。比べてみると、SMICは2020年末にようやく7ナノメートル・チップの量産を実現できるというものだった。

そうした状況から言えば、今回の資金ショートは外部から見て、極めて突然のことであった。しかし、武漢弘芯の株主構成に注目すると問題点が明らかになる。同社の株主は2者だけで、北京光量藍図科技有限公司と武漢臨空港経済技術開発区工業発展投資集団有限公司(地方国有資本)で持ち株比率は各90%と10%。しかも、北京光量藍図はまったく出資しておらず、武漢臨空港経済開発区の方は出資額2億元を納付しており、プロジェクトには一貫して政府が金をつぎ込んできたといってもよい。北京光量藍図は武漢弘芯が設立される13日前に設立され、事務所は北京の50平方メートルの住宅兼用の一室に置かれ、その大株主は李雪艶という女性である。彼女はエコテクノロジー、酒の販売、レストラン経営、造園業、さらに漢方薬まで売ったことはあるが、チップだけは扱ったことがないという。

昨年12月、高度な半導体製造機器の導入を祝って 武漢弘芯が開いた記念式典

このようなやり方は中国では目新しいものではなく、資金チェーンさえ途切れなければ、「風通しの良い」業界なら政府が投入する初期資金があり、政府保証があり、さらに市場から金を引き出すことができ、プロジェクトの運営が続けられることに差し支えることはほとんどないという。半導体チップにかかわるスキャンダルが頻発する中国では、半導体の自立を国策として目指してきたが、いっこう実現せず、その背後にあるのは、半導体輸入代替政策の難しさなどがあるが、半導体の自立ができないことは中国の工業生産体系のもっとも脆弱の現れであろう。

チッププロジェクトの中断

実のこところ、チップ業界において、とりわけ現在では、このやり口は通用し難いものとなっている。2016年、世界第2位のチップメーカー、グローバル・ファウンダリーズが中国にやって来た。中国のいくつかの大都市が激しい誘致合戦を行ったが、最終的に成都に決まり、社名はグローバル・ファウンダリーズの中国語の音訳(格羅方徳)から「格芯」とした。2020年5月、100億ドル投資が見込まれた成都格芯は経営状況を理由に、完全に操業を停止した。同社もTSMCの7ナノメートル・プロセスを後発追跡していた例だが、巨大な支出はアラブ首長国連邦(UAE)ソブリン・ウエルス・ファンドのような株主でも重い負担に耐えられず、世界的な版図縮小の流れのなか、成都格芯は捨て駒となった。

これはチップ産業自体の投資が巨大であり、「追いつき追い越せ」が非常に困難で、資本ゲームに依拠するばかりでは、短期間に産業チェーンを集積し、成熟した企業を育成するのは極めて困難なためである。まして、現在、国際技術移転の情勢が非常に厳しく、SMICのような企業でさえ、極めて大きな不確実性に直面している。まして、資本や「得意なやり口」に頼って設立された企業は言うまでもない。そこで、武漢弘芯が行き詰まって中断することは想定外ではあるが、必然であるともいえる。

行き詰まって「中断」するという、似たようなドラマは南京と淮安でも発生している。南京の徳科碼(TACOMA)半導体科技と淮安の徳淮(HiDM)半導体だ。さらにさかのぼれば、中国のチップ製造運動における傷、偽物を作ったDSP「漢芯」、失敗したRISC CPU「方舟」もあった。

玉石混淆の国家出資事業

かつて情報技術(IT)に造詣の深い人が「国家の力で移動操作システムの自主開発を支援すべき」として、「それはつまり、国家が出資し、種まき時期のプロジェクトに投資することであり、1年間に市場に1000億元をばら撒き、5年間は金を出し続け、大失敗も容認すれば、最終的には成功するものだ」と主張していた。こうした発想は、中国のハイテク産業では広く受け入れられている。

「政府資金の投入」が一つの産業生態系(エコシステム)を真に作り出すか否かは別として、それがもたらす巨大な利益が魅力的であることは間違いない。玉石混交であり、当然、雲泥の差がある。失敗例は数多く、新エネルギー車を例に挙げると93社中72社が地方政府の補助金を受けており、その額は92億7000万元に上った。

