中国は日本と同じく高齢化社会を迎えている。多くの日本企業にとって、省エネ、環境保護などの分野と共に中国との提携で重要になっているのが、高齢者介護(中国語では「養老」)の分野である。日中関係が順調であれば、こうした分野の関連プロジェクトの推進は比較的容易である。現在、日中間の政治関係は改善しており、中国の介護市場は日本企業にビジネスチャンスをもたらしそうだ。【毎日アジアビジネス研究所コラムニスト・陳言(北京)】

2053年には高齢者4億8700万人政治関係改善の今が好機

6月12日、中国最大の商業保険グループ、中国人寿保険(集団)公司(中国人寿)と、日本の礼愛(リエイ)、湖山医療福利集団、日医(ニチイ)学館など日本の介護企業7社が参加して、中国江蘇省蘇州で「2019中日健康養老産業シンポジウム」が開かれた=写真上、中国人寿提供。
中国人寿は5億人のユーザーに生命保険分野の保険保証と投資計画のサービスを提供し、200万人以上の保険セールススタッフを擁している。同社は現在、蘇州、天津、三亜、深圳などで介護プロジェクトを展開し、保養レジャー、健康管理、リハビリ、医療看護等のさまざまな基本的業態を確立している。

日本企業との提携、中国介護市場の共同開発は今、中国でのトレンドだ。中国は1999年に高齢化社会に入った。2017年末までに、60歳以上の高齢者は2億4000万人に達し、総人口の17・3%を占めている。25年には3億人を突破し、33年には4億人を上回る。中国は世界で高齢化が最も深刻な国の一つである。

専門家の将来見通しによると、2053年、中国の高齢人口は4億8700万のピークに達し、世界の高齢人口の4分の1を占める。人口高齢化に伴って、独居老人の割合が高まり、要介護高齢者層が増加し、病気の蔓延傾向もますます深刻になる。

日中間では介護問題に関する討論会が何度も開かれてきた。今年3月27日には日本の「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)北京事務所主催で「第45回創新オープンサロン、新中日創新プラットフォーム構築」が開かれた=写真、NEDO提供。この席で中国老齢産業協会執行秘書長の牟麗娜氏は、次のように発言した。「わが国の医療機関と介護機関は一貫して、相互に独立したシステムだ。介護機関は介護だけで医療は行なわず、病院は医療を提供するが介護サービスはしてこなかった。こうした状況下で、医療と介護が分離している結果、病気にかかった高齢者は普通、介護機関から帰宅せざるを得ず、医療機関と介護機関の間をかけずり回り病気治療は社会と家庭に大きな負担を強いている。また、病院側も良質な医療資源に最大の力を発揮できない。最近の2年、政府と専門研究機関は医療と介護を結び付けるモデルを提案している」

介護と医療の結合を

牟氏が指摘する問題を解決するためには、新たな概念を導入しなければならない。医療と介護を結び付ける「医療プラス介護」によって、介護サービスばかりを強調してきた伝統的な介護理念を超越し、介護サービスと医療サービスの両立とともに、老後生活の保障における「医療+介護」を重視すべきである。医療、介護両面の統合によって、持続的な高齢者サービスを提供すれば、将来的な要介護、独居、疾病高齢者のさまざまな生活需要を満足させ、社会資源を最大限に活用できる。介護機関と病院との間の資源の乖離状態を打開し、ウインウインさらに全面ウインの局面を形成できる。

「医療+介護」は中国国内外で注目を集めている。牟氏は「中国では現在多くの介護機関が『医療+介護』を中心とするサービスモデルの展開を検討し始めている」と紹介する。このような「医療+介護」の提供や介護をメーンとする健康管理介護専門サービスは、高齢者に日常的な健康診断、健康促進、中国医学によるリハビリ、介護看護やその他生活利便サービスなど入居者にカスタマイズした専門サービス、さらに、さまざまな高齢者のニーズに応じた高品質の「医療+介護」サービスを提供する。

療法士に手助けされながらリハビリを行う高齢者=新華社


日立とテンセントが提携

日中両国は政府レベルでは、すでに2015年10月という早い時期に「中日高齢化対策戦略技術プロジェクト」に調印。16年5月20日から5年間、北京市と江蘇、浙江、陝西各省にあるモデル施設で、一歩先に高齢化社会に突入した日本のノウハウを中国側に伝える取り組みが行われている。

