私はヤンゴンで運動ジムを経営している。ジムの名前は「Revolution GYM」。お客さんは全てミャンマー人である。今回は物件に関してのトラブルを紹介したい。

ジムお客

ヤンゴンでの物件の探し方

ヤンゴンで不動産の賃貸物件を探すには二つの方法がある。一つは不動産業者を使う方法だ。ヤンゴンには日系の業者が複数あり、フリーペーパーからすぐに見つけることができる。手数料は家賃1カ月分が相場だ。

空きや看板2

もう一つは、「空き家」の看板を探して連絡をとる方法である。ヤンゴンでは至るところに「空き家」の看板があり、歩いていると、簡単に見つかる=写真上。しかし不動産業者を使わなかったからといって、家賃1カ月分の手数料を節約できるわけではない。「空き家」看板に書かれている電話番号はブローカーの番号である場合がほとんどで、結局ブローカーを介して部屋を見せてもらうことになり、家賃の1カ月分の手数料を同様に支払わなければならないのだ。

契約のトラブル

市街地にある物件を不動産業者から紹介してもらった。そこはグランドフロア(1階)にジムのスペースがあり、階段を上がったところに居住スペースを取ることができる。私の居住スペースを含めて月65万チャット(約5万2000円)と安かったので気に入り、翌日、契約書へサインをすることになった。家賃は1年払いが基本なので、手数料と合わせて13カ月分の現金を用意した。

ところが当日、話を進めるうちにいきなり家賃が2倍に値上がりし、月130万チャット(約10万4000円)になった。オーナーは「価格を言い間違えた」と言ったが、相手が日本人ということで強気に出たのだろう。結局話がまとまらずに破談となった。不動産業者によると、契約直前に値段が上がることはよくあることだという。それにしてもいきなり2倍はやり過ぎである。

その周辺で別の物件を業者に紹介してもらった。内覧のためにオーナーと待ち合わせると、おばさんのブローカーが一緒についてきた。部屋を気に入り契約の日取りを決める際、オーナーに不動産業者を使ったのでブローカーには手数料を払わない旨を伝えた。オーナーもそれに納得し、契約の日時を決めて別れたが、別れ際にオーナーとブローカーが何か言い争いをしていたのが少し引っかかった。

その晩、私の携帯電話にブローカーから電話があり、オーナーに急用ができたから契約日を1日ずらしてほしいと言ってきた。実はこれが真っ赤な嘘。オーナーは、約束の日時に私が来なかったと怒ってしまい、他の人と契約を結んでしまったのだ。確かに改めて思い返せば、ブローカーが私に直接電話をかけてくるのは筋の通らない話だったのだが、外国語の電話に緊張し、そこまで頭が回らず信じてしまったのだ。

これら以外にも、契約直前でダメになるケースが連続し、物件を探すだけで1カ月以上を要した。開業前、精神的に一番参ったのがこの時期だった

ついに契約へ

紹介された部屋2落ち込んでいたある日、ヤンゴンの郊外に新築の物件が見つかった=写真上。言い値の家賃月40万チャット(約3万2000円)で私は納得したのだが、「もう一声」と粘ったら35万チャット(約2万8000円)まですんなり値下げした。鬼門である契約書のサインも何事もなく終わり、私は胸をなでおろした。

部屋は5階と高層階であったのだが、エレベーターが併設されていたので気にならなかった。2017年9月の契約時にはまだエレベーターが動いていないなど、ビルは工事真っ最中だったが、10月末にはすべて完成するとのことだった。部屋は写真の通り床すらなく、どのみち改装に1カ月ほどかかるので、開店に間に合えば問題ないと考えた。だが、後にこの口約束に苦しめられることになる。

オーナーや近隣住民とのトラブル

改装を終え、マシンを搬入し、11月6日にようやくジムのオープンに漕ぎ着けた=写真下。部屋の改装についてはまた別の機会に紹介する。

器具を入れた部屋10月末には稼働すると言っていたエレベーターだったが、年明けの2月中旬まで動かなかった。ジムは、3カ月以上もエレベーター無しで営業せざるを得なかったのだ。息を切らせて5階まで上がってきた見学客は、「エレベーターが動き始めたら来る」と言って帰っていった。

