Asia Inside:「介護人材」の明日――アジアからの実習生

来日4カ月 医療現場で入院患者をケア

バングラデシュから実習生受け入れ―東京・町田病院

急速に進む高齢化。厚生労働省が「2025年には万人が不足する」と訴える介護サービスの担い手を、海外に求める動きが広がっている。今年、技能実習制度を利用してバングラデシュから6人の実習生を受け入れた東京都町田市の病院を訪ね、「介護人材の明日」の姿を探った。【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之】

 

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看護師の指導を受けながら、高齢の入院患者の着替えに取り組む技能実習生の
メイ・タン・ヌエ・マルマさん=東京都町田市の町田病院で西尾英之撮影

「さっぱりしましたか?」。入浴を終えた高齢の入院患者におむつを着け、院内用の浴衣を着せていくメイ・タン・ヌエ・マルマさん(20)。日本語でそう声をかけると、男性患者はかすかに目を開き、うなずいた。マルマさんは今年、他の5人とともにバングラデシュから技能実習生として来日。8月から町田市の医療法人社団創生会町田病院で働いている。同僚のオロリカ・トリプラさん(20)は「仕事にはかなり慣れてきましたが、体がうまく動かない患者さんの着替え作業は今も大変。でも患者さんの中には、『バングラデシュってどんな国?』『日本で寂しくないですか』と、私たちに話しかけてくれる人もいます」とうれしそうに話す。

現在、実習生6人の仕事は朝8時半から午後5時半まで。入院患者の入浴や食事の介助、清拭(患者の体を拭くこと)、シーツやおむつの交換など看護助手の業務を、日本人看護助手と2人1組のチームでこなしていく。

とはいえ、まだ来日して4カ月あまり。患者の容体にもよるが、作業には、日本人同士のチームでは付かない指導役の看護師が付き添うことも多い。「彼女たちは〝やる気〟はあるのですが、医療の現場は経験がモノをいう。未経験で入ってくる日本人でも、数カ月ではなかなか使い物になりません。患者さんの容体にもよりますが、絶対に事故を起こすことのないよう、慎重に指導しながらやっています」。岩淵美和子看護部長は話す。

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入院患者を入浴させ、体を洗うク
ジュブ・アクタルさん=西尾撮影

高齢化する現場 「若い力」で支える

医療現場で働く看護助手は、看護師のような国家資格は不要。看護師の指示を受けながらの患者の身の回りの世話などが業務の中心で、仕事の内容は高齢者介護施設の介護スタッフとほぼ重なる。2017年11月から始まった「介護」分野の技能実習制度では、病院や診療所で実習生を受け入れることが認められている。

病院がある町田市では、高齢者介護施設の開業が相次いでいる。若い働き手は、介護福祉士などの資格取得につながりやすい介護施設に流れる傾向が強い。病院には若い人が集まりにくく、看護助手の高齢化が進んでいる。

実習生たちとチームを組む看護助手は、「20歳前後の実習生たちの『おばあちゃん』の世代の方が多い」という。

これに対し若い実習生たちは、体力的にも余裕がある。「みんな優しい人柄がにじみ出て、ニコニコ笑いながら進んで力仕事を引き受けてくれる」。指導する看護師は話す。

一方で、やはり「日本語」が壁になることもある。実習生たちは全員が日本語能力試験N4をパスし、一段階上のN3に合格している実習生もいる。
「挨拶や定型的な会話は完全にできますが、仕事の指示などの細かいニュアンスがうまく伝わらないことがある」と岩淵部長。「そういったニュアンスは、日本で生活し、仕事をしながら覚えていくしかない。理解度や会話は、病院に来た頃に比べれば別人のように上達してきている」という。

最終的には、実習生だけでチームを組んで高齢の入院患者のケアに当たることが目標だ。だが実習生たちに、まだ物足りない面もある。ベテラン看護師の一人は「例えば、病室で『ヒヤリ・ハット』があった時でも自分たちから報告せず、その重要性の認識がまだ低い。あるいは、歩いてはいけない患者さんだとわかっているのに、患者さんが『歩く』と言うと、それを強引に止めることができない」と話す。

