ロヒンギャ武力衝突から2年
米政府に強硬策促す超党派コンビ
USCIRFのメアンザ氏とバーガバ氏

ミャンマーの治安部隊と少数派イスラム教徒ロヒンギャが衝突し、大規模なロヒンギャの国外脱出が始まってから8月25日で2年が経過した。70万人以上の難民の大半は隣国バングラデシュに逃れたが、これまで3回あった帰還の試みはいずれも実現しておらず、長引く難民生活にロヒンギャは苦しめられている。こうした中で、米国政府の独立機関である「国際宗教の自由委員会」(USCIRF)が「米国の対応はあまりにわずかで遅い」と指摘す

る声明を発表した。まとめたのは、いずれも人権問題に詳しい同委員会委員のネイディーン・メアンザ氏とアヌリマ・バーガバ氏だ。現地調査も踏まえた結果として、ミャンマー軍関係者への「経済制裁など標的を絞ったツール」で圧力をかけ、ミャンマーを世界人権宣言に従わない「特定懸念国」に指定するよう求めている。制裁強化の論議は連邦議会でもくすぶっており、トランプ政権の対応が問われる。

■悲惨な現状示す2つの報告書

ロヒンギャの大量流出から2年たったいまもバングラデシュの避難キャンプにはロヒンギャ難民があふれている。バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプでは大規模なデモが実施され、ロヒンギャが迫害の責任追及を求めて声を上げた。長期の難民生活で絶望感に打ちひしがれ、それでも無策なミャンマー政府にロヒンギャたちは怒っている。人身売買や麻薬密売、レイプなどの危険も高まるばかりだ。

国連によると、2017年以降、人道支援機関は保健、栄養、水と衛生、教育、保護などの最低限の生活保障を推し進めてきた。キャンプ内に保健センターを設置し、妊婦や赤ちゃんのための24時間体制の医療サービスを確立したり、塩素処理水をパイプラインで給水所に届けたりする支援を広く展開してきた、という。それでも下痢など水に起因する病気の脅威は続いている。

大量難民が発生して2年となる節目に合わせて国連機関から二つの報告書が発表された。一つは、ユニセフ(国連児童基金)が8月16日に発表した「生き延びて:学習意欲にわくロヒンギャ難民の子供たち」(原題Beyond Survival: Rohingya RefugeeChildren in Bangladesh Want toLearn)である。「不満と絶望」に打ちのめされた子供たちに「教育や能力開発の機会創出に緊急投資が必要だ」と訴えている。

「国際宗教の自由委員会」(USCIRF)のネイディーン・メアンザ氏(上)とアヌリマ・バーガバ氏(下)=同委員会のホームページから

報告書によれば、バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民は74万5000人にのぼる。4歳から14歳までの子供で今年6月までに何らかの教育の機会を得られたのは28万人。このうち、19万2000人の子供たちは2167カ所の学習センターに通っているという。しかし、2万5000人がまだ教育を受けておらず、さらに640カ所の学習センターが必要とされる。15歳以上の97%はいかなる教育施設にも通っていない。

キャンプの学習センターでは学習教材などが整いつつあるが、カリキュラムや学習指導要領、評価手法など不十分な点はまだまだ多い。十分な教育を受けられない若者が将来に不安を感じたり、希望を失ったりする事態を避けなければならない。ユニセフはミャンマーとバングラデシュ両国政府に、「国の教育資源を使ったより体系的な教育を提供すること」を認めている。もう一つが、ミャンマーの国連独立国際事実調査団が8月22日に発表したロヒンギャらへの性的暴力に関する報告書(原題:Sexual and genderbasedviolence in Myanmar and thegendered impact of its ethnicconflicts)だ。数百人の生存者や性的暴力の目撃者とのインタビューを実施した結果をまとめたもので、「国の軍隊は性的暴力を使用するのを停止しなければならない」と求めている。

報告書では、兵士によるレイプやギャングレイプなど強制的な性的行為が日常的かつ体系的に行われていると指摘し、事例を列記している。そうした性的暴力は「民間人を脅迫し、恐怖に陥れ、罰するための、計画的な戦略の一部」として実施されていると指摘している。男性やトランスジェンダーへの性的暴力も報告されており、「民族浄化」を目的としたものであろうと容易に推測できる内容だ。

■米政府に強い対応求める超党派コンビ

国連でこうした指弾が相次ぐ中で、対照的なのは米国の対応だろう。ミャンマー軍に対する制裁を徐々に発動する一方、事態の改善に動かないミャンマー政府に対する批判のトーンはとりたてて高くはない。来年の総選挙を見据えて民主化指導者アウンサンスーチー氏の国民民主連盟(NLD)に配慮している節もあるが、これに業を煮やしたのが、メアンザ氏とバーガバ氏である。

8月23日に発表した両氏連名の論文のタイトルは、「After Two Yearsof Horrors in Burma, the U.S. IsStill Doing Too Little, Too Late」(By Nadine Maenza and AnurimaBhargava)だ。両氏はこうした軍による「凶悪な犯罪」に責任を負うべき人々がなんら処罰を受けていないと指摘。その背景には「ミャンマー政府の暗黙の無関心」があり、それに対する米国政府の警告は「どこにあるのか」と疑問を呈した。

