Asia Inside

海外めざす鉄道ビジネス――JR東日本の挑戦

ジャカルタ市民の足 元首都圏の205系
中古車を輸出 車両を近代化

都市部では大量の通勤、通学客をさばき、全国に高速輸送ネットワークを築く日本の鉄道網。世界に冠たる日本の鉄道システムの海外輸出は、我が国が蓄積した技術やノウハウを最大限に活かして新興国を中心したインフラ需要の取り込みを図る「インフラシステム輸出」の主要な柱の一つだ。東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の取り組みを中心に、日本の鉄道ビジネスの海外展開を紹介する。
毎日アジアビジネス研究所・西尾英之

ジャカルタ中心部から郊外へ延びる通勤電車網を運営する「インドネシア通勤鉄道会社」(PT KCI)。同社は東京首都圏に匹敵する人口を擁するジャカルタ首都圏をカバーし、1日に100万人を超える利用者がある。車両は現在、首都圏の通勤線区で走っていたJR東日本の「205系」を中心に、ほぼ全車両が日本から輸出された中古車両で占められている。

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ジャカルタを走る元JR東日本の205系車両=JR東日本提供

都心部を高架で走るPT KCIの路線は、高架橋や駅、架線を支える支柱などの雰囲気が、日本の鉄道施設とよく似通っている。1980年代以降、日本の政府開発援助(ODA)による円借款で建設、整備が進められてきたためだ。これによって線路は近代的に生まれ変わったが、PT KCIの前身の運営会社が新規に導入した車両は、冷房が効かずドアーも閉めずに運行し、多数の乗客が車両の屋根によじ登って乗車するという、「近代的で安全な都市圏鉄道」とはほど遠い存在だった。

東京圏の鉄道事業者で使われた中古車両が導入されたのは2000年、ジャカルタと姉妹都市の東京都の交通局から、都営地下鉄三田線で使われていた「6000形」車両が譲渡されたのがきっかけ。JR東日本からは04年に「103系」車両、11年に「203系」車両が合計66両譲渡された。東京メトロや東急電鉄で使われていた車両も導入されて、車両面でも近代化が進んだ。

2013年にはJR東日本から、車両の置き換え時期を迎えた埼京線の205系の「中古車輸出」がスタートした。同年に180両、さらに14年、15年には横浜線、南武線の296両が、18年から来年にかけては武蔵野線、京葉線などで置き換え時期を迎えた336両が譲渡される予定であり、20年度末には合計812両にもなる。日本の国鉄末期から導入が始まったJR東日本の205系が、PT KCIの主力電車となった。

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2011年当時のPT.KCIの電車。乗客は屋根に上ったり、車外にしがみついて〝乗車〟している=佐藤賢二郎撮影

これに合わせてJR東日本はPTKCIに社員を派遣。安全対策や車両メンテナンス、サービスなどの技術指導を開始した。JR東日本国際事業本部の長谷川晋一海外鉄道事業部門課長・アジア地域鉄道グループリーダーによると、運行の安全面でまず徹底させたのは「運転士による指差喚呼」。PT KCIの路線には日本では当たり前の信号冒進を防ぐ保安装置が設置されておらず、事故防止は運転士の信号確認にかかっている。実際に15年にはジャカルタ中心部の高架駅で先行列車への追突事故が起きた。

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長谷川晋一・JR東日本国際事業本部海外鉄道事業部門課長・アジア地域鉄道グループリーダー=西尾撮影

指差喚呼による信号確認の大切さを繰り返し説き、「現在は、現場を見に行くと運転士は信号機を指で指して声に出して確認するようになっている」と長谷川課長。また車両メンテナンス技術の教育も実施しており、現地のデポ(車両基地)でPT KCIのスタッフへ指導したり、スタッフをJR東日本の車両メンテナンス工場に招いて指導するなど、、安全面や車両の保守管理にも力を入れている。また最近では、JR東日本の駅や乗務員区の視察も含め、お客さまに対するサービスの在り方についても考えてもらっており、東京で実施されている女性専用車や、車いす利用者が乗り降りに使うスロープの導入など、乗客向けのサービスの改善も進んでいる。

海外人材育成や経験蓄積を狙う

2000年代の「無償譲渡」とは違い、13年以降の205系はJR東日本からの「有償譲渡」だ。同社にとっては、自社路線で不要になった車両の有効利用を図る「ビジネス」ともいえる。

