毎日アジアビジネスレポート6月号 公開しました――Asia Inside : 人口2億人のパキスタン―― 無限の可能性秘めたヒドゥン・ジュエル

人口2億人。アジアに残された未開拓の巨大市場――。そう言われて、即座にパキスタンという国名を挙げるビジネスマンはどのくらいいるだろうか? 世界第6位の人口大国であるばかりでなく、国民の年齢中央値は24歳。人口ピラミッドは富士山に近い型を描く、アジアでも有数の「若い国」だ。無限の可能性を秘めたパキスタン市場を紹介する。【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之】

126-flag-national日本の5倍の赤ちゃんが生まれる国 粉ミルク製造現地化で販売拡大狙う

「日本の出生数は毎年100万人弱。パキスタンはその5倍の年500万人の赤ちゃんが誕生する。人口動態的に、これだけの規模で開拓余地のある市場は他にありません」。2017年に創業100周年を迎えた

5月31日開催:「アジアの未来『食と農』セミナー」のご案内

毎日アジアビジネス研究所はNPO法人「日中環境協会」(会長・島村宣伸元農相)と共催し、アジアにおける農業と食、健康の未来を考えるセミナーを開催します。日本の農業技術を中国の6次産業化にどう活かすか、中国をはじめアジア全体で食の安全や健康問題をどう考えたらよいのかを探っていきます。参加は無料です。お申し込みの上、ふるってご参加ください。

アジアの未来 「食と農」セミナー

《主催》 毎日アジアビジネス研究所、日中環境協会
《開催日時》2019年5月31日(金)18:30-21:00(受付開始18:00)
《会 場》毎日ホール(千代田区一ツ橋1-1-1地下鉄東西線竹橋駅直結・パレスサイドビル地下1階)
《参加費》無料
《テーマ》農業と食に精通している識者によるパネルディスカッションを通じて、今後の日中の農業の課題とビジネスの可能性を探っていきます。
《主催者挨拶》
毎日新聞社ビジネス開発本部長 大坪信剛
日中環境協会理事長 宋青宜
《基調講演》 「平成の食と農を振り返る」
小島正美氏 農研機構顧問、「食生活ジャーナリストの会」代表。1987年から毎日新聞社生活報道部で編集委員などとして食、健康、環境の問題を長く担当。昨年6月末に退社。毎日アジアビジネス研究所客員研究員、東京理科大学非常勤講師などを務める。
《パネルデスカッション》 「中国の6次化農業と日本の技術ー日本の6次化はアジアに貢献できるか」
①小島正美氏
②佐藤正之氏 野村アグリプランニング&アドバイザリー取締役コンサルティング部長。 慶応大学商学部卒業後、野村総合研究所を経て現職。アグリ業界、農業法人経営、6次産業化の調査等
③趙玉亮氏 農林中金総合研究所食農リサーチ部研究員。北京大学経済学部卒業、東京大学農学生命科学研究科農業資源経済学専攻・博士課程修了。

モデレーター:毎日アジアビジネス研究所所長 清宮克良

参加申し込み

お名前、所属、連絡先電話、メールアドレスを記入の上、メールのタイトルに「アジア食と農セミナー」参加希望と明記の上、5月24日までに下記メールアドレスへお送りください。会場定員を上回った場合は参加をお断りする場合もございます。

参加申し込みE-mail送り先: asia-biz@mainichi.co.jp

お問い合わせ 毎日アジアビジネス研究所 03-3212-2494 (担当・清宮、西尾)

 

 

 

 

 

 

(会員向け)毎日アジアビジネスレポート5月号 公開しました――Asia Inside : 混乱、対立の火種消えず タイ総選挙 事実上の軍政継続か

タイで3月24日、8年ぶりとなる総選挙が投票された。5月末までには新首相が選出され、2014年のクーデター以来5年ぶりに民政移管を果たすが、新首相には現軍事政権のプラユット暫定首相が再選され、事実上の「軍政継続」となる可能性が強い。一方で「軍政反対」を訴える新党が躍進するなど、対立と混乱の火種を残したままの再出発。タイ情勢が専門の浅見靖仁・法政大法学部国際政治学科教授の見解を元に、総選挙後のタイ情勢を探った。【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之】

