赤十字国際委員会・早稲田大学
イノベーションで持続可能な「アフリカ支援」

赤十字国際委員会(本部・ジュネーブ、ICRC)と早稲田大学は8月27日、東京都中央区の同大日本橋キャンパスで「世界をよくするビジネス―アフリカにおける人道支援の課題と民間セクターへの期待」と題する公開セミナーを開催した。アフリカなど紛争地域においてイノベーションを積極的に活用して支援を進めるICRCと教育・人材育成機関である早稲田大が提携して、新しい人道支援の在り方やそのポテンシャルを提示する場となった。
【毎日アジアビジネス研究所長・清宮克良】

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治療を受けるアフリカの子供
=ICRC提供

■携帯電話普及が拍車

ICRCのペーター・マウラー総裁は「人道支援を投げかけただけでは問題解決にならない。単なる寄付ではなく、雇用や自立を生み出すような支援が求められている」と述べ、旧来の短期的な人道支援だけでなく、長期的に平和が続く安定した社会システムの構築にも力を入れるとの考えを示した。そのうえで「アフリカの人たちは銀行口座がなくても、携帯電話はみんなが持っている。携帯電話でアプリをダウンロードしていろいろな情報を得ることができる。イノベーションの力でサステナブル(持続可能性)な対応ができれば、長期的な危機から救う可能性も出てくる」と強調した。

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=ICRC提供早稲田大学日本橋キャンパスで開かれた公開セミナー

中立、公平、独立を掲げるICRCは、イノベーションや産学連携のプロジェクトに着目し、民間セクターとのコラボレーションによって、より現地に寄り添った人道支援を展開しようと積極的に動いている。

ICRCと早稲田大は昨年11月、人道支援の革新的技術の開発を含む共同プロジェクトで提携する覚書に調印した。同大の田中愛治総長はセミナーで「昨年11月の総長就任直後、マウラー総裁に会い、テクノロジーとイノベーションを人道支援に結びつける考えを聞いた。大隈重信の建学の理想の中には世界に貢献する良き市民を育てるとあり、これはICRCの考えと一致する。早稲田大はテクノロジーの開発、地雷の発見のためのドローンの活用など科学技術分野で開発途上国に貢献でき、それをすることが我々の役割である」と語った。

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■医療アプリや顔認証

ICRCはアフリカなど紛争地のニーズを埋めるため、医療診断のアプリ開発をはじめ、電力供給や顔認証のシステム、安価な義足の研究開発などに挑戦している。

ICRC駐日代表部によると、スイスのバーゼル大学の研究機関などと協力し、5歳以下の子供の罹患率と死亡率を下げるために、病気や感染症のデータがスマホやタブレットで見られるアプリ「ALMANACH」を開発=写真上、ICRC提供。ナイジェリアとアフガニスタンの医療現場で同アプリを導入した結果、2016年から2017年末までに1万5千人の子供を診断・治療した。スイス連邦工科大学ローザンヌ校とは「Humanitarian Tech Hub」(人道支援に応用する技術ハブ)を設立し、機能性が高く低コストの義足の開発も進めている。

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またエリトリアなどでは新しい給水システムを造るためソーラーパネル=写真下、ICRC提供=の設置を急いでいる。紛争で離ればなれの家族を顔認証システムで再会に導く開発をマイクロソフト社と進めており、ニーズの高い避難民キャンプなどでWiFiを使用して情報を収集したり、入力・認証を行う際、外部からのオンライン侵入をどう防ぐかなどセキュリティー上の問題に取り組んでいる。

africa_1909_05こうした支援に日本企業はどのように関わったらいいのだろうか。公益財団法人「経済同友会」前副代表理事の小林いずみ氏はセミナーで、日本企業の人道支援とビジネスについて「人道支援で利益を得ていいのか、投資家が満足するビジネスの規模なのか、最先端技術を使っていいのか、現地でその技術を使えるのか、進出リスクはどのくらいあるのか、これらが進出の障害になっている」と指摘。マウラー総裁は「日本のビジネスモデルをそのまま持ち込まず、新たな視点で現地ニーズに寄り添うことが必要だ。アフリカで本当に支援を欲している政情不安な国は20から30あり、それら国々では短期的な利益を求めるのではなく、自立のため安定に向けて投資してもらいたい」と力を込めた。アフリカ開発銀行のカレド・シェリフ副総裁は「アフリカにまず必要なのは基本的なインフラ、水と電気だ」と本音をのぞかせた。=写真上はマウラー赤十字国際委員会総裁、写真左は田中・早稲田大学総長。

■「人道支援と起業の接点を」

africa_1909_06一方で、小林氏は「アフリカは逆に何もないから新しいビジネスモデルを生み出せる。日本のように規制業種やいろいろな制限がなく、市場規模も大きくないので、実際には起業家にとってプライベートビジネスの機会があふれてる」とビジネスの可能性についても言及。田中総長は「人類が直面している問題には答えがない。日本だけの視点では答えがでない。異なる言語、文化、民族と接していないと解決策が見い出せない。しなやかな感性とたくましい知性が新しいソリューションを生み出す」と国際的な視野を持つ重要性を指摘しつつ、「早稲田の学生でも、人道支援に向かう人間とベンチャーをやる人間はタイプが違う。そこが一緒になることが必要であり、教育の課題でもある」と人材育成の考えを語った。

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清せい宮みや克かつ良よし(毎日アジアビジネス研究所長)
1983年毎日新聞社に入社。水戸支局、社会部、政治部。98年に米ジョンズポプキンス大国際関係大学院(SAIS)客員研究員、その後、ワシントン特派員、政治部副部長、さいたま支局長などを経て執行役員国際事業室長。中国、インドネシア、ベトナム、ミャンマ ー、タイ、ロシアでフォーラムやイベントを手掛ける。2018年10月から現職。