人の命を預かる医療や介護の現場ならではの厳しい要求だ。だが、「外国人スタッフと働くのは初めて」という看護師は、「これまでバングラデシュに何のイメージもなかったけれど、彼女たちの学ぼうとする意識はとても高い」と、実習生たちのやる気を評価する。「彼女たちならば、(日本の医療や介護の現場での仕事を)やっていけると思います」

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「12月には日本語の試験があり、勉強が大変です」。作業の手を休めないまま、笑顔で話す実習生のハルダイ・ジュイさん=西尾撮影

バングラデシュの「人間力」

小田急線町田駅からバスで15分ほど。郊外の住宅街にある町田病院は、2001年に新規開業。東京都の2次救急医療機関の指定を受けた、病床120床の地域密着型の医療機関だ。

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町田病院の五十子桂祐院長=西尾撮影

五十子(いらこ)桂祐院長は「人手不足の中、病院のスタッフや組織が疲弊して、院内がギスギスしてくるのを感じていた。3年ほど前から、どうしたらよいかを考えてきた」という。組織の活性化のためにも外国人人材を受け入れたいと考え、1年ほどかけて外国からの人材受け入れを勉強してきたが、「ドロップアウト(実習先から失踪)してしまう外国人も多く、それを防ぐにはどうしたらよいのかなど、調べるほど、『これは苦労するぞ』と怖くなる状況だった」

そんな中で出会ったのがバングラデシュだった。「訪問して、人間力に満ちあふれ、一方で、何も育っていないこの国に驚いた。この人々であれば、日本のよいところを教えてあげることができ、一方でその人間力で病院を活性化させることができると感じた」という。

現地で実習生として日本で働くことを希望した10人を面接し、そのうち当時18歳から22歳の6人の受け入れを決めた。6人は、バングラデシュ政府の「海外居住者福利厚生・海外雇用省」が運営する職業訓練施設で事前講習を受け、今年7月に来日。日本側の実習生受け入れ機関(監理団体)で入国後講習を受けた後、8月に町田病院に配属された。

「外国人材を受け入れているところは、それを『恥ずかしい』と考えて、何人受け入れているのかすら言わないところもある。しかし、実習生がいなければ人手が不足し回らない現実がある。それを地域の人々にも広く理解してもらう必要がある」。五十子院長はそう話す。

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指導役の看護師と、笑顔で写真に納まる実習生。「身近に接すると、人柄がよく頑張り屋で、かわいい。私たちとして、この子たちのお手伝いができることがあれば、してあげたい」と岩淵看護部長(写真上左から2人目)は話す=西尾撮影

 

6人を受け入れた後、病院のロビーには、6人が実習していることを来院者に伝え、バングラデシュがどんな国かを紹介する掲示を掲げた。ロビーや病棟に、バングラデシュの民芸品も展示した。

五十子院長は宿舎に借り上げた寮までの道沿いにある店舗に「彼女たちが寄るかもしれないから」と挨拶して回った。8月に開かれた地域の盆踊りにも、浴衣を着て参加させた。

理解が必要なのは地域だけではない。院内のスタッフの間でも当初、バングラデシュからの実習生受け入れに「院長がわけのわからないことをしている」との空気もあったという。五十地域で開かれた盆踊りに参加するため、病院が用意した浴衣に着替え大喜びの実習生たち=町田病院提供子院長は受け入れが決まると毎週、院内でバングラデシュの勉強会を開いて、スタッフに理解を求める努力を続けてきた。スタッフの気持ちは、実際に来日した6人と会って「すべて解消した」と五十子院長。「今では、言葉が違う娘が6人いて、病院みんなで育てているという雰囲気です」

「彼女たちも人間であり、受け入れるのであれば『人を育てる』という気持ちが必要。時間も手間もかかり、ただ人手不足を補うという目的ではうまくいかないのではないか」。五十子院長は話す。

