荒木英仁のインクレディブル・インディア ②

Eコマース急成長で日本企業にチャンス

自動車業界の低迷

長らくインドの景気を牽引してきたインドの自動車業界が、今年に入って相当低迷している。インド自動車工業会(SIAM)が発表した2019年9月末の乗用車全体の販売台数は22万3317台と11カ月連続の減少となった。前年同月比23・7%減である。この年初から続く販売不振は、金融機関の流動性不足(今まで自動車、自動二輪車産業を支えてきた大手ノンバンク系が相次ぎ倒産し、都市銀行系においても貸し渋りが起きている)②自賠責保険の負担増③20年春に導入されるBS6(欧州レベルの排ガス規制)――等が理由で、買い控え現象がおきているためだと言われている。

但し7月、8月に比べ販売台数が若干上向きになっている点、また景気テコ入れのため財務大臣が9月20日に発表した法人税の引き下げ(19年4月~20年3月の法人税25%~30%を一律22%へ)、そして月末のインド最大のお祭りであるディワリ(DIWALI)が、景気を盛り返してくれる事が期待される。

これからインド進出を目論む日系企業にとっては追い風となる施策も同時に発表された。政府が推進する「Make in India」のもと新たな製造業を誘致すべく、19年10月1日以降に新規設立する製造業に対して法人税を15%とするオプションを提示した。但しこの税率適用になるためには23年3月31日までに製造を開始する事が条件となる。

オンラインビジネスは活況

上記の通り、インド経済を取り巻く環境は決して明るくはないが、10月末に迎えるインド最大のお祭りで小売業界にとって年に一度の大商戦期であるディワリを前に、オンラインビジネスは活況を呈している。

祭事商戦期の中、Eコマース(EC)の2大巨頭、フリップカート(Flipkart、ウォールマート傘下)とアマゾンは好調が続いている。両社が祭事商戦第1キャンペーンを実施した9月29日から10月4日の6日間の間に、30億ドルの売上を達成(前年比30%増)した事は記憶に新しい(Economic Times 10月11日付)。

今回も先号に引き続きインドのオンラインビジネスをもう少し掘り下げてみたいと思う。
18年4月に日本の経済産業省から発表された「平成29年度電子商取引における市場調査」によると、17年度の日本のEC市場規模は16・5兆円である。また、全小売市場に対してのEC比率は5・79%に留まる。インドはどうだろう。17年度のインドのEC市場規模は約4兆円、EC比率は2・5%程度ではあるが、20年度予想は約6・5兆円、EC比率は5%に達すると言われている。3年間で市場規模が162%伸長する、恐るべき市場である=グラフ1参照。

スマートフォンは1人に1台

このEコマースの快進撃を担っているのが携帯電話(スマートフォン)だ。今やインドも階級、職業に関係なく、一家に1台ではなく、1人が1台携帯電話を保有する時代に入っている。18年度の携帯電話契約数は12億件を超え、インド全人口の92%を占める=グラフ2。また、16年9月に財閥系通信会社「リライアンス」が画期的な4Gサービス〝JIO〟を半年間タダで提供するキャンペーンを実施。発表後6カ月あまりで契約者1億人を突破した事は、当時大きなニュースとして報じられた。

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グラフ1
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グラフ2
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グラフ3
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表1

その後、同社は次々にデータ通信のダンピング戦略を決行。それまで日本同様にデータ通信料が高止まりであった料金体系を破壊し(それまでインド市場を席捲していたAirtelとVodafoneの大手通信事業主は値下げせざるを得なかった)、高速通信4Gの普及につながった。結果として低所得層でも手軽に高速通信が可能となり、デジタル化を加速した。さらに中国製の安価なスマートフォーンの普及=表1=により、所得に関係なく誰もがスマートフォーンを手にして(18年のスマートフォンユーザーは4億人を突破)、オンラインアプリを使いこなすようになっている。また18年度時点で国民の約半数にあたる5億6500万人がブロードバンド契約しているのである=グラフ3。

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スマートフォンを手にするリキシャワラ(リキシャのドライバー)。インドでは所得に関わらず誰もがスマホを手にして、オンラインアプリを使いこなすようになっている=筆者撮影

配送サービスも急速に改善

これにより、近所のパパママストアにある限定的な商品しか手に入らなかった地方の消費者が、フリップカート(インド発の企業で日本の楽天のような存在)やアマゾンのようなバーチャルモール経由で、あらゆる物を手に入れる事が可能になったのである。もちろん日本のような近代的な物流インフラが整っていないインドで、当初は届いた品物が壊れていたり、予定通りのスケジュールで品物が届かなかったりという問題が多発した。