民間でも現在、多くの日本企業が中国の介護産業分野で業務を行っている。リエイ、ニチイ学館などはその中でかなり積極的な企業の一つだ。

規模から言えば日立製作所だろう。すでに相当な額の投資を中国での介護事業に投じている。

日立はグループ全社が広東省深圳市に拠点を置く世界有数のIT企業、騰訊(テンセント)と戦略提携関係に調印し、テンセントというプラットフォームを通じて全社の介護業務を行なう手法を採用している。今年5月、雲南省昆明で開催した「テンセント・グローバルデータエコ大会」で、同社は日立の介護業務を幅広く紹介した。

3月の「第45回オープンサロン」で、日立側も自社の中国における具体的な業務を積極的に紹介した。「日立解決方案(ソリューションズ)中国有限公司」の張若皓総経理は以下のような事例を挙げてPRした。

まず、日立の介護分野におけるコンサルティング事業について紹介。山東省威海で8つの自然村を整理して一つの現代的なコミュニティーを造成した。このコミュニティーの独居高齢化率は70%を上回り、しかも農村の高齢者は収入が少ない。日立は、コミュニティーの高齢者に対する介護について、コンサルティング・プランを提供した。

張若皓総経理は、次に日立のスマート設備や介護グッズを紹介した。日立のセンサーは非常に精巧でバイタルサインを感知し、身に付けることも、ベッドに置くこともできる。

日立はIT企業として、主に同社のセンサーを使用した家庭用インターネット・スイッチも開発した。高齢者世帯の水道管が破裂して、水が流れっぱなしになっても、高齢者は気が付か日立とテンセントが提携ず、気付いたとしてもどう対応してよいかわからないことが多い。日立の製品はこれに気付いて警察に通報する。侵入者やガス漏れなどの通報にも対応する。高齢者が転倒した場合も警察に通報する。

スマートフォンで株式相場を確認する中国の高齢者=新華社
スマートフォンで株式相場を確認する中国の高齢者=新華社

また、コミュニティーへの通信システムの提供も行う。中国では、高齢者の活動時間帯の正午過ぎになると、インターネット利用者が増加しネットやWiFiの速度が明らかに低下する。中国の高齢者はネットが好きだ。日立は関連設備を提供し、快適なネット環境を提供している。

介護グッズとして、一足200~300元(約3200~4800円)の比較的安価な高齢者用の靴も提供している。中国の生産工場と提携して多くの種類の靴を販売。例えば、足がむくんでヒモ無しの靴が履きにくい高齢者向けに、便利なマジックテープ付きの靴などだ。


政府は介護重視するも、制度面では改善の余地

中国政府は介護を重視し、日本企業は中国での事業拡大能力を有する。しかし、中国の介護には制度面で多くの改善の余地がある。

例えば、日立のスマート健康介護サービスは民間民営方式で運営され、日立は建設に投資し、提携パートナーに運営を委託。政府は5年間のサービス購入を通じて日立に報いている。しかし、5年間の契約期間が終了したらどうなるのか。契約更新には公開入札が不可欠。日立には5年後の再延長に優先権はあるが、同一条件下で優先権があるという意味であり、他社に経営権が移る可能性もある。長期間の安定経営は保証されていない。

上海市の託老所(高齢者デイサービス・集会所)を訪れ、 地元の高齢者と親しく言葉を交わす習近平主席=新華社
上海市の託老所(高齢者デイサービス・集会所)を訪れ、
地元の高齢者と親しく言葉を交わす習近平主席=新華社

中国の現行の介護費用は非常に安く、介護事業への投資の回収は困難である。日立の中国における介護事業を見ると、一つのサービスの料金は30~50元(約480~800円)で、他のサービスを加えてもせいぜい100元(約1600円)前後。年間でも要介護者1人当たり1000元(約1万6000円)ほどの収入にしかならない。サービスの対象となる多数の要介護者がいなければ、企業が高収益を実現するのは大変難しい。

日立解決方案(ソリューションズ)中国有限公司の張若皓氏は次のような例を語った。高齢者がよく訪れる場所に足裏マッサージのいすを設置し、使用料を無料にした。利用者が殺到し、3カ月後にはいすは故障。マッサージいすに需要があるのは明らかだ。しかし、1回2元(約30円)の有料とすれば、結局、1元も得られないことになる。高齢者は料金がいくら安くても、お金を払ってまで快適さを求めようとはしない。巨大な需要がある中国の高齢者サービスだが、そこから利益を得ようとすると、実際にはとても難しい。