一軒家の寮で共同生活

6人は病院が寮として用意した、数キロほど離れた一軒家で共同生活を送っている。仕事が終わって帰宅した後、交代でスーパーなどで食材を買い込み、カレー風の故郷の料理を作っている。

病院は当初、通勤の足として自転車を考えていたが、実習生の来日後になって、彼女たちが自転車に乗れないことがわかった。イスラム教国のバングラデシュでは、女性が自転車に乗ることはほとんどない。「将来は日本へ行きたいと隠れて自転車の練習をしていたという子もいるが、周囲はいい顔をしなかったそうです。自転車の問題が、彼女たちが来日して唯一の困ったこと」。五十子院長は笑う。

寮でも実習生は日本語や介護技能の試験対策の勉強が欠かせないが、休みの日には百貨店などが集中する町田駅周辺まで買い物に出かけることもあるという。「5年間、日本でがんばって、帰国後は看護師になりたい」と話す6人の中で最年長のザキア・スルタナ・ニサンさん(23)は、欲しいと思ったスカートの値段を見て、目を丸くした。「4万円のスカートなんてとても買えない。でも、寒くなってきたので温かい冬用の服を何枚か買ってきました」

 

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地域で開かれた盆踊りに参加するため、病院が用意した浴衣に着替え大喜びの実習生たち=町田病院提供
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病院が用意した寮で、自炊した母国の料理を見せるザキア・スルタナ・ニサンさん(左)とソンドン・ムロさん。この日は仕事が休みで、夕食を用意して同僚の帰りを待っていた=西尾撮影

母国に老人ホームを建てたい

世界でも最も早く高齢化が進む日本で、実習生たちが驚いたのが、70歳代の人が病院や町で働いていることだという。「バングラデシュでは、60歳代で亡くなる人が多い。バングラデシュの60歳代と日本の80歳代の人が、ちょうど同じくらいに見える」とソンドン・ムロ(20)さん。「バングラデシュには『老人ホーム』はありません」とムロさんは言う。

同国は国民の平均年齢が20 歳代半ばで、アジアでも最も若い国の一つ。だが経済の急成長に伴い人口増加率はペースダウンしており、現在は5%程度の65歳以上の人口比率は、2050年には15%を超えるなど、少しずつ高齢化が進展すると予測されている。

「バングラデシュのお年寄りは家族が世話をしているけれど、家族に世話をしてもらえない人や、家族がいないお年寄りもいる。そんな人は『道路』に出て暮らすしかない(路上生活者になるしかない、との意味)。日本で仕事を覚えてお金も貯めて、そんな人たちが住める『老人ホーム』をつくりたい」。ムロさんは、時折詰まりながらも日本語で、自分の夢をそう話した。

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町田病院=西尾撮影

Asia Inside:「介護人材」の明日――アジアからの実習生

新たな挑戦
「対人サービス分野」への技能実習生

公益財団法人国際人材育成機構
(略称/ アイム・ジャパン)

「介護」職種の技能実習生受け入れは、2017年11月の「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」施行で初めて可能になったばかり。18年度中に入国した介護実習生は1823人で、技能実習生全体の0・5%に過ぎない。国別ではベトナムからが653人と3分の1強を占め、インドネシア、中国、フィリピン、ミャンマーからがこれに続いている。

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介護の技能実習生として来日し、訓練施設で入国後講習を受けるスリランカ人女性=アイム・ジャパン提供

町田病院での技能実習の監理団体(受入機関)である公益財団法人「国際人材育成機構」(略称アイムジャパン、栁澤共榮会長)によると、現在、同機構を通してインドネシアから47 人、スリランカから59人、バングラデシュから町田病院の6人を含む8人が来日して実習を行っている。

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バングラデシュ海外居住者福祉厚生・海外雇用省のイムラン・アフマド大臣と会談する栁澤共榮・国際人材育成機構会長(右)=アイム・ジャパン提供