だが長谷川課長は「車両売却価格は公表していないが、それほど大きな額ではない。中古車両売却ビジネスで儲けようというよりも、別の狙いがある」と話す。

JR東日本は昨年7月に公表したグループ経営ビジョン「変革2027」で、「世界を舞台に」と題して、アジアを中心とした海外事業への挑戦を打ち出した。27年までに国際事業のビジネスモデルを確立し、より豊かなライフスタイルを提供することを目指す、という内容。必要となるのは、海外事業に携わる人材の育成や、海外事業に関するノウハウの蓄積だ。

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指差喚呼してホームの安全を確認するPT.KCIのインドネシア人車掌
=ジャカルタのジュアンダ駅で2018年、成田有佳撮影

JR東日本は17年、本社に「国際事業本部」を立ち上げ、海外ビジネス経験者の中途採用を開始した。一方で社員に対する海外留学など人材育成制度も充実させ、社内で海外部門への異動を希望する社員を公募する人事制度も開始した。

「社員がPT KCIと交渉して車両譲渡や技術支援に関する契約を結ぶ、売った車両がきちんと走れるように、グループ会社と一体となってメンテナンスの技術支援を行い、部品を販売していく。こうしたことが、海外で事業を展開するための人材育成につながる。中古車両の売却をJR東日本がこれまで培ってきたノウハウを活かして海外事業展開するための足がかりにしたい」。自身も日本国内の車両開発業務から海外事業に転身した長谷川課長は、そう話す

積み上げた安全輸送のノウハウ生かす
メンテナンス事業受注のバンコク「パープルライン」

2016年8月に新規開業した、タイの首都バンコク郊外を走る高架鉄道「パープルライン」。車両はJR東日本のグループ会社「総合車両製作所」(J―TREC)が受注し、山手線の最新型電車「E235系」などと共通の車両プラットフォームを取り入れた最先端のステンレス車「sustina」が走る。

JR東日本は丸紅、東芝とともにバンコクでメンテナンス会社「ジャパン・トランスポーテーション・テクノロジー(タイランド)」(JTT)を設立。車両と軌道、電力設備などのメンテナンス事業を開業時から請け負っている。

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高架軌道を走るバンコクの「パープルライン」。車両は山手線最新車両と同じ車両プラットフォームを取り入れた最先端のステンレス車だ=JR東日本提供

日本の鉄道会社として、海外で鉄道メンテナンス事業を受注したのは今回が初めてのケース。JR東日本は、海外メーカーの実力を測るため、開業を数カ月後に控える軌道の状態(レールの幅や高さ寸法など)をチェックした。その結果、日本の基準には当てはまらない箇所があることが分かった。そこで開業後の列車の安全・安定輸送を考慮し、念のため発注元に数値を指摘したところ、すぐに改修作業が実施され、予定通り開業の日を迎えることができた。

国際事業本部海外鉄道事業部門パープルライングループリーダーの山口慎一郎課長は「日本ならば開業までに、鉄道事業者がメーカーと共に行う試運転で、システム全体を調整し、仕様通りの性能が発揮されることを厳しく確認するため、開業後の不具合は稀である。海外では、開業後もシステム全体の調整を継続し、不具合を改善していくというイメージだ」と振り返る。

「線路の出来映えまで敢えてチェックしたのは、我々が日本でレールの敷設からメンテナンスまでの経験を積んでいる鉄道会社だからこそ。メンテナンスを請け負ったのが他業種の会社だったら、そこまですることはなかっただろう」と話す。

社内に蓄えられた専門知識

社内に車両、軌道、電気など鉄道の維持管理に関する部署を抱える日本の鉄道会社のノウハウは、海外の鉄道をサポートする事業で「武器」になり得る。

海外で新規に開業する鉄道は、「フルターンキー契約」と呼ばれる方式で発注されることが多い。語源は、「キーをまわせば稼働する」状態で納品を受けるという意味だ。運行事業者は仕様や費用を示してコーディネーターとなる企業に一括発注し、車両や信号システムなど、それぞれの発注はコーディネーター役の企業が担う。