5月には新首相選出へ

5月4日から6日にかけ開かれる国を挙げての一大イベント、ワチラロンコン新国王の戴冠式の準備が進
むバンコク。「戴冠式前に政局が騒がしくなるのを防ぐ」との方針で、選挙管理委員会は戴冠式直後の9
日、投票から約1カ月半を経て、大部分の議席を確定させて公表する見込み。その後、5月24日に国王が選挙結果に基づく新国会を召集。新首相の指名投票へと進む見通しだ。

シリーズ: アジアの新興企業・財閥・官僚組織③ 中国 総合法律事務所「世澤律師事務所」 東アジアに独自ネットワーク 新分野へ挑戦 (一般公開記事)

アジアに進出する日本企業にとって、相手国の土地使用、外貨、税務、労務、社会保障、技術譲渡・ライセンス、コンプライアンスなど法律問題への対応は必須であり重要な課題である。シリーズ3回目は、東アジアに独自のネットワークを築いている中国の総合法律事務所「世澤律師事務所」を取り上げる。同事務所は創業パートナーの姫軍弁護士らが現場主義を貫き、日本企業はじめ欧米企業の中国進出に加え、ブロックチェーンなど新たな分野のリーガルサポートにも挑戦している。【毎日アジアビジネス研究所長・清宮克良】

ブロックチェーンサミットに参画

東京の都心にそびえる虎ノ門ヒルズで4月6、7両日、「TEAMZブロックチェーンサミット」が開催された。海外ビジネスのコンサルティング事業を手がけるTEAMZ(本社・東京都千代田区、楊天宇代表)が主催し、日中はじめ世界から延べ3000人のブロックチェーン企業関係者らが集まり、熱気を帯びたカンファレンスとなった。ブロックチェーンは管理者のいない非中央集権・分散型の幅広い情報共有を前提とした技術であり、その特性から技術活用に大きな可能性がある一方、中央集権的な管理者の存在を前提にした従来の仕組みや法律とは相違点があるのも事実だ。

seimiya1ブロックチェーンをめぐる法規制のセッションは世澤律師事務所の陳軼凡弁護士がモデレーターを務めた=写真、左から世澤律師事務所の陳氏と孫氏、虎門中央法律事務所の平野氏と望月氏。陳弁護士は2001年に文部省留学生として中央大学大学院を修了し、11年から世澤律師事務所上海支所にパートナーとして参画。14年12月、法務省の承認を受け、日本弁護士連合会の登録を行い、外国法事務弁護士(東京弁護士会所属)として日本で活動するようになった。世澤律師事務所の東京代表として、提携する虎門中央法律事務所(東京都港区、今井和男・代表弁護士)を拠点に労働法分野などにおいて豊富な経験と実績を上げている。

中国における第一人者の存在

なぜ、世澤律師事務所は最新のブロックチェーン分野に参入するのだろうか。

陳氏は「同僚の孫銘弁護士が中国のブロックチェーン関連法制の第一人者であることが大きい。将来を見据えて可能性のある分野に挑戦したい」と強調した。セッションに参加した孫弁護士はブロックチェーン技術や最先端の法律に精通し、中国国内最古のブロックチェーン投資機構「分布式資本」の法律顧問をはじめ各企業の著名なプロジェクトのリーガルサポートをしている。

seimiya2孫弁護士のプレゼンテーションによると、中国の中国人民銀行、工業情報化部、銀行会等は連名で2017年9月、「トークン発行による融資リスク防止に関する公告」を発布し、各種のトークン(既存のブロックチェーン技術を利用して発行された仮想通貨)発行の融資活動を全面的に停止するように要求した。しかしながら、中国政府がブロックチェーン産業の発展を指示する社会環境のもと、ブロックチェーン・プロジェクトの融資ニーズは常に存在し、将来的には監督管理のもと再生したICO(新規仮想通貨公開)が出現する可能性はあるという=写真、中国のブロックチェーン関連法制の第一人者である孫氏(右)と陳氏

セッションには日本の関連法制に詳しい虎門中央法律事務所の平野賢弁護士と望月崇司弁護士も参加した。望月弁護士は日本における仮想通貨交換業法制を紹介したうえで、ブロックチェーンは個人情報保護法が想定しているケースと異なる仕組みとなっていると指摘。平野弁護士はブロックチェーン上で契約を自動的に実行する仕組み「スマートコントラクト」の法的課題を説明しながら、「この分野についてさらに研鑽を深めて時代のニーズに応えていけるように努力を続けたい」と述べた。

