陳言の中国「創新経済」

日本企業は上海に集中しているが・・・北京は近い将来GDPで上海を追い越す

湖北省で数兆円の経済損失?
情報は統制できてもウイルスは統制できず

本稿執筆中の1月28日、中国湖北省武漢の新型コロナウイルスによる肺炎が白日の下にさらされた。この日になって中国の地方指導者は、情報の伝播は行政権力、警察力で阻止できるとしても、ウィルスの拡散はごまかしではコントロールできないことを思い知らされたに違いない。感染隠ぺい、報道規制は武漢市政府、湖北省政府のみならず、全中国に、さらには世界中に影響を拡散し、中国共産党武漢市委員会書記、市長の想像を遥かに超える大過を醸成した

1月1日は中国でも新年だが、この日は単に1日のみの祝日に過ぎない。それに比べ1月25日の春節(旧暦の正月元日)こそ、中国人にとって新年だ。1月1日、中国中央テレビ局(CCTV)は武漢市で任意の事情聴取を受けた8人の「デマ拡散」に関するニュースを特報した。この8人はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて、「武漢で原因不明の肺炎が発生した」と伝えたのが事情聴取の理由だった。2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)を知っている人は、直ぐに、新型肺炎発生の可能性を思い浮かべた。しかし、CCTVが武漢市政府サイドに立ち、「デマ」の拡散を封じ込めた。人々はメディアを通じて、1月18日に、武漢で4万世帯13万人が参加する春節イベントが開催され、武漢市政府が30万枚の遊園券をばらまいたことを知っている。

しかし、残念なことに1月21日になると、武漢市政府も新型肺炎情報を流さざるを得なくなり、22日には武漢市封鎖に追い込まれた。もし、SNS情報を受け入れ18日に13万人が参加したイベントを中止していれば、状況は違っていたかもしれない。

筆者の仲間たちの中国SNS、微信(ウィーチャット)上のメッセージの多くは、今年の春節休暇は家に閉じこもり、出掛けた人は少なく、レストランで会食をした人はほとんどいなかったことを伝えていた。北京で春節を過ごした筆者が見たのは、街の明かりはにぎやかだが行きかう人は少なく、SARS危機の再来のような街の姿だった。

今年の中国経済が6%の成長率を保証できるか否か、このテーマは昨年末に大きな議論を呼んだ。そのさなかにいくつかの微信サイトから、武漢での新型肺炎発生から数日の間に、湖北省の経済損失は地域国内総生産(GDP)で4兆6000億元(約74兆6000億円)が見込まれる(泰和財経『数兆元が雲散霧消:肺炎事件から地方高官の基本的な素養がうかがわれる』、1月27日)という推計が広がった。昨年の中国のGDPはおおむね100兆元(約1600兆円)である。湖北省の4兆6000億元は少ない額ではない。湖北の損失は今年の中国のGDP100兆元超えに大きな困難が待ち受けていることを意味している。

さて、ここで本題に入り、北京がGDPなどで上海を上回り始めていることを紹介し、その理由を探ってみよう。

北京は上海を急速に上回る

日本企業の中国における経済活動を観察すると次のような特徴に気が付く。日本企業はかなり多くの経営主体を上海に集中し、北京は首都というだけで、日本企業が特に重視する都市にはなっていないことである

例えば、北京の中国日本商会の会員企業はおよそ700社で、上海は2500社前後である。駐在員数、出張者数、観光客数でも上海が北京を上回っている。日本企業関係者と話していて感じるのは、北京よりも上海について詳しく知っている人が圧倒的に多いことである。ほとんどの日本企業関係者が上海の方が経済力では北京を上回っていると考えているようだ。

確かに、長い間、上海の経済力は北京を大幅に上回っていたかもしれない。

1978年、改革開放が始まったばかりの頃、当時の北京のGDPはわずかに109億元で、上海はその2・5倍の273億元だった。中国で最も日本の技術を吸収した企業は上海にあった。宝山製鉄所である。ドイツが自動車工場の立地に選んだのも上海だった。90年代、筆者は上海で、建設中のシャープのテレビ工場を見たが、想像を絶する規模だった。鉄鋼、自動車、家電では上海はもともと北京よりも強かった。首都鉄鋼所、中米合資の北京ジープ、北京牡丹テレビ工場も上海とは比べられなかった。

しかし、今では大きな変化が起きている。2019年版「中国統計年鑑」のデータから表のような北京、上海の実力差を知ることができる。

人口から見ると北京の戸籍人口は1376万人、上海は1462万人で北京は86万人少ない。

一人当たりGDPで見ると、北京は14万元(約224万円)、上海は13万5000元(約216万円)である。北京では上海を下回る86万人が生み出しているGDPは1200億元(約1兆9200億円)である。GDP総量で見ると、北京は3兆320億元(約48兆4800億円)、上海は3兆2679億元(約52兆2900億円)であり、その差は2360億元(約3兆8000億円)に達する。一人当たりのGDPを考えると、北京の方が高く、今年の北京のGDP総量が上海を上回るのは間違いないだろう。

北京が上海を上回っている最大の理由は、技術革新の密度と速度である。

例えば、2018年の国内3種の特許申請件数、授権件数を比べると、北京は21万件、上海は15万件だった。技術研究開発およびイノベーションの面でも北京は上海を上回っている。それは技術市場の成約額を見ても明らかである。同年、北京が5000億元(約8兆円)近くだったのに対して、上海は1200億元(1兆9000億円)程度で、北京は上海の4倍強だった。これらが北京の今後のGDP増加要因になるだろう。

特許、技術の主要な原動力は北京には多くの研究所、大学があることである。大学数(北京92校、上海64校)、大学教職員数(北京14万3000人、上海7万5000人)で北京は上海を上回り、学生数(北京59万5000人、上海51万8000人未満)でも多い。

上海を大幅に上回るイノベーション能力

北京のイノベーション能力は中関村を中心に次第に優勢になり、規模が優勢になり、資金収集が優勢になり、情報でも優勢になった。

北京大学、清華大学の卒業生の多くが、米国、欧州、日本に行き、研修し、就職し、その後、中関村に帰って来る。ここで起業し、あるいは関連企業に就職する。中関村には米国のグーグル、マイクロソフト等の企業、日本の日立、NTTドコモ、ソニー等の研究所があり、さらに阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)、百度(バイドゥ)の北京支社がある。

上海でも復旦大学、上海交通大学の卒業生が欧米や日本に留学し、就職していることは知っているが、彼らは数年後に帰国すると、国営企業や外資企業に就職するケースが多く、イノベーションに携わる人数は多いとはいえない。また筆者は、グーグル、マイクロソフトが上海に研究所を設立した話は聞いたことがない。かつてアリババが上海に会社を設立したことがあったが、ここでは根本的に続けられないと気付き、浙江省杭州に移転した。

今日の上海は依然として強力な製造能力を持っているが、総合的に見て、研究開発に対する姿勢は北京に比べてかなり差がついている。しかも北京が過去40年の間に、一人当たりのGDPで次第に上海を上回り、今後、GDP総量で上海を上回る見通しなのは、北京には研究開発能力があり、経済力を持続的に向上できるからである。

上海には多くの日本企業が集中しているが、これらの企業が中国でより良い効果と利益を上げられるか否か、上海の地理的な条件から見て、今こそ真剣に検討すべき時期ではないだろうか。

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■陳言

1960年、北京生まれ。82年、南京大学卒。82-89年『経済日報』に勤務。89-99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99-2003年萩国際大学教授。03-10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。現在は「人民中国」副総編集長も務める。