ようやく稼働したエレベーターが、カードキー式だったことは計算外だった。キーを持った人でないと利用できない、つまり、外から訪れるジムの客が使えないのだ。さらに、他の部屋の住人は一家で4枚以上のカードキーをもらっているのに、なぜか我々は1枚しかもらえなかった。ジムのスタッフですら階段を上り下りせざるを得ない。オーナーが「他の部屋にも1枚しか渡していない」と見え透いたウソをつくのも、癪に障った。

別のやっかいな問題は電気だった。開業当初、我々の部屋だけ、オーナーや同じビルの住人にブレーカーを頻繁に落とされた。当時、電柱からの引き込み工事が完成しておらず、仮の細い電線によって供給されていたので、電力が不足していたのだ。11月は涼しい時期で、かつジムの客がエアコンを嫌っていたこともあり、ジムではほぼ扇風機のみを使用し、節電に協力していた。それでも電力不足の責任をすべて負わされ、ジムの部屋だけ大元のブレーカーを落とされる日々が続いた。

周りの部屋は全く節電せずにエアコンを16度の設定でガンガンに効かせていた。私はブレーカーが落とされるたびに、ジムは電気を使っていないからブレーカーを落としても意味がないと説明したが、理解してもらえなかった。むしろ「他の部屋はエアコンをつかっていない」とウソをつかれる始末だった。そんなことは室外機の稼働状況を見れば一目瞭然なのだが。

結局開業から1カ月ほどで電線の引き込み工事は完了し、電力不足は解消された。怒りを増幅させたのは、請求された電気代であった。工事期間中は各部屋に電気メーターがついておらず、ビル1棟分まとめた請求額を部屋数で割っていた。電力を無駄遣いしているとやり玉に上げられた我々は、他の部屋の2倍(約8000円)を請求された。部屋にメーターが付いた後、意識的に節電をしなくても電気代は毎月3000円程度だったので、いかに他の部屋が電力を浪費し、我々が電力を節約していなかったが証明された。金額自体は大したことはないが、ウソの連続に、苦々しい気分が続いた。

こうした新規開業の店舗に対する周辺住民によるちょっとした嫌がらせは、ミャンマーではよくあることのようだ。飲食店が開店するときには、オープニングセレモニーを開いて無料で食事を振る舞っているのをよく見かける。それは周辺住民の〝ねたみ〟を抑えるために行われているのだ。

ジムは午後6時ごろのピークの時間帯には、玄関前に20足ほど靴が並ぶ。客がたくさん入って儲けているように見えるらしい。それに対するねたみによって、ウソや嫌がらせが横行する。文句を言いたい気持ちは山々だったが、けんかをしても状況は好転しないのですべて受け入れていた。さすがにオーナーが「ジムを無料で使わせろ」と言ってきたときには断ったが。

贈り物攻勢

贈り物嫌われている状況をなんとか打破しようと、贈り物に頼ったこともある。特に、一番迷惑をかける階下の住人に、贈り物をせっせと持っていった。ジムはゴムマットを二重に敷いて防音をしているのだが、稀に客がダンベルを強く落とした際に音が響くことがあるのだ。そんな時には、食品などの詰め合わせバスケット=写真上=を持参してお詫びに訪ねた。かなり怒っているときは受けとってくれないこともあった。これに関しては我々がすべて悪いので、申し訳なかったと思う。

また、ビルの共用スペースである階段を掃除したこともある。小賢しい私は、住人の出入りが多い時間をわざと狙い、目につく様に掃除をした。格好にも気をつかい、マスクをしていかにも大仰に掃除している風を装った。人が通るたびに土ぼこりで意図的にむせて、大変さをアピールした。

掃除をしているときは「ベリーグッド」と皆から言われたものの、あまり状況は変わらなかった。ヤンゴンでビジネスをする上で、こういった嘘や嫌がらせは避けられないが、明快な解決方法がないのが悩みだ。

いせ・あきとし

伊勢明敏顔P1988年生まれ。北海道大学工学院修了後、㈱ニコンに入社し光技術の研究開発を行う。2015年に退職後、ミャンマーに移住し、ミャンマー語と仏教を勉強。貧弱な体がコンプレックスだったが、友人の勧めで筋トレを始めた。熱中のあまり、ついには現地でジムを開業することに。