ミャンマー制裁法案が下院外交委で可決超党派のリベラル・保守連携で主導したエンゲル氏とシャボット氏

今年1月に始まった米議会では、ミャンマーに関わる法案や決議案が19本提出されている。少数派イスラム教徒のロヒンギャ迫害問題が長期化する中、一部は「対ミャンマー制裁」を復活させる内容だ。ミャンマー軍に制裁を課す超党派の法案が6月20日、下院外交委員会で可決した。下院本会議で可決されれば、昨年12月にロヒンギャへの「大虐殺」を非難した超党派決議の採択に続く、米議会の意思表示となる。

法案を主導するのが、民主党のエリオット・エンゲル外交委員長(72)と、共和党のスティーブ・シャボット元外交委員会アジア太平洋小委員長(66)だ。鋭い党派対立で「分断」が深まる米議会だが、ミャンマーの人道問題を重視する民主党人権派と、軍への対抗措置を強める共和党保守派が連携する異例の事態となっている。今後、対強硬路線が強まるおそれもある。

軍への封じ込め強める構え

エリオット・エンゲル下院外交委員長
エリオット・エンゲル下院外交委員長
スティーブ・シャボット元外交委員会アジ
スティーブ・シャボット元外交委員会アジ
ア太平洋小委員長
=いずれも本人のホームページから

法案は、「T h e B u r m a U n i t e dt h r o u g h R i g o r o u s M i l i t a r yAccountability Act」(厳格な軍部の説明を通じたビルマの統合法案)で、英文の頭文字をとって「BURMA」(ビルマ)法案と呼ばれる。法案は全54ページにわたる膨大なもので、①ミャンマーの民主化改革が実施されるまでミャンマーへの軍事的支援の拡大を禁止する②戦争犯罪や大虐殺を含む人道への犯罪の報告を義務付ける③これらの犯罪に関与した人物に対する商取引、査証、送金の制約④戦争犯罪者の訴追に向けた捜査の支援⑤宝石の原石などミャンマーの天然資源に対するミャンマー軍の占有を制限する改革の推進――などを列記している。主な狙いは、ロヒンギャをはじめ少数民族の弾圧を強めるミャンマー軍の封じ込めだ。6月20日の下院外交委員会の採決では、原案のまま全会一致で承認された。近く、下院本会議に付託され、討議に入る方針だ。

エンゲル下院外交委員長は声明で「ロヒンギャは2017年の悲惨な攻撃以来、ミャンマー軍に苦しい目にあわされてきた。これ以上、司法の判断を待つべきではない。ミャンマー軍は同じようにほかの少数民族も攻撃しており、この数十年にわたる極めて深刻で非人道的な戦術を利用している。ロヒンギャや他の少数民族への大虐殺を実行した人物は責任を負う必要がある」と語った。

このBURMA法案は昨年、国防権限法案の修正条項として追加され、下院本会議で賛成多数で可決されたが、上院の審議ではこの修正条項が削除され、法案の内容は実現しなかった。法案の目的は、ミャンマー軍への制裁によって人権状況を改善させるもので、エンゲル委員長は「この目標を達成するために、この法案は新たな多くのツールを提供している」と指摘している。

国際的な動きに連動

昨年の議会でいったん廃案になった法案がいま日の目を浴びているのは、国際的な動きの後押しがある。今年4月、イスラム教諸国でつくるイスラム協力機構(OIC)がロヒンギャの法的権利を確立するために国際司法裁判所(ICJ)に訴える決議案を全会一致で採択した。イスラム諸国への抑圧に対抗し、解放運動を支援することを目的とするOICには中東やアジア、アフリカなどの57カ国が加盟し、世界13億人のムスリムを代表する組織だ。

これに先立つ今年3月には国際刑事裁判所(ICC)の検察官らがバングラデシュのロヒンギャ避難民キャンプを視察している。ICCは集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪について個人を国際法に基づき裁く組織だ。ミャンマー当局は国連を含む国際機構の調査や捜査の現地調査を受け入れていない。ミャンマーは一貫して「テロリストの掃討作戦だ」と主張している。