姫弁護士は日米の法務にも精通

世澤律師事務所は北京、上海、広州、香港、東京に拠点を持ち、69人の弁護士を抱えるローファームである。特に、日本企業の中国進出撤退、中国企業との取引における日本企業の代理など中国関連の案件において高いプレゼンスを有する。英国の法律事務所評価機構「The Legal 500」が公表した2019年アジア太平洋地区中国資本事務所のランキングによると、世澤律師事務所は独占禁止・競争法、コーポレート・M&A、プロジェクト・エネルギーの領域で卓越した実績によりランクインした。

創業パートナーの姫軍弁護士は1991年に北京大学法学部を卒業後、東京大学大学院とハーバード・ロースクールで法学修士の学位を得た逸材である。日本の森・濱田松本法律事務所、米国のKirkland & Ellis弁護士事務所ロサンゼルス支所で勤務した後に帰国し、2004年に世澤律師事務所を設立した。

特に知的財産権に関する訴訟・仲裁に関して豊富な経験があり、05年にはヤマト発動機の代理人として4社の中国側被告を商標権侵害で訴え、中国の一審判決と最高人民法院の終審判決で完全勝訴を勝ち取った。これは商標権侵害が成立することの証明を成功させただけでなく、830万元人民幣の損害賠償も獲得した。同賠償金額は、今日に至るまでの中国における商標侵害事件において、外国企業に与えられた最高の賠償金額となっている。しかも、強制執行において姫軍弁護士率いる世澤チームは830万元人民幣全ての回収に成功した。同案件は知的財産法学界の専門誌、英国「Managing IP」誌で「2008年アジア太平洋地区商標重要案件」に選ばれた。

最近では17年に日清食品の法律顧問として、日清食品の香港上場に全プロセスにわたって全面的に参画しリーガルサポートを行った。

現場主義と顧客志向のDNA

seimiya3世澤律師事務所と虎門中央法律事務所は15年から外国法共同事業を実施している。両事務所の提携は姫弁護士と今井弁護士のトップ同士の信頼関係によるところが大きい=写真、姫弁護士(左)と今井弁護士。日中両国で活躍する陳弁護士は「世澤律師事務所と虎門中央法律事務所は現場主義と顧客志向という同じDNAを持っている」と述べる。陳弁護士はこれまで中国に進出した何十社もの日本企業の企業再編、閉鎖案件を手がけ、現場に足を運んで従業員の処置案やリスク予測のみならず、具体的なプロセス案まで提供し、ストライキを含む労働問題を迅速に処理してきた。

米中貿易摩擦があるものの、世界の企業の中国進出が続く中で、世澤律師事務所は日本の虎門中央法律事務所をはじめ、台湾の有澤法律事務所、韓国のLEE&KO法律事務所、香港のCFN法律事務所と東アジアの独自ネットワークを基盤にして、欧米のCMS Cameron McKenna LLPなどとも連携し、グローバル・ローファームとして地球規模で連携の輪を広げている。

 

清宮せいみや・かつよし 1983年毎日新聞社に入社。水戸支局、社会部、政治部。98年米ジョンズポプキンス大国際関係大学院(SAIS)客員研究員、その後、ワシントン特派員、政治部副部長、さいたま支局長などを経て執行役員国際事業室長。中国、インドネシア、ベトナム、ミャンマー、タイ、ロシアでフォーラムやイベントを手掛ける。2018年10月から現職。

Asia Inside : 「全人代から読む 習近平政権と中国共産党 」阿南友亮・東北大教授

 

4月号表紙

中国の全国人民代表大会(全人代=国会)が3月5日から15日まで開催された。経済減速や米中貿易摩擦を背景に、李克強首相は政府活動演説で「激動に向けた準備」を呼びかけ、実績を強調した従来の首相演説とは趣を異にした。「中国はなぜ軍拡を続けるのか」(新潮選書)の著者である阿南友亮・東北大学教授に全人代をもとに習近平政権と中国共産党の現状認識を語ってもらった。【毎日アジアビジネス研究所長・清宮克良】

 