日本の高齢者介護施設は最低でも24床必要。だが、中国の多くの地域では、これほど多くのベッド数を確保できない。日立は浙江省嘉興市で14床のコミュニティー・ビルトイン式の介護施設を設置した。なぜわずか14床なのか。それはこの施設が旧家屋を改造した建物であり、14床しか設置できなかったからだ。この規模では、企業が収益を得るのは困難だ。

介護」面では、中国の現状では、介護施設が病院を併設するか、病院が介護施設を併設することが大部分。中国では遠隔医療、家庭ドクター、移動医療ステーション等に対する需要が極めて高く、「医療+介護」において、この点に着目すれば事業の前途は開けているが、今のところ、関連事例は極めて少ない。

中国人寿は、金融と実際の事業、また保険部門とサービス部門などを包括した、介護に関する総合的なサービスシステムを構築している。日本企業が中国での介護事業を継続していけるかは、中国の大手保険企業、インタネット・プラットフォーム、あるいは政府との円滑な協力関係を築けるかにかかっている。


日本のホスピタリティーに価値

「礼愛」ブランドで中国展開
椛澤・リエイグループ代表に聞く

「2019中日健康養老産業シンポジウム」に参加したリエイ(椛澤一=かばさわ・はじめ=グループ代表、本社・千葉県浦安市)は、中国において「礼愛」ブランドで北京市、上海市、広東省広州市、四川省成都市、江蘇省南通市を拠点に介護施設運営やコンサルティング事業を展開している。

グループ代表の椛澤氏は「介護などの分野では日本のホスピタリティ(おもてなし)に価値を感じてもらっている。中国にはマニュアルはあるが、心の部分が染みこんでいるかといえばそうは言いがたい。しかし、ハードウェアの面では潤沢な資金力で日本に追いついており、日本のホスピタリティにも賞味期限があると感じます」と語る。

椛澤一リエイグループ代表(右)と椛澤
椛澤一リエイグループ代表(右)と椛澤
優奈アジアリエイ社長=浦安市の本社で

リエイが中国に進出したのは2011年。ちょうど同年に中国政府が打ち出した第12次5カ年計画に「養老(介護)」の文言が短く記載された。高齢化社会を見据えた施策であったが、中国国内で介護の概念は理解されておらず、椛澤氏にとっても手探りのスタートだった。

最初に北京市で実験的に始めた小規模多機能施設の利用者は現地で看護師や家政婦も雇える経済力のある高齢者だった。椛澤氏は「施設の活用動機を考え、肉体的だけでなく精神的につらい認知症家族に焦点をあてた。すると大半が認知症症状の高齢者が利用するようになり、現地雇用スタッフの訓練を重ね、日本的な見守りケアを実践していった」と言う。この施設が介護のモデル的な存在として、中国中央テレビなどのメディアに取り上げられ、孔子の道徳思想の徳目を参考に命名された「礼愛」のネーミングとともに知名度も上がった。最近では新華社通信が南通市にある介護施設「礼愛介護中心」=写真下、同社提供=を取材している。

現地有力企業と合弁全国展開へ

現地有力企業と合弁全国展開へ椛澤氏は1972年に創業し80年にリエイ社を設立した。食をベースに事業展開し、企業・法人を対象とした福利厚生サービス事業は全国500カ所、年間給食数は約1300万食に上る。介護事業は国内50カ所を運営し、アジア進出は2003年のタイのバンコクから始まり、その後、11年から中国に進出した。

現在、グループのアジアリエイ社(椛澤優奈社長)を中核に、中国の恒大集団や華潤集団の傘下にある健康関連企業などと合併企業を設立して全国展開に臨む。多くのC C RC(Continuing Care RetirementCommunity=高齢者が生涯を暮らす街づくり)事業に参画している。今後のさらなる展開は、日本国内の同業者(法人及び個人)から募る運営パートナーシステムを構築中であり、アジアの介護事業への体制作りを急いでいる。【毎日アジアビジネス研究所】

西尾P陳言 1960年、北京生まれ。82年、南京大学卒。82~89年『経済日報』勤務。89~99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99~2003年萩国際大学教授。03~10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。現在は「人民中国」副総編集長も務める。