2017年8月以降のロヒンギャ難民は75万人以上にのぼっている。カナダの非政府組織オンタリオ・インターナショナル開発エージェンシー(OIDA)によると、一方でロヒンギャの被害を、▽殺害・約2万4000人▽火による殺害や傷害・約3万4000人▽暴行・約11万4000万人▽性的暴行・約1万8000人▽焼き討ち・約11万5000件▽破壊・約11万3000件――と見積もっている。

下院の法案採決では、同時に先月当欄で紹介したアンディ・レビン下院議員(民主党)が提出した「BurmaPolitical Prisoners AssistanceAct」(ミャンマー政治犯支援法案)も審議され、修正のうえ承認された。制裁的な内容ではないが、政治犯の釈放に取り組む民間組織を支援するよう米国務長官に求めている。人道問題はロヒンギャ以外の少数民族に拡大しており、米議会での懸念は広がっている。

現地からの報道によると、昨年7月にアウンサンスーチー国家顧問兼外相が設置したロヒンギャの人権状況に関する独立調査委員会(ICOE)は調査結果のまとめに向けてバングラデシュ入りする準備を進めているという。議長を務めるフィリピンのロサリオ・マナロ元外務副大臣は5月28日にバングラデシュのA・K・アブドゥル・モメン外相に表敬訪問の書簡を送った。

独立委員会はバングラデシュの承認を得たうえで、ロヒンギャ避難キャンプがあるコックスバザールへの長期的な立ち入り調査を実施したい考えという。調査は、避難民からの聞き取り調査を通じて証言や証拠、情報を収集し、記録するのが狙いだ。国際刑事裁判所は独立委員会が国際法違反の人権侵害に対し公正性を担保する独立性の基準を満たしていないと指摘しており、厳格な調査が求められている。

人権派で知られるエンゲル委員長

ロヒンギャを巡る国際的な動きが慌ただしくなる中で今回の法案は可決されたが、注目すべきは、提案者と共同提案者になった2人の下院議員の存在だ。ともに外交委員会に長く席を置くベテランだが、民主党のエンゲル氏は名うてのリベラル派、共和党のシャボット氏は党内切っての保守派という正反対の立場にある点だ。

超党派の人権議員連盟に所属するエンゲル氏の活動は幅広い。とくに知られるのは1990年代のコソボ紛争で移民となったアルバニア系米国人の支援だ。長年、ユーゴスラビアの支配下にあったコソボが分離独立を求めたこの紛争では、アルバニア人への民族浄化などの人権侵害が国際的な問題になった。コソボ住民の9割以上を占めたアルバニア人の大半はイスラム教徒だ。

エンゲル氏は1989年に下院議員に就任後、バルカン問題に取り組み、1990年代にはクリントン大統領にコソボ紛争への軍事介入を要請した。また、2008年にコソボが独立を宣言した際、米政府に承認を迫っている。エンゲル氏のこうした活動はコソボでは有名で、2017年にはコソボ政府がエンゲル氏の写真を使った切手を発行したほどだ。街中には名前を冠した「エンゲル通り」もある。

エンゲル氏は議会紙「Roll Call」に「調べれば調べるほど残虐行為が明らかになり、人々は脅されたり、殺されたりすらする非常に劣悪な状況にあった。コソボを自由にし、独立国家として認めるべきだと最初に議会で発言したのが私だ」と語っている。コソボを訪問すれば、通行人から声をかけられるのもしばしばあるといい、RollCall紙は「コソボのロックスター」と表現している。

コソボ問題に取り組んだ背景には、祖父母がユダヤ系ウクライナ人の家系のロシア移民だったことがあろう。バルカン半島でのムスリム迫害をエンゲル氏はユダヤ人を大虐殺したナチスの「ホロコースト」に例えている。2001年にはアフガニスタンのタリバンがヒンズー教徒に識別マークを強要したことを、かつてナチスがユダヤ人に着用させた「黄色のダビデの星」を彷彿とさせると非難した。

移民が多いニューヨークのブロンクス地区で育ったことも、多様性への敏感な感覚を養う糧になったかもしれない。レズビアン、同性愛者、バイセクシュアル、トランスジェンダーの学生が受ける嫌がらせや差別に反対し、同性婚を禁止した結婚防衛法に反対した。10年には同性愛者が米軍で公然と任務につけるよう求めるなど、平等の権利を求めてきた。