等身大の姿

<今年の全人代で、李克強首相は今年の経済成長率目標を6・5%~6・0%と昨年よりもさらに低い数字にとどめ、「例がないほど国内で複雑で厳しい状況に直面している」と言及した。昨年の全人代では、憲法を改正して2期10年という国家主席の任期制限を撤廃し、習近平主席に長期政権の道を開き、権力集中の強国路線を印象づけていた=写真は政府活動報告をする李首相、中国中央人民政府ホームページから>

首相報告まず前提として、習近平政権のガバナンスは決して盤石なものではない。現在の中国共産党は、党の内外で課題が山積し、党の前途に対する不安が高まっているなかで、習近平氏を「核心」あるいは剛腕のリーダーとして担ぎ上げることでなんとか危機を乗り越えようとしているように見受けられる。習氏の国家主席としての1期目は、習氏個人に権限が集中する制度が整備され、華々しい国内・対外経済プロジェクトが打ち出され、米国と対峙するだけの風格を持ったカリスマ的リーダー像が演出されてきた。それとは対照的に、今回の全人代ではそのような演出があまり目立たず、習近平政権の「等身大の姿」がだいぶ浮き上がってきたという印象を受けている。

中国の改革・開放路線は、鄧小平氏が1978年に打ち出し、鄧氏が指名した2人の後継者、すなわち江沢民氏と胡錦濤氏が2013年までそれを継承した。13年までは、いわば、鄧小平氏が描いた青写真に沿って党内の政権交代が行われてきたのであり、13年以降は「ポスト鄧小平」時代に突入した。

「ポスト鄧小平」時代の指導者人事をめぐっては、江沢民氏を中心とする勢力が担いだ習近平氏、胡錦濤氏が後押しした李克強氏、それに汚職スキャンダルで失脚した薄熙来氏による三つ巴の権力闘争が発生した。結果として、習近平氏がトップに立ったわけだが、その間、中国のみならず全世界が泥仕合と化した権力闘争のショーを見せつけられた。

共産党が「ポスト鄧小平」時代に突入した際に激しい権力闘争が表面化したからこそ、一旦最高指導者が定まると、権力闘争への反動として権力集中が進められた。その権力集中を習近平政権の安定化ととらえる意見が多いが、意思決定の硬直化を招きかねない権力の個人への集中は、政権の不安と余裕のなさを表していると解釈することも可能だ。

改革・開放路線は、毛沢東時代の個人独裁がもたらした惨禍への反省からもともと集団指導体制を基本とし、国家主席、党総書記、国務院総理、中央軍事委員会主席を別の人間が担当していた。しかし、80年代には党内で保守派と改革派の対立が深刻化し、党が社会から民主化要求をつきつけられ、天安門事件で党内の団結と党・社会関係が大きく乱れた。

そこで、鄧小平氏は、江沢民氏に国家主席、党総書記、中央軍事委員会主席の3ポストを兼任させ、権力と権威が1人に集中する制度を新たに整備し、党内の意思決定をめぐる混乱を抑えようとした。また、鄧小平氏は江沢民氏の後継者を胡錦濤氏と定めていたので、これが江沢民氏を中心とする派閥の拡大へのブレーキとなり、政権交代も比較的スムーズにおこなわれた。党内人事への任期制や定年制の導入に象徴される権力行使の制度化の試みは、中国内外で共産党政権のガバナンスへの信頼拡大につながった。

ところが、「ポスト鄧小平」時代の最初の指導者となった習近平氏は、上記の3つのポストを兼任したのみならず、早々に国家主席の任期を撤廃し、権力行使にかかっていたキャップを外し始めた。これは、前述の通り、彼が国家主席になるまでのプロセスにおける権力闘争に対するリアクションという側面を持っている。

国家主席の任期撤廃は、習氏の後継者候補が定まらない状態を長期化させ、習氏自身のレームダック化を遅らせると同時に、習氏を中心とする派閥に対抗できる次世代の派閥の浮上を難しくさせる。これは、習政権の安定化と解釈することもできるが、共産党の先行きの不透明性を高め、後継者の地位をめぐる水面下の権力闘争の激化や習近平派による恣意的権力行使といった弊害を招きかねないものであることは留意する必要がある。

また、権力の集中は、政策の責任の所在が明確化することを意味し、経済の失速や米国との対立といった問題は、いずれも習近平氏の手腕に対する評価や彼の権威と直結するため、諸刃の剣となる。今回の全人代では、その現実に気付いた共産党政権の姿を見いだすことができた。

