中国は各地方政府が管轄する「経済新区」が互いに競い合い、国全体として経済を活性化させてきた。北京・天津・河北エリアの天津浜海新区もその一つである。2015年8月に天津港を臨む浜海新区の倉庫群が大爆発を起こした。その後、どうなっているのか。シリーズ5回目は、天津市と進出企業の複合体である天津浜海新区を取り上げる。

【毎日アジアビジネス研究所長・清宮克良】

外交部の後押し

1908_shin_01北京市から天津浜海新区まで車でも行けるが、中国自慢の高速鉄道(いわゆる新幹線)に乗ると北京駅からわずか約30分間で天津駅に着いた。天津市(直轄市)の中心部の天津駅から浜海新区までは車で約40分。浜海新区=写真上=に近づくとシンボルである高さ530㍍の周大福金融センター=写真下=が視界に入ってくる。浜海新区の常住人口は約300万人で約1500万人の天津市の5分の1を占め、広さは東京23区を上回る。現在、中国外交部が一押しでPRする天津市の浜海新区は近代的な建物が建ち並び、その景観に「経済新区」としての意気込みが感じられた。

1908_shin_02浜海新区を訪れたのは猛暑の7月16日。この前日、中国政府は4―6月(第2四半期)の経済成長率が前年比6・2%で1992年以降、最も低い成長率であると発表した。80年代は深圳、90年代は上海浦東、2000年代は天津浜海新区が経済発展エリアとして注目されてきた。中国統計年鑑によると、浜海新区の躍進などで17年の天津市のGDP(域内総生産)は18595億元で全国18位、一人当たりのGDPは119400元で全国3位となっているが、経済状況を説明する同市人民政府関係者の言い回しは慎重だった。

「(15年の)事故の後、『安全第一』の号令のもと回復の努力をしてきた。やっと苦境から脱した感がある」。

自動運転バス

1908_shin_03最初に見学したのは、中国政府がシンガポール政府とともに共同開発しているニュータウン「天津生態城」である。天津エコシティと呼ばれ、巨大な風力タービンによる自然再生エネルギーを活用し、ゴミや汚水など再生可能な資源を再利用するエコタウンである。目玉は「無人パンダバス」=写真上=とネーミングされる自動運転の公共バスだ。バスには手のひら認証で乗降ができ、清潔な車内には飲料水も完備されている。多くの電気自動車も配備されている。筆者は8年前の11年6月に天津生態城を訪れたことがある。当時はまだ建物もまばらだったが、現在は約60万人を誇るニュータウンに変貌を遂げていた。

浜海新区は周大福金融センターに代表される金融街であるとともに、中国北部のビッグデータの集積地である。国家超算中心(国家スーパーコンピューティングセンター)、天河系列超級計算机(天河スーパーコンピューターシリーズ)など巨大なビル群にデータ関連企業が入る。

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素晴らしい外観の浜海新区文化センターには、図書館、美術館などが入っている。ちょうど夏休み中で、子供たちで賑わっていた。なかでも近未来的で奇抜なデザインの図書館は人気のスポットだ。最近では、ドローンの自動制御システムなどハイテク産業や天津国際クルーズ船母港などが目を引く。

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倉庫群の大爆発

天津市は1980年代からいち早く「天津経済技術開発区」(TianjinEconomic Technological DevelopmentArea=TADA)などの工業団地の造成に着手し、外資系企業を呼び込んだ。しかし、他の地方政府の「経済新区」との競争にさらされた。中国の経済シンクタンク研究員によると、投資先行で前のめりになったため、安全軽視など負の部分が噴出し、それが15年の浜海新区の倉庫群の大爆発につながったのではないかという。165人にのぼる死者を出した大惨事の現場は姿を変えて木々が生い茂る海港公園=写真上=となっている。周囲を歩いてみると、静けさの中でかすかに浜風が頬を撫でた。公園脇は大型トラックの運転手の休憩場所。港湾側には数多くのコンテナが積み上げられていた。

2013年、天津市を訪問した習近平・国家主席は「民生重視、経済重視、共産党重視」の3つの要望を出した。爆発事故の翌年、中国共産党中央規律検査委員会は習主席の腹心だった黄興国・天津市長に重大な規律違反があるとして摘発した。報道によると、18年に入ってから天津市のGDP水増し問題が発覚するなど行き過ぎた経済優先主義が見え隠れする。これらは習主席の期待に過剰に応えようと無理をした結果なのだろうか。そして今、天津市のトップである李鴻忠・同市党委書記は汚職撲滅に力を注いでいるという。

経済成長率の分水嶺

中国国内には「経済成長率は6%が分水嶺だ。そこを下回ると危険信号が灯る」(中国の経済アナリスト)と指摘する声がある一方で、一帯一路(the Belt and Road)などをテコに経済成長率を維持する潜在力はあるとの見通しもある。中国は共産党が指導する社会主義に市場経済を導入した独自の経済システムである。分かりやすく言えば、各地方政府は、習主席の要望する「民生重視、経済重視、共産党重視」をいかに実現し、その成果がどのように評価されるかにしのぎを削っているように見える。

海浜新区も天津市人民政府副秘書長を兼任する楊茂栄区長を中心に海外投資の誘致など懸命な努力を続けているが、北京・天津・河北エリアでは河北省保定市にある新興の雄安新区に旬な話題が集まりがちだ。天津浜海新区の光と影は、各地方政府の競争原理が働く中国経済そのものを映し出している。

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清せい宮みや克かつ良よし(毎日アジアビジネス研究所長)
1983年毎日新聞社に入社。水戸支局、社会部、政治部。98年に米ジョンズポプキンス大国際関係大学院(SAIS)客員研究員、その後、ワシントン特派員、政治部副部長、さいたま支局長などを経て執行役員国際事業室長。中国、インドネシア、ベトナム、ミャンマ ー、タイ、ロシアでフォーラムやイベントを手掛ける。2018年10月から現職。