現在、こうした昔話がチップ業界でまん延し始めている。今年の年初から、中国の大都市都市から地方でほとんど名前もあまり知られていない都市まで、チップ製造のブームが巻き起こっている。今年上半期、江蘇、安徽、浙江、山東の24市で、すでに20件以上の半導体プロジェクトの契約が調印され、契約金額は1600億元に達している。これは1958年の全国民が参画した大製鉄・製鋼運動を想起させる。「中国モデル」の名のもと、こうした茶番劇は永遠になくならない。

過度の「バブル」批判は禁物

しかし、喜ぶべきは、現在は1958年当時とは異なり、市場メカニズムというものが存在することだ。こうしたプロジェクトの「中断」というようなケースでは、政府は投資したものの、その損失は実際にはさほど大きくはない。1000億元投資するとされていた武漢弘芯に、政府は最終的に投資していたのは2億元だったが、家屋などの資産は手元に抑えてあるので、別途使い道がある。

ある程度において、市場メカニズムによって、各方面が余りに深すぎる穴に陥ることはないようになっている。つまり、政治任務がすべてを抑え込み、国家が全ての資源を調整、配分する時代ではなくなり、企業の経営では、政府、銀行、建設サイド、労働者、技術チームなど各方面、各セクションに金をつぎ込む必要がある。金がなくなり、資金ショートしたら、全てがストップしてしまう。良品率の極めて低いチップを出すことや、市場で売れないチップを出すなどということはあり得ない。言い換えれば、全国民がいたるところで使い物にならない鉄を作った1958年のようなことを繰り返すことは、もはやあり得ないということになる。

そういうわけで、チップに対する政府を含む各ルートの資源投入は、ある程度において、それ自体は大問題ではない(民間では「大チップ運動」と冗談めかして言っている)と言える。市場はバブルを免れ難く、いわゆる「繁栄のバブル」は正常とも言え、1958年の「大製鋼運動」との本質的な違いは、チップ自体が国際市場にはめ込まれていることだ。

輸入代替にも許すべき事情

チップの「追いつけ追い越せ」戦略は本質的に輸入代替戦略の一部である。いわゆる「輸入代替戦略」は「内向型発展戦略」ともいうが、自国製品を輸入品の代替とし、国内市場を国内生産者の供給で完全にまかない、この戦略によって経済的な自主独立を実現する。普通、輸入代替は工業製品の輸入を主体的に制限することによって国内の関連産業の発展を促すことを指すが、ある状況下では、輸入できないことで招いた結果かもしれない。

これに対して、輸出先導戦略(別名輸出代替ともいう)は、外向型経済発展戦略の産物であり、一国が各種の輸出拡大策を取り、輸出産業を発展させ、次第に軽工業製品輸出で初級製品輸出を代替し、重工業、化学工業製品輸出で軽工業製品輸出を代替し、それによって、経済発展をもたらす。一般的には、次のように認識されている。第二次大戦終結後、各国の経済活動は、輸入代替は国内の自国の労働生産性向上や工業技術進歩に不利であり、長期的にみると、こうした戦略は市場の資源配分を歪曲し、特定の産業分野の製品輸出に不利なだけでなく、その国の経済発展にも不利なことが証明されている。中国が現在直面している特殊な状況下では、輸入代替を実行する必要がある。まず、米国の厳しい圧力、チップ提供中止で、自国生産に切り替えたが、これは直接的な反応だった。次に、データから見て、中国側にも輸入代替を実現すべき十分な理由があることだ。中国税関総署の統計によると、2019年の中国のチップ輸入総額は3040億ドルで、前年同期比80億ドル減、同2・6%減だった。国務院が発表した関連データによると、中国のチップ自給率は2019年、わずかに30%前後。すなわち、簡単に出せそうな結論は、チップを自国生産すれば、「首を絞められる」心配がなくなるだけでなく、3000億ドル余の外貨を節約できるというものである。事態はそれほど簡単ではないものの、もしそうなれば、それに越したことはない。