米国「協調から競争へ」

<今回の全人代は米中貿易摩擦の影響が見え隠れしていた。李克強首相は先端技術で米国など先進国に追いつく重要政策「中国製造2025」に触れなかった。全人代の最終日に、外国企業に知的所有権の移転を強要することを禁ずる外商投資法を可決した=写真下はトランプ米大統領と会談する劉鶴副首相、中国中央人民政府ホームページから>

トランプと会談2008年のリーマンショックをきっかけに米国を中心とするグローバル経済秩序に一時的なほころびが生じると、中国では既存の国際秩序に合わせて中国の政治・経済体制を変えていくという70年代以来の改革・開放路線の基本的スタンスが見直され、「既存の秩序の方が中国の現実に合わせて変わるべきだ」という主張が台頭した。それに押される形で、習政権下では、中国企業のみならず外国企業への統制を強めようとする動きが出現すると同時に、南シナ海問題に象徴される強硬外交が展開されるようになった。

改革・開放政策は、資本主義諸国との良好な関係が大前提にあったが、既存の秩序やルールを遵守する姿勢が後退した中国では、他国との経済的相互依存関係や人的交流を逆手にとった経済制裁の発動、外交案件を抱える相手国の国民の意図的拘束、そして中国人民解放軍を用いた露骨な恫喝が繰り返されるようになった。

そうした事態に直面したオバマ政権は、「アジア・ピボット」戦略を打ち出しながらも、基本的には習近平政権との対話による信頼醸成を通じた問題解決を模索した。しかし、周知の通り、緊張緩和には至らなかった。米国の政府と議会には、もともと多様な対中認識が存在していたが、オバマ政権が対中関係の安定化を果たせず、中国が米国に挑戦するようなスタンスを強めたことが、政策決定レベルでの対中警戒感を高めた。これにより、米国議会ならびに政府内で中国の暴走に歯止めをかけなければいけないという点に関して、かなり広範な合意が形成されたようだ。

現在の米国による対中経済制裁は、ともすればトランプ大統領の個人的なスタンドプレイと見られがちであるが、2017年度末に発表された国家安全保障戦略で示された米中関係に関する新たな認識、すなわち米中協調の時代は終わり、競争の時代が始まったという認識に立脚したものだ。中国が既存の国際秩序とルールを尊重するという従来のスタンスを変えるのなら、米国も中国に対するスタンスを見直す。米国の対中制裁は、そのようなメッセージを含んでいる。

今回の全人代は、そのメッセージを習近平政権がどう受け止めるのかを判断する場となった。外商法の成立は、中国に進出した外国企業に技術移転を強制しようとしていた習近平政権が一応警告を受け入れ、表面上は既存のグローバル経済ルールを一定程度遵守する姿勢を示したものと解釈できる。

米国が経済制裁緩和の条件としているのは、中国の「構造改革」である。一方、カリスマ的指導者としての地位を固めようとしている習近平氏にとって、米国に言われるままに「構造改革」をやることは、彼自身の権威を大きく損ねる可能性がある。権威を保ちつつ、中国経済にとって致命傷になりかねない米国の追加制裁をかわすための苦肉の策が、外商法であったと考えられる。

 揺らぐ後ろ盾

2017年に刊行された拙著で、中国経済が失速すれば、軍事面で米国に追いつくのは難しくなると指摘したが、実際にそのような展開になってきた。これまでの共産党のガバナンスは、端的にいえば、富をばらまいて支持母体を拡大しつつ、軍事力で民間社会から噴出する不満を抑え込むというものであった。経済成長が失速すれば、民間社会に回せる富が頭打ちになるだけでなく、党の用心棒である軍への手当ても先細りになる。

中国では最近多数の退役軍人が退役後の社会保障の中身に対する不満を募らせ、SNSで情報を拡散して大規模なデモを開催し、義勇軍行進曲を歌いながら、黒服の治安部隊と衝突するという光景がみられるようになった。そうした光景が現役軍人の退役後の人生に対する不安を煽るようなことになれば、解放軍の共産党に対する忠誠も揺らぎかねない。

