リーガルコーナー第23回 台湾・有澤法律事務所弁護士 洪維德、陳重安、黄傑

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日本企業の台湾における信用リスク管理と債権回収

本シリーズの第1回では、資金投入と会社設立の段階に関する法令を説明し、第2回では会社の内部管理上最も重要な労働法令を解説した。今回は、会社が営業活動を行う際に、取引相手の信用リスクについて、よく見られる管理方法を紹介する。また、信用リスクが発生した場合、法に定める紛争解決手続に基づいて債権回収を行うとき、如何にして仮差押えの手続を通じて、債権の弁済をより確保するかについて解説する。(本シリーズは虎門中央法律事務所の提携事務所である台湾・有澤法律事務所による、台湾の法制度に関する紹介の最終回=全3回=です)

一、取引相手の信用リスク管理

台湾では、取引相手の信用リスクの管理方法は多様であるが、以下の方法は最も一般的である。
(一)物的担保
日本と同様に、台湾では、債権者の多くは、債務者に動産や不動産を担保として提供することを要求する。例えば、抵当権、根抵当権、質権、動産抵当権などがこれに当たる。

(二)条件付き売買
機械、設備の売買取引の場合、条件付き売買の方法で代金債権を担保することがよく見られる。この場合、買主が動産を占有するときには当該動産の所有権を取得せず、代金の支払いが完了後、買主は当該動産の所有権を取得することになる。買主が約定通りの代金を支払わない場合には、売主は動産を取り戻すことができる。

(三)銀行保証書
債務者の取引銀行が保証書を発行して、債務者が負う債務に保証を提供するという手段もよく見られる。原則として、債権者が書面で理由を明記し、銀行に保証責任を履行するよう通知すれば、銀行は直ちに債務者に代わってその金額を支払わなければならない。
債権者としては、もし銀行が発行した保証書が「無条件」の保証でないならば、保証責任の有無について、紛争が生じやすい。その場合、債権者は、相当の日数を費やして訴訟などで銀行に請求しなければ回収が困難と思われる。

(四)契約履行保証本票
台湾の商業取引の実務では、債権者は通常、資力があまりない、動産や不動産担保、銀行保証を提供できない債務者に対して、「契約履行の担保」として、相当する金額の本票(日本の「約束手形」に類似)を振り出すよう要求する。契約履行期間中、債権者は当該本票を保管している。

(五)保証人
台湾は中小企業が大半を占めており、企業の責任者が実際の出資者であることが多い。したがって、台湾の商業取引の実務では、債権者が会社である債務者の責任者に対し、当該責任者の個人名義で保証契約を締結するよう要求するという手段はよく見られる。債権者の立場としては、個人保証の内容が連帯保証責任となっているかどうかについて、特に注意する必要がある。

二、担保物がある場合の債権回収方法

(一)債権に物的担保が設定されている場合、債権者は、法令に基づいて担保物を競売に掛ける、または法律の規定により担保物の所有権を直接取得することによって、債権を実現させることができる。条件付き売買の場合、買主は売買の目的物を回収することもできる。

(二)条件付きでない銀行保証書の場合、債権者は直接銀行に保証義務を履行するよう請求することができる。

三、契約履行保証本票を振り出した場合の債権回収方法

債権者は、債務者が契約の履行をしないとき、本票を提示して裁判所に決定を下すよう求め、当該決定を債務名義として、訴訟など長い期間を要する手続を経ずに、直接、債務者の財産に対して民事執行を行うことができる。但し、これは債権行使の手続に所要時間の短縮しかできないので、債権の確実な担保ではないことに特に注意する必要がある。

四、担保物がない場合の債権保全方法──仮差押えの手続

債権者に物的担保、銀行保証書などの担保がなく、債務者または連帯保証人も債務や保証義務を履行しない場合、債権者は訴訟、仲裁などの民事紛争解決手続を通じなければ債権を回収できない。しかしながら、一般的に民事紛争解決手続はある程度の時間を要するので、もし債務者がその間に財産を譲渡した場合、たとえ債権者が勝訴したとしても、民事執行によって債権を実現することは難しい。このようなリスクを回避するため、台湾では、多くの債権者が正式に民事紛争解決手続を起こす前に、財産保全を行うことを視野に入れている。つまり、債権額の範囲内で、債務者の財産に対して仮差押えの決定を下すことを裁判所に申し立てるのである。仮差押えの特徴及び手続の概要を以下のとおりに説明する。