両氏が所属する「米国国際宗教の自由委員会」(U n i t e d S t a t e sC o m m i s s i o n o n I n t e r n a t i o n a lReligious Freedom)は1998年の国際宗教の自由法(IRFA)によって創設された米国連邦機関だ。USCIRF委員は、大統領と議会指導者によって任命される。国際的な宗教の自由の侵害の事実を調査し、大統領、国務長官、連邦議会に政策提言する重要な政府の独立機関で、毎年報告書を提出している。

今回の論文で両氏は以下の2点を指摘している。第一に、ミャンマー軍によるロヒンギャなど宗教的少数派に対する仕打ちを「民族浄化(EthnicCleansing)以上のものかどうかを米国政府が決定することが不可欠だ」と求めた点だ。米国務省は「民族浄化」と認めているが、国連はそれより重い「大虐殺」(Genocide)のおそれが高いとしている。大虐殺なら「ジェノサイド条約」(1951年発効)の処罰対象となる。

正式名を、「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約」と呼ぶこの条約は、集団虐殺を国際法上の犯罪とし防止と処罰を定めている。集団殺害とは、国民的、人種的、民族的、宗教的集団の全部または一部を破壊する意図をもつて行われた重大な肉体的・精神的な危害行為」などを言う。実行者だけでなく共犯者や共謀者も訴追対象となり、国際機関での裁判で有罪になれば罰せられる。

第二に、残虐行為を犯した者が犯罪の責任を問われるよう、ミャンマー軍関係者と軍の管理下にある企業に対する制裁を強化するよう求めたことだ。米財務省は、米国内法であるグローバルマグニツキー人権説明責任法に基づき、5人の軍関係者と2つの軍事ユニットに経済制裁を課し、国務省は最高司令官ら4人に入国禁止の制約を課している。しかし、軍幹部にも渡航禁止だけでなく経済制裁を課すべきだという。

メアンザ氏らによると、国連の独立調査団の結果、軍の事業の包括的なリストが判明したという。このうち、持ち株会社Myanmar Economic HoldingsLimited(MEHL)とMyanmar EconomicCorporation(MEC)の2社はミャンマー軍の所有または影響を受けている企業で、ビジネスベンチャーで得た不正な利益を人権侵害の活動に使っていることがわかった、と指摘している。

メアンザ氏は、Patriot Voicesの創設者で、働く家族の支援から世界的な宗教の自由の擁護まで幅広い活動を続けている。オバマ前政権ではイラクの宗教的少数派に対する暴力を調査した。共和党全国委員会のコンサルタントも務め、2012年大統領選では共和党のリック・サントラム上院議員の上級顧問として陣営入りした。18年5月にトランプ大統領から現職に指名され、副委員長も兼ねる。

バーガバ氏は少数派を擁護する公民権弁護士で、NPOのAnthem of Usの代表。オバマ政権時代の2010年に米司法省に入り、公民権部門の教育機会セクション責任者を務めた。それ以前は、ニューヨーク市教育省で非白人の学生の教育機会の拡大に取り組んだ。ハーバード大学でフェローも務め、外交問題評議会のメンバーでもある。2018年12月に民主党のペロシ下院議長に現職に指名された。

■国籍付与を含めた検討を

超党派の「メアンザ=バーガバ」コンビは人道分野では著名な存在で、USCIRFが8月2日に発表したイラクでのヤジディ教徒大虐殺の現地調査も、この2人が担当している。人道問題に取り組む超党派のタッグが米国政府に強い圧力をかけたことは、トランプ政権全体にも一定の影響があるとみられる。両氏は最後に「トランプ政権と連邦議会を含む全体が立ち上がり、国際社会を先導すべきだ」と訴えている。

米国政府が制裁強化に慎重なのは、民主化に進むミャンマーへの投資が停滞し、経済が腰折れするのを警戒する向きもあろう。政治的・軍事的には、ミャンマーが活路をもとめて中国への接近を強めるのではないかという懸念もあるだろう。だが、そうして動きが停滞する影響で、ミャンマーとバングラデシュ両政府による帰還事業もまったく進まないという副作用も生んでいる。

両国は8月22日から一日300人の難民の帰還を開始する予定だったが、だれも希望者は現れず、不調に終わった。帰還計画は昨年1月と11月にも実施しようとしたが、希望者が現れずに見送った経過がある。帰還後の安全が確保できないという事情が背景にあるのは明らかだ。日本は住宅などのインフラ整備を表明しているが、最大の問題である「安全」が保たれない中で帰還を強要する方が危険だろう。

ミャンマーではロヒンギャを「異国民」とみる国民が多い。その国民にあえて反することをすれば来年の総選挙に影響があたえると与党が考えても不思議ではないだろう。しかし、問題は重大な人権問題が行われている事実だ。帰還事業を進めるには、まず、ロヒンギャを「国民」として受け入れる体制づくりが必要だ。国籍の付与などを含めてどういう政策が打てるのか。米国はその協力にも乗り出すべきだろう。

おいかわ・まさや
1988年毎日新聞社に入社。水戸支局を経て、92年政治部。激動の日本政界を20年余り追い続けた。2005年からワシントン特派員として米政界や外交を取材。13年北米総局長。16年4月から論説委員