「フルターンキー契約」で契約すれば運行事業者は、自社内で技術的な経験、知識を蓄えなくても鉄道事業を始めることができる。しかし、問題が起きてもどう対処すべきかの技術的な判断能力を持たず、車両や信号システムなどのメーカーとの直接的な関係もなく、製品の出来栄えは、複数メーカーを取りまとめるコーディネーターの調整能力に左右される。

これに対し日本の鉄道会社は社内に膨大な技術的知識を蓄積している。故障に対する未然防止や問題が起きた場合は主体的に車両や軌道、信号システムなどの関係会社と協力し、調整して解決を図る能力を備えている。

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JR東日本で行われている車両の整備作業。日本の鉄道会社は長い歴史の中で、鉄道維持管理のすべての分野のノウハウを蓄積し続けてきている=JR東日本提供

経験が支える安全運行

「鉄道の安全は長い歴史の中で経験してきた多くの事故の反省を教訓とし、築きあげられてきた」と同グループの加藤直之主席。JTTを通してメンテナンス業務に参画しているJR東日本は、自社が経験してきたヒューマンエラー等の失敗事例集をJTTに提供、JR東日本からの出向者が月に一度は講習会を開き、雇用したタイ人スタッフに教訓として学んでもらい、安全に関する意識向上に努めている。

一方で効率化も必要だ。日本では「先輩の背中を見て学ぶ」という面もあったというが、タイでは従業員の入れ替わりが激しいこともあり、必ずすべての作業をマニュアル化して、誰でもすぐに作業を修得できるようにした。その意味では「タイにはタイの文化があり、現地で学ぶこともたくさんあった」という。

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パープルラインの事業を支えてきた山口慎一郎・JR東日本国際事業本部海外鉄道事業部門課長パープルライングループリーダー(左)と、同グループの加藤直之さん=西尾撮影

開業時にはJR東日本からJTTに15人ほどの社員が出向していたが、現在出向者は5~6人。これまで出向者が担ってきた現場のマネジャーはすでにタイ人スタッフに委ね、出向者はサポートに徹している。最終的には出向者を数名程度に減らし、現場の作業は地元スタッフで完結させることを目指している。

山口課長は「我々は国内で、鉄道システムの品質を向上させると共に、いかに効率的にメンテナンスを行うかに取り組んできた。そのノウハウも活かし、海外でのメンテナンス業務を、利益を大きく生む事業として伸ばしていきたい」と話す。

生活サービス 鉄道会社の強み
シンガポールでイノベーション支援も

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8月24日、シンガポールにオープンしたONE&Co=JR東日本提供

8月24日、高層ビルが建ち並ぶシンガポール中心部のビジネス街に、少人数で利用できるプライベートオフィスやミーティングルーム、手軽に利用できるコワーキングデスクを設置したオープンオフィススペースなどを備える、企業向け交流プラットフォーム「ONE&Co」がオープンした。

コンセプトは「プラットフォーム・フォー・イノベーティブ・ビジネス」。シンガポールなどアジア進出を図る企業がレンタルオフィスとして利用するほか、地元企業や人材との交流の場、あるいはスタートアップ企業と大手企業のマッチングの場として活用することを想定している。利用は会員制で日本企業には限らない。日本企業向けに、語学や不動産などに関するセミナーも開催する。

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プライベートオフィスや交流スペースなどを備えたONE&Coの配置図=ONE&Coホームページより

運営するのはJR東日本。日本の鉄道会社が海外で、イノベーション支援に取り組む意外性が話題を呼んでいる。「日本企業のシンガポール進出に際して、『最初に仕事をしてもらう場所』を提供することが狙い」。仕掛け人の同社事業創造本部海外事業グループの山髙真琴グループリーダーは話す。

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海外での生活サービス事業第1号としてシンガポールに2016年にオープンした「ジャパン・レール・カフェ」=JR東日本提供

ONE&Coの発想は、例えば自社の関連企業や駅ナカなど商業施設のテナントに、「(JR東日本と)いっしょに海外へ進出してもらうことを支援する」。「当社は地域コンテンツや有名国内ブランドとのテナントネットワークなど、豊富な『ジャパンコンテンツ』を持っている。このコンテンツをいっしょに海外へ持ち出したい」。山髙リーダーは、話す。