多国間で足並みそろえ中国と向き合うべき

<昨年5月に中国の李克強首相が来日した際、安倍晋三首相は歓迎レセプションで「競争から協調へ。この日をもって協調の時代へ入った」と述べた。日本の対中政策はどうあるべきなのか=写真は「日中知事省長フォーラム」を前に記念撮影に臨む安倍首相(右手前)と李首相(左手前)、札幌市で2018年5月11日、貝塚太一撮影> 

u“ú’†’mŽ–È’·ƒtƒH[ƒ‰ƒ€v‚ð‘O‚É‹L”OŽB‰e‚É—Õ‚ÞˆÀ”{WŽOŽñ‘Ši‰EŽè‘Oj‚Æ’†‘‚Ì—›Ž‹­Žñ‘Ši¶Žè‘Oj米国は、2017年末以降「協調から競争へ」という対中認識に基づいて、安全保障面で高まりつつある中国への懸念に対して本腰を入れて対応するようになった。そうしたなかで、日本の現政権が「競争から協調へ」という対中認識を掲げ、米国の対中政策との差異を鮮明にしていることには違和感を覚える。

日本の経済界もこれまで中国側のルール違反には相当悩まされてきたと思うが、ようやく米国、カナダ、オーストラリア、それからEU主要国などが足並みを揃えつつ中国に対してルール遵守を強い姿勢で求めるようになったこのタイミングで、日本政府がその流れとは距離を置く形で日中接近を演出すれば、中国に対するルール遵守を求める国際的包囲網に抜け穴が生じることになりかねない。だからこそ、中国政府は、日本に対する長年の強硬姿勢を一変させて急にラブコールを発するようになったと考えるべきだ。

安倍晋三首相は、2006年に当時の胡錦濤政権と戦略的互恵関係の構築に合意し、小泉政権時代に悪化した中国との関係を改善させることに成功したが、どうも現在もその成功体験に基づいて米中の間で上手くバランスを取れると判断しているように思われる。しかし、当時と今とでは状況がたいぶ異なる。中国のガバナンスの在り方は大きく変り、米国の対中政策も「関与」から「競争」へとシフトした。また、日米同盟に対する中国の軍事的リスクも大幅に増大した。

日本はこれまで「通商立国」を掲げ、経済優先路線でうまくやってきたが、同盟国の米国が中国に対する安全保障面や人権面での危機感を強めている局面において、安全保障や人権の問題に対して経済的ニーズを優先させる形で中国とつき合うのは難しくなりつつある。トランプ政権の要求に日本が全て応じる必要はないが、中国に関してはある程度認識と足並みを揃えて対応することが肝要であると考える。

阿南友亮(あなみ・ゆうすけ) 東北大学大学院法学研究科教授

阿南P1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、同大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。大学院在籍中に北京大学国際関係学院に留学。東京成徳大学講師、東北大学准教授を経て、2014年より現職。2014年~15年ハーバード・イェンチン研究所客員研究員。17年、東北大学公共政策大学院院長に就任。

著書「中国はなぜ軍拡を続けるのか」(新潮選書)は毎日新聞社と一般社団法人「アジア調査会」が主催する第30回アジア・太平洋賞特別賞、第40回サントリー学芸賞(政治・経済部門)を受賞した。ほかに「中国革命と軍隊―近代広東における党・軍・社会の関係」(慶應義塾大学出版会)など。

シリーズ: アジアの新興企業・財閥・官僚組織② 中国:国家発展改革委員会 経済政策の司令塔--劉鶴副首相ら輩出(一般公開記事)

シリーズ「アジアの新興企業・財閥・官僚組織」は1回目でベトナムの新興企業・ビングループを紹介した。2回目は中国のマクロ経済と産業政策の司令塔である国務院国家発展改革委員会を取り上げる。同委員会における江沢民時代の朱鎔基元首相の役割、習近平主席の経済ブレーンである劉鶴副首相の関わりなどに焦点をあてた。【毎日アジアビジネス研究所長・清宮克良】

トップは“福建省人脈”

3月記者会見

中国の全国人民代表大会(全人代)が3月5日に開催され、李克強首相が今年の経済成長率を6・5%~6・0%と低い数値目標にとどめる政府活動報告を行った。国家発展改革委員会の何立峰主任(閣僚級)は6日の経済政策に関する記者会見=写真上 、国家発展改革委員会ホームページから=で、国内経済はいくつかの困難に直面しているとしたうえで「安定した健全で持続可能な発展を維持する傾向にある」と述べた。何氏は最後に「政府活動報告に定められた任務を実行し、民間企業と民間経済の発展をさらに促進し、国有企業と外資系企業とともに中国経済の壮大な発展パワー形成する自信と決意を持っている」と締めくくった。