このほか、環境問題、動物愛護、医療、農業、中間層などへの支援から政治的な立場は「リベラル派」とされ、民主党支持の全米労働組合「米労働総同盟産業別組合会議」(AFL―CIO)からすべての議員活動を通じてほぼ100%の評価を得ている。銃問題では、殺傷性が高く、充填容量の多い銃の販売を禁止し、バックグラウンドチェックの徹底など厳しい対策を支持する筋金入りの「規制派」だ。

ただし、ユダヤ系という出自から強烈な親イスラエル派で、エルサレムをイスラエルの不可分の「首都」とする決議に賛同した。また、民主党のオバマ政権が署名したイラク核合意について「イランの核兵器保有を遮断するものではない」として反対している。いずれも、トランプ大統領の政策に合致するもので、民主党の政策と受け入れない点もある。

「最も保守的」とされたシャボット氏

一方、共和党の共同提案者であるシャボット氏は、有力政治誌「ナショナル・ジャーナル」で13年に「共和党で最も保守的な下院議員」に選ばれたこともある保守派だ。中西部オハイオ州に選挙区を持つシャボット氏は、保守派の草の根運動「ティーパーティー」の応援を受けているが、扇動的な政治家ではなく、ごりごりの保守派というイメージはない。

1994年に初当選したシャボット氏は、共和党が「保守革命」を起こした時期に重なり、社会的保守・外交的タカ派という「伝統的な保守」といわれる。2002年にはオハイオ州の公立高校で、人間の誕生や進化についてダーウィンの進化論とともに神の「知的意思」が働いたとする「インテリジェント・デザイン」(知的設計論)を教えるよう主張している。シャボット氏はかつて小学校の教師でもあった。ナショナル・ジャーナルは13年に行われた経済、外交、社会問題の計111の議会での投票についてラインキングした。シャボット氏は3部門すべてで「最も保守的」とされた。トップ5の残りの4人はいずれも保守地盤ノースカロライナ州、テキサス州、テネシー州、ルイジアナ州の南部州選出の議員だった。シャボット氏は「私の右側にはだれもいない」と当時、自慢している。

とりわけ、伝統的保守の側面が出ているのが、外交・安保政策だろう。ナショナル・ジャーナルは外交関連の投票行動について、その「95%」が「保守的」とされた。イラク戦争などを経て米国では保守派内にも対外的な関係を抑制する「孤立派」が増えている。シャボット氏は対中国政策では台湾を支持し、独裁政治に反発する傾向がある。

シャボット氏はトランプ氏を支持する姿勢をみせる。シャボット氏が所属する下院司法委員会では、16年大統領選でのロシアの介入疑惑をめぐる公聴会が始まっている。シャボット氏は、1998年に当時のビル・クリントン大統領(民主党)を偽証と司法妨害の罪で弾劾することに賛成票を投じた。いまの司法委員会の共和党委員17人のうち、当時を知るのはシャボット氏ら2人だけだ。

しかし、トランプ氏の弾劾の是非についてシャボット氏は米誌アトランティックのインタビューで、トランプ氏の弾劾を支持しない考えを表明している。クリントン氏のときに支持したことについて「クリントン氏は弾劾に値する違反を犯した。それが賛成票を投じた理由だ」と語った。今回、トランプ氏にはモラー特別検察官の捜査で10件前後の妨害が確認されているが、シャボット氏は「多くの違いがある。クリントン大統領は宣誓した証言にウソがあり、偽証した」とする一方、トランプ氏は宣誓した証言はなく、「偽証はしていない」としてトランプ氏を擁護した。

国内政治や外交に対するスタンスは大きく異なるエンゲル氏とシャボット氏だが、その左右両極の二人が連帯して糾弾するミャンマー情勢は、米国からみると悪化の一途をたどっているように映る。両氏の法案が下院を通過しても、上院ではアウンサンスーチー氏を支持する共和党トップのミッチ・マコネル院内総務が法案を取り上げるかどうかはわからない。しかし、米国の対ミャンマー圧力がじわじわと高まっているのは間違いない。