より豊かなライフスタイル提供

経営ビジョン「変革2027」は、輸送サービスだけではなく生活サービス関連事業を新たな収益の柱とし、27年には生活サービスなど輸送以外の収入を全体の4割にまで増やすことを目標に掲げる。海外事業の分野でも「より豊かなライフスタイルの提供」を掲げて生活サービス分野の事業に積極的に乗り出している。

海外での生活サービス事業の第1号が、シンガポールでの「ジャパン・レール・カフェ」開店(2016年12月)だ。日本を訪れるアジアの旅行者をターゲットにした「テーマカフェ」。飲食店のほか、日本に関連するイベントやセミナーを開催。日本の自治体のイベント開催にスペースを提供したりもしている。

飲食店で提供する料理は、寿司や天ぷらなど一般的な日本食とは違い、ハンバーガーやカレー、海鮮アボガド丼など、日本のエキナカのカフェで提供している料理に近いものだ。「アジアからの訪日客はリピーター化している。ステレオタイプの日本ではなく、より日常に近い日本を感じてもらう狙い」と山髙リーダー。

17年12月にはJR東日本系の駅ビル商業施設「ルミネ」が初めて、シンガポールに開業。18年にはジャカルタルにも進出した。19年1月には台湾に「アトレ南山ブリーズ」が開店。4月にはシンガポールのチャンギ空港隣接商業施設に飲食・物販複合型店舗「JW360°」を開店した。

さらにシンガポールで20年に開業予定の地下鉄新路線「トムソン・イーストコート線」の、駅構内商業区画開発・運営権を獲得。日本の鉄道会社として初めての海外での1路線全体の商業権獲得で、日本でのエキナカのノウハウを活かして店舗の運営に取り組む。

駅での消費行動握る強み

管内の自治体や地場企業を含めた「ジャパンコンテンツ」の集積▽鉄道との動線を効率的に設計して、いかに顧客に店舗に立ち寄らせるかなど駅での消費行動握る強み「ハードのデザイン力」▽グループ企業を含めた「商業施設の運営ノウハウ」――。山髙リーダーが挙げる、鉄道会社であるJR東日本の生活サービス分野での強みだ。

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大勢の客でにぎわう日本国内の「エキナカ」店舗=JR千葉駅構内で金森崇之撮影

「ジャパンコンテンツ」とは、東北の伝統的な産品もあるが、東京のエキナカで人気のカフェのメニューもそう。人々の心をつかむ日本発のコンテンツ、といった意味だろう。2点目と3点目については、JR東日本がグループ全体で積み上げてきた、駅という都市空間を代表する場所での人々の消費行動に関する分析だ。

山髙リーダーは「JR東日本グループは、駅という特殊な場所での消費者の消費行動を知り尽くしている」という。例えば、こんな例を山髙リーダーは挙げる。「毎日同じ駅を利用する客は飽きやすく、エキナカの飲食店は飽きられないメニュー開発が重要。グループ会社で飲食事業を行うジェイアール東日本フードビジネス社は、狭い厨房でいかに種類の多い料理を提供するかというノウハウを蓄えている」「駅利用者を商業施設に誘導するためには店内の見通しがよくなければならない。陳列棚の高さを制限するなど、ルミネやアトレは空間デザインの独自のノウハウを持つ」

JR東日本は発足後、駅のスペースを外部に貸し出すのではなく、飲食店や商業施設として自ら運営し、グループ全体で膨大なノウハウを蓄えてきた。生活の近代化が進んだアジアの都市部で、駅の利用者の消費行動は日本と重なる部分が大きいはずだ。

鉄道会社としての海外での生活サービス事業はまだ緒に就いたばかりだが、山髙リーダーは「日本で蓄積したこのノウハウが海外で活用できれば、生活サービスの事業領域はぐんと広がっていくはず」と意欲を燃やす。


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〝オールジャパン〟の鉄道コンサルタント
各社のノウハウ結集しジャカルタ新規開業を支援ーー日本コンサルタンツ

今年3月に、インドネシア初の地下鉄として開業した「ジャカルタ高速鉄道(MRT)南北線」。既存の路線を近代化したインドネシア通勤会社とは違い、日本の円借款(ODA)でゼロから建設された都市鉄道だ。「運営会社は、これまで鉄道事業の経験のない人がほとんど。組織のグランドデザインづくりから乗務員の採用、訓練まで取り組んできました」。2016年から、運営維持管理に関するコンサルティングサービスを行ってきた「日本コンサルタンツ」(JIC)の宇都宮真理子技術本部副部長はそう話す。