何 主任中国の最高行政機関である国務院で、国家発展改革委員会は「官庁中の官庁」といわれる特別な存在だ。全人代では首相報告とともに経済報告を行うことが慣例になっている。主任の何立峰氏=写真、国家発展改革委員会ホームページから=は、福建省の厦門(アモイ)大学で財政・金融を専攻し修士課程を修了。その後、1984年から厦門市など福建省で行政キャリアを積み重ねた。2009年に天津市に転じ、14年から国家発展改革委員会副主任となり、18年に同主任に就いた。

ちょうど習近平氏が1985年に廈門市副市長に任命されて以降、25年にわたって福建省で勤務し2000年に福建省省長に就任。何氏が習氏の福建省人脈につながり、習氏の側近として習指導部の意向をくんだ行政手腕を発揮することは想像に難くない。

国家発展改革委員会はどのように誕生し、どういう歩みをしてきたのだろうか。

その前身は1952年に発足した国家計画委員会に遡る。社会主義の計画経済を立案し、物資動員計画を指揮監督する組織である。しかし、当初の目的は鄧小平氏の進めた改革・開放路線の影響で変遷することになる。アジア経済研究所の田中修・新領域研究センター上席主任調査研究員は「朱鎔基氏が組織を変容させた」と指摘する。

日本の戦後復興を例にして見ると、経済安定本部が計画経済・統制を進め、経済復興を遂げると任務を終えて縮小し、やがて物価調整をする経済審議庁に改称し、最後は経済企画庁と組織は縮小した。日本の歩みに沿って考えれば、計画経済・統制を指揮する国家計画委員会も、改革・開放が進めば縮小する方向にあるはずだ。ところが、中国共産党主体の政権運営をする中国では強力な権限を保持し続けた。国家発展改革委員会主任クラスは経済担当副首相の候補者といわれる。一方で財政部の任務は予算策定に限定されている。このため、国家発展改革委員会は日本でいえば経済企画庁というよりかつて「官庁中の官庁」として君臨した旧大蔵省(現財務省・金融庁)に権限の強力さでは類似している。

朱鎔基氏が組織を変容

ŽéèOŠî@’†‘@Žñ‘Š@—ˆ“ú@ŽR—œƒŠƒjƒAŽÀŒ±üŽ‹Ž@@‰E‚ÍŽé˜JˆÀ•vl@m‹LŽÒ‚̖ځn清華大学卒業の秀才だった朱鎔基氏=写真は2000年に首相として訪日した際、山梨リニア実験センターを見学した朱氏、式守克史撮影=は新設まもない国家計画委員会に所属したが、毛沢東氏の大躍進政策を批判したことで「右派」のレッテルを貼られ左遷された。朱氏は復帰したが、中期計画を策定する国家計画委員会には迎えられず、年度計画を担当する別組織の国家経済委員会に1979年に入り、副主任になった。その後、朱氏は上海市に転出し、同市長、同党委書記と重責を担い、浦東新区開発に乗り出した。

田中氏によると、朱氏は徹底して国家計画委員会の権限縮小に動いたという。まず、国家計画委員会を国家発展計画委員会と名称を変更し、その権限を縮小した。他方で、鄧小平氏の掲げる改革・開放を推進するため、その産業政策を取り仕切る国家経済貿易委員会を立ち上げ、権限を拡充していった。98年から2003年の江沢民指導部の首相時代、世界貿易機構(WTO)に加盟したほか、国有企業改革にも熱心に取り組んだ。朱鎔基氏の退任後、国家発展計画委員会は国家経済貿易委員会を吸収合併して今日の国家発展改革委員会となり、再びその権限は強大化した。その余りの権限の大きさに批判が集まり、2008年に一部が工業情報省に分離され、今日に至っている。

しかし、朱鎔基氏の首相退任後、左派保守派の巻き返しもあり、民間企業より国有企業の優遇策がとられるなど改革・開放の旗印である国有企業改革は一進一退が繰り広げられた。2008年のリーマンショックで胡錦濤指導部が国有企業を通して財政出動したこともあり、中国経済の底流には「国進民退」の流れが見え隠れする。