これまでに6万人近い技能実習生を受け入れ、監理団体としては日本最大の組織であるアイム・ジャパンにとっても、介護は未経験の新しい分野だ。

「より高い日本語コミュニケーション能力が求められることもあり、これまで対人サービス分野での実習生受け入れは難しい面があった。(介護は)サービス分野で最初の実習生受け入れ分野となる」

アイム・ジャパンは、契約する相手国の「送り出し機関」を、相手国政府機関に限っているのが最大の特徴。91年の設立後、インドネシア労働省、タイ労働省、ベトナム労働・傷病兵・社会省、バングラデシュ海外居住者福利厚生・海外雇用省、スリランカ海外雇用省と、各国政府の海外での労働を担当する省庁と直接協定を結び、相手国の当局が直接募集、選考、選抜し入国前講習を実施した人材を、実習生として受け入れてきた。町田病院の五十子院長は、監理団体としてアイム・ジャパンを選んだ理由として、「送り出し国の政府機関と直接提携している」信頼感を挙げる。

国際的な獲得競争の中Win・Winの関係構築目指す

高齢化が未進展の南アジアでは、サービス産業としての「介護」という概念が浸透していない面もある。アイム・ジャパンは介護専用のオリジナルテキストを作成し、バングラデシュのベンガル語やスリランカのシンハラ語に翻訳して提供。

日本語教師派遣に加え、日本の介護用品やおむつなどを現地に持ち込むなど、両国政府の職業訓練施設が実施する入国前講習に設備や教育の両面で全面的に協力している。日本への入国後の講習でも、アイム・ジャパンは介護専用の研修センターを設置して、集中的なトレーニングを行っている。「介護の現場を紹介するビデオを見てもらうと、実習生は『自宅でやっている高齢者の世話の、規模の大きいものだ』と理解する」という。

アイム・ジャパンは、実習生が3年ないし5年の実習を終えて帰国する際、60~100万円を提供する奨励金プログラムを実施している。帰国後、日本で学んだ技術を生かして起業する際などに活用してもらおうとの趣旨だ。多数の実習生が帰国しているインドネシアとタイでは、自ら起業した実習生OBによる「社長の会」を開催。すでにインドネシアでは会員が7000人に達しており、業務提携や実習生の就職支援など企業家ネットワークを生かした活動が活発になっている。

介護人材は、経済成長が進む中国や台湾、韓国、シンガポール、中東の各国などと国際的な獲得競争になっている。加えて送り出し国の経済成長もあり、働き先として日本が有利とは決していえない状況となっている。

こうした中、「単に日本の人手不足解消の手段としてではなく、将来的には母国の国づくりを担う人材育成を通してWin・Winの関係を構築する」(栁澤会長)ことを目的として、アイム・ジャパンは長期的な人材育成の支援活動に注力している。

介護人材においても、単に日本語能力に止まらず、言葉以外のコミュニケーション能力が高く、帰国後は国づくりに貢献したいという熱意のある若者獲得に取り組んでいる。

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インドネシアで開かれたアイム・ジャパンの「帰国実習生社長の会」
=アイム・ジャパン提供

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介護の現場
地元社会福祉法人が組合つくり実習生受け入れ

湘南社会福祉事業協同組合

深刻な人手不足が続く高齢者介護業界。介護施設運営者が自ら事業協同組合を設立して技能実習生を受け入れる「監理団体」の認可を取り、実習生の受け入れに乗り出すケースも出てきている。神奈川県湘南地域の社会福祉法人が集まって結成し、ベトナムからの実習生受け入れを始めた「湘南社会福祉事業協同組合」(神奈川県茅ケ崎市、山本隆史理事長)をたずねた。【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之】

東京駅からJR東海道線で1時間弱。電車が接近するとサザンオールスターズの曲が流れる茅ケ崎駅に着くと、都内に比べれば空が広く、秋の日差しも心なしか強くなったように感じる。