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運行を本格開始したMRTの真新しい車両=ジャカルタで2019年3月25日、武内彩撮影

在来線の空港延伸に伴う拡充が進む中、インドネシアの鉄道業界は人材の余裕がなく、開業を数年後に控えた運営会社には鉄道事業の経験者はほとんどいない状態。日本コンサルタンツは、鉄道の運営にどういう組織が必要で、どのくらいの要員が求められるかという提案からスタートした。17年から乗務員を採用。一部はインドネシア在来線のOBを採用し、彼らにトレーナーとして必要な教育を施したうえで、運転士経験のない新規採用者の教官役を務めさせた。

JR東日本出身で、乗務員などの経験もある宇都宮副部長は「日本コンサルタンツは、JR東日本のほかJR西日本、東京メトロなど国内の主要鉄道会社10社が出資する鉄道専門の海外コンサルティング企業。日本の鉄道の強みの一つに1960年代から東京圏の大量輸送を実施してきたことがある」と話す。

例えばMRTの列車ダイヤの作成に関して、「遅れに強いダイヤ」のノウハウを提供したのは東京メトロ。特にピークタイムの高密度運転時において、電車が遅れても他の電車にその後れを連鎖的に波及させないダイヤ作りのノウハウがあるという。莫大な首都圏の需要を満たす輸送力を確保するために、列車の遅れを最小限にする工夫は東京メトロならではのものだ。

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ジャカルタ初の地下鉄となったMRTのホームで、記念撮影する乗客ら=2019年3月25日、武内彩撮影

鉄道システム、パッケージで売り込みに期待

日本コンサルタンツは2011年、それまで一般社団法人「海外鉄道技術協力協会(JARTS)」が行ってきた海外コンサルタント事業を引き継ぐ形で、鉄道各社の出資で設立された。

鉄道ビジネスの海外輸出支援・促進に取り組む国土交通省などによると、鉄道システム輸出でライバルとなる欧州には、「ビッグスリー」と呼ばれるボンバルディア、アルストム、シーメンスなどの総合鉄道メーカーが存在し、土木施設や電力、信号などの設計製造から車両納入、開業後のメンテナンスまで総合的なビジネスを展開している。

さらにシストラ(フランス)など総合的な鉄道コンサルタント企業が、プロジェクトの計画、立案段階から工事、運行まで一括してコンサルタント業務を実施している。日本にはこれまで同様の鉄道専門の総合コンサルタント企業が存在せず、欧州勢にとって有利なEU規格でのプロジェクト形成を許してきたと、国土交通省などは指摘する。

鉄道の事業性調査から設計、建設、車両導入、開業後の運営維持管理、経営まで事業を熟知している鉄道会社で構成する日本コンサルタンツの発足には、「海外に日本の鉄道システムを一つのパッケージとして売り込んでいく」役割への期待がある。2015年12月、日本の安倍首相とインドのモディ首相の会談で、インド・ムンバイとアーメダバード間の高速鉄道に日本の新幹線方式が採用されることが決まった。

日本コンサルタンツは16年、主幹事会社として日本工営、オリエンタルコンサルタンツグローバルの2社と共同企業体を組み、国際協力機構(JICA)からプロジェクトの詳細設計調査を受注。18年にはインドに現地子会社を設立して、インドに日本の新幹線のシステムを導入するプロジェクトの中心的存在として活動している。


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日本、北米、アジアにリソース集中
インフラ輸出追い風に——車両メーカー・川崎重工車両カンパニー

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川崎重工製のシンガポール地下鉄向けT251車両。現在、試運転中だ=川崎重工提供

「日本は少子高齢化で市場は伸びないと言われるが、重要な市場であることは間違いない。その上で北米とアジアに力を入れ、3地域で3分の1ずつの事業規模をめざしたい」。日本の鉄道車両メーカー大手、川崎重工業車両カンパニーの村生弘・営業統括担当執行役員はそう話す。