米中摩擦が根幹政策に影響も

劉鶴ここに来て対米貿易交渉をはじめ経済政策の表舞台に出てきた劉鶴副首相=写真、中国中央人民政府のホームページから=は国家発展改革委員会と関わりの深い人物である。北京101中学在学中には習近平氏と同窓だったことは知られているが、米ハーバード大学に留学し、経済・金融政策に精通している実力派でもある。

国家発展改革委員会の研究部門である国家情報センター副主任、同改革委員会副主任を務め、経済政策の骨格を決める党中央財経領導小組弁公室副主任となり、さらに習近平氏に取り立てられて同弁公室主任に昇任し、昨年3月に副首相に就任した。

習近平氏は昨年9月から同10月にかけて国内を視察した。専門家の間ではこの視察が今後のマクロ経済と産業政策に大きな影響を与えるのではないかといわれる。石炭など国有企業が集積する東北地方から始まり、最後は民間企業が中国経済を牽引する深圳など広東省を訪問した。特にイノベーションが進む広東省の視察は入念に行われ、昨年10月26日に北京で行われた安倍晋三首相との首脳会談は、習氏の視察の影響で当初予定から数日遅れたという。国内視察を通して習氏は「国進民退」から民間重視に舵を切ったのではないかとみられている。その証左は昨年11月1日、習近平主席が開催した民営企業座談会にある。習氏は「世界500強の企業の中で、わが国の民営企業は2010年の1社から18年には28社に増えた」と強調し、公有制主体の建前は空文化していることを示した。

米国ではトランプ政権はもちろん、民主党の知識層にも、中国の国有企業改革の停滞が貿易摩擦の要因になっており、民間企業を中心に改革・開放を急ぐべきとの意見が多数を占める。米中貿易摩擦は中国のマクロ経済や産業政策とつながるテーマであり、その意味で劉鶴副首相が実質的なキーパーソンとして国家発展改革委員会の根幹政策に深く関わり、指揮・指導していくことになるとみられる。

「毎日アジアビジネス研究所と行く ミャンマービジネス&人材視察ツアー」のご案内 参加者募集します

毎日アジアビジネス研究所と行く ミャンマービジネス&人材視察ツアー

【企画・運営】毎日アジアビジネス研究所、株式会社トライズム【旅行主催・実施】毎日新聞旅行(毎日企画サービス)

第1回/2019年6月16日(日)~19日(水) 第2回/2019年7月14日(日)~17日(水)

日本語学校写真①

深刻な人手不足を背景に、企業の間で外国人人材の導入が進んでいます。毎日アジアビジネス研究所は、主に、外国人材受け入れに関心を持つ企業を対象に、ミャンマー最大都市ヤンゴンにある「人材送り出し機関」などを訪れ、実際に日本行きを希望するミャンマー人とも意見交換を行う「ミャンマービジネス&人材視察ツアー」を実施します。ミャンマーなどアジア各国に精通した元毎日新聞アジア総局長の西尾英之・研究所主任研究員が同行して、現地を訪ねます。参加企業を募集します=写真はヤンゴン市内にある日本語学校

2019年6月16日から19日(2泊4日・機中1泊)▽7月14日~17日(同)の2回を予定。いずれも成田空港からANA直行便利用です。ミャンマー人材採用へ向けたスタディー・ツアーとしてご活用ください。

2泊4日+機中1泊 旅行代金(おひとり:2人1室利用)=サミットパークホテル利用/157,500円 ▽セドナホテル利用/161,000円(おひとり部屋ご利用には追加料金=サミットパークホテル2泊分10,000円、セドナホテル2泊分13,500円=がかかります。上記のほか燃油サーチャージ/航空保険料、諸税等が別途必要になります=2019年2月6日現在23,730円)

詳しくは、研究所(電話03・3212・2494、E-Mail:asia-biz@mainichi.co.jp)へお問い合わせください。

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アジア起業ストーリー: 「伊勢明敏のミャンマー起業日記」5回目掲載しました

1アジア各地での起業家の奮闘ぶりを紹介する「Asia Start-up Stories」。「伊勢明敏のミャンマー起業日記」5回目を掲載しました。ヤンゴンでフィットネス・ジムを開業した日本人青年が、その悪戦苦闘ぶりを自ら綴ります。どなたでもお読みいただけます。こちらからどうぞ。