気候がよく「湘南」のイメージもよい神奈川県の相模湾沿岸地域は、多数の高齢者介護施設が立地する「激戦地」。地元以外からの入所希望や、首都圏で働く子供が地方の親を呼び寄せて入所させるケースもあるという。それだけに施設で働く介護スタッフの人手不足は深刻だ。

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山本理事長が経営する特別養護老人ホーム「湘南くすの木」(写真上)と古知屋理事が経営する同「ハピネス茅ケ崎」=両施設のホームページから

「以前はスタッフが辞めても1~2カ月で後任が来たが、今は補充ができない状態。夜勤は増え、以前はやっていた施設でのお祭りや誕生会などのレクリエーションを実施する余裕もなくなってきている。国は介護スタッフの賃金を上げようと取り組み、働き方改革で環境はよくなってきているのだが」と、茅ケ崎市の特別養護老人ホーム「湘南くすの木」施設長を務める、山本組合理事長。同市内の特別養護老人ホーム「ハピネス茅ケ崎」の施設長を務める古知屋(こちや)光洋・組合理事は「介護は3Kとさんざん言われて、新卒で介護を目指す若者はほとんどいなくなっている。神奈川県では介護分野の専門学校の閉鎖が相次いでいる」と訴える。

前例ない「自身の手で監理団体」

協同組合設立のアイデアは、地元で高齢者介護施設を運営する社会福祉法人の関係者が集まり、人手不足への対応についての情報交換を行う勉強会の中から生まれた。「外国から人材を受け入れるほかにない」との考えから、経済連携協定(EPA)に基づくインドネシア、フィリピン、ベトナムからの受け入れ▽留学制度▽能実習制度と、この時点で可能だった国の介護人材受け入れに関する各制度の、プラス面とマイナス面を比較した。

「EPAによる受け入れは、需要はあるのに十分な人数を受け入れられていない。留学制度は就労が週28時間以内という制限がある。技能実習制度がベター」との結論に達した。実習制度が介護にも拡大される2017年11月の制度改革を見越して、古知屋理事らが中心となって17年1月、まずは技能実習制度で実習生を受け入れる「監理団体」となることが認められている「事業協同組合」を設立した。

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ベトナム・ハノイで昨年11月に実施した技能実習生の採用面接。協同組合の組合員である3法人が参加し、計15人の採用を決めた=湘南社会福祉事業協同組合提供

事業協同組合は、中小企業等事業協同組合法に基づき、中小企業が共同で受注や生産、購買、人材育成などを行う中小企業団体の一種。当初の組合員は地元でユニット型(個室型)特別養護老人ホームを運営する4つの社会福祉法人で、組合はおむつなどの共同購入などに取り組んだ。

一方で、監理団体への申請が認められる組合設立から1年が経過した18年1月、外国人技能実習機構に監理団体認定を申請し、同年5月、認可がおりた。

社会福祉法人だけで組合を作り監理団体となるケースは、「全国でもほとんど前例がなく、国にとっても想定外だったようで手続きには苦労した」と、初代理事長を務めた古知屋理事。中小企業団体を支援する神奈川県中小企業団体中央会が好意的にとらえ、様々なアドバイスをしてくれたという。

しかし組合は監理団体として許可を得たものの、送り出し国として想定したベトナムに一切、コネはなかったという。理事らは何度も現地を訪れ、ハノイやホーチミン市の高齢者介護施設を見学しながら、そこにいる人に関係者を紹介してもらうという方法で情報を集めていった。

「人を探し、細い糸をたばねていくような作業だった」。当時、ベトナムに約200あった技能実習生送出機関のうち、「介護」のライセンスを持った機関は13機関。その中にも「介護人材を送り出せるか」と問い合わせても「わからない」「検討中」などと曖昧な回答しかしない機関もあり、結局、しっかりと対応した3機関と送出、受入に関する契約を交わし、現地で、組合員である施設による実習生候補者の面接作業に入った。

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今年5月、中部セントレア空港に初めて来日したベトナムからの技能実習生たち=協同組合提供