(一)仮差押えの特徴
①裁判所の決定に基づき、債権額の範囲内で、債務者の財産処分を禁止することで、今後の民事執行を確保することができる。
②今後、訴訟または仲裁を行うかどうか判断するために、債権者は裁判所の仮差押えの決定に基づいて債務者の財産状況を調査することができる。この点は、日本の仮差押えにはない台湾の法制度の特徴といえる。

(二)仮差押え手続の第一段階 : 仮差押えの申立て
①債権者が債務者の財産の仮差押えを裁判所に申し立てる場合、「債権の存在」と「仮差押の必要性(仮差押えをしない場合、今後、民事執行できない、または執行が困難となる虞があること)」との二つの要件につき裁判所に疎明しなければならない。
②「債権の存在」については、例えば、双方に契約関係が存在すること、債権者が債務者に弁済するよう催告済みであるものの、債務者はまだ弁済していないなどの事実を裁判所に疎明する。
③「仮差押の必要性」については、債務者の現存の財産は債務弁済に足りない、または債務者に財産隠蔽の恐れがあり、将来的に民事執行できないなどの事実を主に裁判所に疎明する。裁判所の認定基準は、ケースごとに異なるが、全体的にますます厳しくなる傾向にあるので、注意する必要がある。
④裁判所が仮差押えの決定を出す際、一定の割合の担保金を裁判所に供託するよう債権者に要求するのが一般的である。その担保金額は、一般的に仮差押えを認可した債権額の3分の1となっている。

(三)仮差押え手続の第二段階 : 仮差押え決定の執行
仮差押え決定の執行は、大まかに①裁判所の決定に基づいて債務者の財産を調査する、②担保金を供託する、③仮差押えの執行を申し立てるとの3つのステップに分けられる。ここでは、債務者の財産調査及び担保金の供託について説明する。

①債務者の財産調査について

裁判所が仮差押え決定を出した後、債権者は決定をもって、国税局より債務者の登記すべき財産(不動産や自動車など)の情報と、前年度の全ての納税資料(銀行の金利、投資利益など)を取得することができる。債権者はこれらの資料によって債務者の財産状況を推測し、その財産について仮差押え執行の手続きを行うことができる。

②担保金の供託について

前述にあるように、担保金の金額は債権額の3分の1に上ることが考えられる。一般的な状況の下で、債権者は、本案が終結し、債権の弁済を受けた後に、法により担保金を取り戻すことができる。しかし、本案の手続は往々にして相当の日数を費やし(数年かかることが考えられる)、債権額が多い場合、担保金は債権者にとって大きな負担になる。そのため、債権者は仮差押えの決定を先に取得し、債務者の財産を調査することで、債務者に執行できる財産があるかどうかを把握することができる。調査後、仮差押え決定を執行する実益があると判断した場合には、裁判所に担保金を供託して執行を開始する。

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洪維德弁護士

日本の一橋大で刑事法専攻博士の学位取得。10年を超える執務経験。また、長年に渡り、台湾で投資する日系企業への法律コンサルティングサービスを提供。刑事事件にも熟達し、企業が刑事事件に直面した場合に即時、具体的かつ実行可能な助言を提供することができる。

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陳重安弁護士

10年を超える執務経験があり、これまでに北京の弁護士事務所と東京の虎門中央法律事務所で研修を受けた。台湾、中国、日本の3国間におけるクロスボーダー投資を得意分野としており、同時に建設・工事に関する案件においても豊富な経験がある。

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黄傑弁護士

長年、日系企業の台湾におけるM&A、投資、合弁、ビジネス交渉及び企業経営で直面する法律問題をサポートしてきた。このほか、台湾における行政事件、特にエネルギー関連、環境法関連、競争法/独占禁止法等の行政法関連事件も扱っている。現在、東京大学法学政治学研究科に在学中。