黎明期の頃、LED式の時計をオンライン購入し、2週間後に届いた商品を開けた時には画面が粉々になっていて落胆したものだった。当時は新品交換までに何度もセラーとのやり取りが必要になり、結局、新品を受け取ったのは2カ月も後になった。

しかしその後サービスは急速に改善され、今では注文日の翌日には何の問題もなく届く。包装も当初は簡易プラスチックバッグに入って配達されていたが、アマゾンの進出により、パッキング品質も格段に向上し、日本同様に壊れ物はバブルラップ等で厳重に梱包されて届くようになった。

ただし、日本のように制服を着た小ぎれいな宅配便のお兄さんが配達するのではなく、ボロボロのティーシャツにサンダル履きの若い青年が届けて来るのがインドである。ここインドでは、日本のような宅配便のインフラはまだ整備されていない。

代引き導入も後押し

保守的でバーチャルな商取引を信用せず、Eコマースに積極的でなかったインドの保守的な消費者を引き付けたのは、フリップカートが導入した返品保証サービスである。これによって、手に取り気に入らない場合、支払ったお金が直ぐに返金されるという安心感から、徐々に浸透していったのである。

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グラフ4
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グラフ5

さらにEコマースを後押ししたのがCOD(キャッシュ・オン・デリバリー)、すなわち商品代引きの導入である。カードでの決済を嫌う金持ちインド人は、現金取引している限り証拠が残らないという安心感を好む。Louis Vuitton, Channel等のブランドショップ、またZaraや最近インドに上陸したユニクロ等のアパレルショップで大人買いしているインドの富裕層は、例外なく全て現金で支払いを済ませる。

18年度のインドのEコマースのカテゴリー別売り上げ上位は家電(48%)、衣類(29%)、家庭雑貨(9%)――の順となっている=グラフ4。日本の上位とは少し様子が違っている。経産省が発表した一昨年度の電子商取引調査によると、事務用品(37・4%)▽家電(30・2%)▽書籍(26・4%)――の順。これは市場の成熟度と生活様式の違いから来るものと考える。

現在インドのEコマース小売市場はフリップカートとアマゾンの一騎打ちとなっており、前回紹介したインド発フィンテックのPaytmが巨大なカスタマーベースを武器にシェアを増やしつつある=グラフ5。3~4年前まではシェア30%ほどをキープしていたSnapdeal(ソフトバンク出資)は、残念ながら脱落してしまっている。

Eコマースに多くのメリット

このように、まだまだ右肩上がりが続くインドのEコマースは、巨大インド市場にエントリーを期待するBtoCの日系ビジネスオーナーにとっては、チャンスと考える。

広大な国土(日本の約9倍)に、多種多様な人種、慣習、言語(英語を含む23の公用語)が入り混じる特殊なインド市場に、オフラインでエントリーする事は容易ではない。実際、今までも数多くの日系消費財トップブランドがインド参入を試みてきたが、いまだ成功事例が限りなく少ないのが現実である。そんな難攻不落のインド市場においてEコマースの台頭は日系ブランドにとっては救いと成り得ると考える。

Eコマースはオフライン市場と比べ、①実店舗展開に比べ初期投資が圧倒的に少なくて済む②商圏に限りがなく販売網エリアは一気に全国をカバーでき、24時間年中無休③取扱商品に制限が無い④顧客情報(購買パターン、住所、電話番号)が再利用価値の高いデータベースとなり得る⑤実販売しながら、将来的にオフライン参入する為のテストマーケティングが出来る等、メリットが多い。日系ブランド価値が辛うじてまだ若干残るインドで、このチャンスをものにして欲しいと願うばかりである。当分インドのEコマース市場から目が離せない。

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■荒木英仁(あらき・ひでひと)

長年、大手広告代理店「アサツー・ディ・ケイ」(ADK)の海外事業に従事し、2005年から9年間、同社インド法人社長。14年、ニューデリー郊外の新興都市グルガオンにて「Casa Blanka Consulting」社を設立し、日本企業のインド展開や、日本企業との提携を求めるインド企業を支援。インド最大手私銀「ICICI Bank」のアドバイザーや、JETROの「中小企業海外展開現地支援プラットフォーム」コーディネーターも務める。