今年5月、初めての実習生がホーチミン市から来日した。その後も次々に来日し、今年中には39人が来日する。それぞれ1カ月の入国後講習を終えた後、順次、組合員である介護施設に配属。山本理事長と古知屋理事の施設にも11月28日、初めて実習生が配属され、働き始めた。

ミャンマーからも受け入れ目指す

来年分としてすでに37人の面接を終えており、年明けから順次来日する見込みだ。一方で組合には「いずれベトナムの人材は枯渇する」との危機感もあり、次のターゲットとして、ミャンマーからの実習生受け入れを目指している。

「ミャンマーは人に施しを行うことをよしとする敬虔な仏教国。国柄が介護に向いており、親日感情も強い」。古知屋理事はそう話す。ミャンマーに関しては、古知屋理事や山本理事長ら組合理事が個人の立場で出資し、現地企業とともに「Golden Support Service Shonan」社を設立。現在、同社は送り出し機関としてミャンマー政府の認定を受けるのを待っている段階で、来年2月にも認定が出る見込み。その後は現地で早々に日本語教育を開始し、日本側の実習実施企業による面接も実施する。送り出し機関としての経営を安定させるため、介護以外の分野の技能実習生送り出しも行う方針だという。

日本を選んでもらう努力必要

海外からの介護人材は、今年4月から導入された「特定技能」制度に基づいての受け入れも可能になった。組合も今後、特定技能での人材受け入れも検討している。

しかし、古知屋理事は、同業種内での「転職」が可能になる特定技能制度について「神奈川など首都圏は最低賃金が高いから有利だが、地方は低く、国内で賃金水準に格差が出る。来日して地方の施設に就職しても定着せず、働き手が賃金の高い都市部に集中する問題が起きる」と指摘する。

山本理事長も「(組合を通して来日したベトナムからの実習生も)面接の際、日本でずっと働きたいというよりは、何年か働いて帰りたいという思いのほうが強かった」と話し、特定技能制度の〝効果〟に疑問を示す。2人は「政府が言う『特定技能で介護現場に6万人の外国人』という見通しは、現状では無理」と口をそろえる。

「これだけ少子高齢化が進むと、どの施設でもいずれは外国人の働き手が必要になる」と古知屋理事。組合として今後、毎年100人の介護実習生を受け入れることが目標だ。だが「(日本の介護施設で働いても)給料の面では、欧州の施設に勝てない。外国人にとって、給与面での日本で働くメリットは薄れている」。

海外の若者に「日本を選んでもらう」努力が必要だ。「日本に来て悲しい思いをさせることのないよう、気を使いながら手探りで取り組んでいる」と山本理事長。

技能実習制度は、日本で技術を身につけて母国に役立ててもらうための制度だが、実際には現時点では、ベトナムやミャンマーに介護事業の大規模な需要はない。「母国に帰れば、日系企業もたくさんある。帰国後はそこへ就職するなどして、日本で働いたメリットを感じてもらえれば」と山本理事長は話す。

組合は今、「全国介護施設事業協同組合連合会」の設立に向けて取り組んでいる。高齢者介護のニーズが高まる一方で介護報酬の伸びは低迷し、介護スタッフの人手不足は事業経営に大きな影を落としている。

単独の事業者での対応には限界があり、湘南社会福祉事業協同組合同様、各地でライバルである地元の介護事業者同士が手を結び、協同組合を結成する動きが相次いでいる。全国連合会は、各地の協同組合が手を結び、介護現場の声を国に届け、よりスムーズな外国からの介護人材受け入れにつなげようとの試みだ。「我々を動かしているのは、みんなで手を結んで介護業界を守りたいという思い」。山本理事長はそう力を込める。

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湘南社会福祉事業協同組合の山本隆史理事長(右)と古知屋光洋理事=西尾撮影
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■西尾英之(毎日アジアビジネス研究所主任研究員)

1987年毎日新聞社入社、福島支局、社会部などを経て2003年よりイスラマバード支局、ニューデリー支局、アジア総局(バンコク)を歴任。17年10月より現職。