パートナーの信頼が鍵

多くの人が気づいていないのは、中国が輸入しているチップのうち、自ら消費しているのは一部のみで、世界の工場として、大部分のチップはスマホ、ネットワークスイッチ、無線基地局などの形で、改めて国外に輸出しているということだ。つまり、中国が輸入しているチップはかなりの程度、輸出用であるということでもある。

チップは、核兵器、人工衛星、ロケットのようにただ製造すればよく、売る必要はなく、もともと自国が使用するためのもので、コストを度外視してもよいというのとは違う。チップは、コストが引く性能が良くて初めて、市場競争力を持ち、売り上げが伸び、チップ製造の本来の目的を達成することができるものだ。従って、輸入代替戦略の後には輸出問題の解決が待ち受けている。

チップはある種の「ブラックボックス」製品であり、外部からはその内部がどうなっているか分からない。しかも、情報流通にかかわる商品であり、大量の情報、あるいはコアな情報がチップを通して流出するかもしれない。だから、各国間、産業チェーンの各セクション間の基本的な信頼関係構築が必要であり、こうした信頼関係には産業チェーンパートナーの保護が必要である。これが、華為技術(ファーウエイ)の最高経営責任者(CEO)である任正非氏が「首を絞められた」後、濃密な民族主義的な雰囲気の中に置かれても、依然として「われわれは米国製チップを軽率に、狭隘な気持ちで排除することはなく、自国製のチップが低コストでも、今後も依然として米国製チップを購入する。われわれは世界で孤立してはならず、同一歩調で成長しなければならない」と言い続けている理由である。これはある程度、産業チェーンパートナーの裏書のためであり、ファーウエイのスマホに国際化のイメージを植え付け、国際市場でスムーズに販売するためである。また、仮に輸入代替戦略が技術的に成功しても、以下のような困難に遭遇するとも言える。純国産チップを搭載し、産業チェーン上、完全に他国の産業チェーンからデカップリングした製品は、産業チェーンパートナーの裏書きがないため、間違いなく世論から疑いの目で見られ、パブリックリエーションの面で攻撃され、しかも反駁することが難しい。一度こうなると、市場でも阻害される。さらに、各国の市場参入制限を受けるのは言うまでもない。チップ供給制限と市場参入制限で、前者は生産できなくなり、後者は売れなくなり、本質的にどちらも同じ結果を請来する。

解決できない市場問題

ハイテク製品は製造するだけでなく、市場で競争力があり、金を稼ぎ出すことで、ようやくイノベーションサイクルに入ることができる。従って、いかなるハイテク企業でも市場シェアから離れることはできない。世界の主要市場からデカップリングされると、販売高、利潤の支えが足りなくなり、チップ研究開発への投資に限界が生まれ、更新交代が遅くなり、仮に一時的な技術優位性があっても、次第に追いつかれ、もともと存在する技術格差が、徐々に拡大し、ついに競争力を失うことにさえなる。

従って、チップ産業の真の問題はチップ製造にあるのではなく、製造したチップを搭載したスマホ、ネットワークスイッチ、アクセスポイントなどが売れるか否かにある。市場さえあれば、ゼロからスタートしたとしても、中国人の知恵をもってすれば、恐らく20年で追いつくことができるだろう。しかし、もし市場がなければ、技術イノベーションサイクルは水源のない流水に過ぎず、追いつき追い越せの大きな野心があっても最終的に無に帰することはもはや免れない。

もし、米国と、西側と、世界と、中国の関係が現在のままのトレンドで推移すればますます緊張が高まり、事態はさらに芳しくなくなり、「デカップリング」ないしは、「一つの世界に二つのシステム」の状況が形成されることとなる。そうなると、中国が想定する市場はどこにもなくなってしまう。だから、中国のチップ産業は単に輸入代替戦略に頼るだけでは、問題解決からはほど遠いものとなる。

■陳言 毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー、日本企業(中国)研究院執行院長

1960年、北京生まれ。82年、南京大学卒。82-89年『経済日報』に勤務。89-99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99-2003年萩国際大学教授。03-10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。現在は「人民中国」副総編集長も務める。