日本の鉄道車両メーカーは、重工業系の川崎重工と日立製作所、鉄道会社系の日本車両製造(JR東海系)、総合車両製作所(JR東日本系)、近畿車両(近鉄、JR西日本系)などに二分される。川崎重工の鉄道車両部門は、1911年に日本第1号の国産化蒸気機関車を製造し、戦前には多くの鉄道車両を中国向けに輸出してきた長い歴史を持つ。第二次大戦後は「戦後賠償として東南アジアに細々と車両を輸出していた」(村生執行役員)程度だったが、1979年にフィラデルフィアの路面電車を受注したのを皮切りに80年代以降、米国市場への本格的な参入を図った。

米国への車両納入は「バイアメリカン条項」の制約を受け、多数の米国製部品の使用を義務付けられる。輸送費削減の狙いからも86年にニューヨーク郊外に車両製造工場を新設。2001年にはネブラスカ州にも工場を設け、ニューヨークの地下鉄や郊外鉄道などの車両を中心にこれまで6000両を納入。米国市場では08年から17年で自社調べで18・2%のシェアを占め、世界で鉄道車両の「ビッグスリー」と呼ばれる欧州系メーカー、ボンバルディア、シーメンス、アルストムの3社とトップを競っている。

一方、アジア向けでは1990年代から主にシンガポールや台湾、香港などの地下鉄車両を中心に受注し、高いシェアを持つ。生産は、日本国内向け車両を製造している神戸市の兵庫工場だ。

日本の鉄道会社に鍛えられた強み

村生執行役員は、「日本の車両メーカーの強みは、発注者の要求を受け入れテーラーメードの車両を造り上げる能力」だという。欧州の各メーカーはメーカー自身がスタンダードを決めており、鉄道事業者側に選択の余地は少ない。車両にこだわりを持つ日本の鉄道会社に「鍛えられた」日本のメーカーは、要求に応じることが当たり前。それが発注者の信頼につながるという。

アフターサービスについても「我々は何かあれば、『まず現場へ行って修理する』というのが当たり前」。欧州メーカーは、故障は誰の責任なのかという、議論から始まるという。納期が守られないことも多く、村生執行役員は「海外では『納期を守るカワサキ』と認識してもらっている」と話す。

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1986年から米国向け地下鉄などの車両を生産してきたKawasaki Rail Car, Inc(川崎重工の米国法人)=同社提供

新興のライバルが中国メーカーだ。2015年、当時世界1位と2位の車両生産規模を誇った「中国北車」と「中国南車」が合併し、世界最大規模の車両メーカーである「中国中車」が発足した。圧倒的な価格競争力を武器に海外進出を加速させており、各地で日本のメーカーと競合するケースが増えている。

「中国メーカーは価格が安い上に、技術的にもあなどれないところにきている」と村生執行役員。「我が社としては強い地域にリソースを集中する。価格ですべてが決まる南米などでは、中国と競争はしない」と話す。

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川崎重工が受注したダッカMRT向け車両の完成予想図=同社提供

アジアに新たなマーケット

一方、日本政府が国を挙げた成長戦略として掲げる鉄道インフラ輸出は、鉄道車両メーカーにとっても追い風になっている。台湾やシンガポールなどのアジアの先進地域では、80年代から自己資金で都市鉄道の整備が進み、メーカーは独自に受注を獲得してきた。一方、自己資金による都市鉄道整備が難しい国々でも、資材の調達先を日本企業に限る「タイド」条件の円借款による都市鉄道整備計画が次々に持ち上がってきた。

ベトナム・ホーチミン市の都市鉄道1号線は日立製作所、ジャカルタのMRTは日本車両、バングラデシュ・ダッカMRTは川崎重工が、それぞれ車両納入を受注している。今後もフィリピンのマニラ首都圏地下鉄、スリランカのコロンボ公共交通システムなど、円借款による都市交通整備計画は各地で目白押しだ。

「我が社は日本と北米のほか、アジアでだんだん西の国へ進んでいる状態。人口が多いアジアは新たな市場が創出され可能性が広がっている。取捨選択しながら取り組んでいく」と村生執行役員は話す。

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村生弘・川崎重工車両カンパニー営業統括担当執行役員=同社提供
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■西尾英之(毎日アジアビジネス研究所主任研究員)

1987年毎日新聞社入社、福島支局、社会部などを経て2003年よりイスラマバード支局、ニューデリー支局、アジア総局(バンコク)を歴任。17年10月より現職。