モルディブ 日本企業の挑戦①

日本の伝統食かつお節をモルディブで

ヤマキ株式会社

海に囲まれたモルディブ共和国は海洋水産資源の宝庫だ。そこで漁獲される新鮮なカツオに目を付けたのが、日本の伝統食品であるかつお節のトップメーカー、ヤマキ株式会社(本社・愛媛県伊予市、城戸善浩社長)。モルディブ最南端のアッドウ環礁にある現地子会社の工場でかつお節を製造。日本に運んで同社の最終製品の原料として使用している。モルディブ子会社YMAK(Yours Maldivian Addu Katsuobushi)社の役員も務めるヤマキの城戸克郎取締役専務執行役員(業務用事業部・原料部・長期戦略室担当)は「ここで獲れるカツオは、かつお節の原料としてはヤマキが知る限り、世界で最高のカツオ」と胸を張る。

 

インド洋で漁獲されたカツオを水揚げする地元漁師たち。朝に一本釣りされたカツオが早ければ昼には水揚げされ、鮮度は抜群だ=ヤマキ提供

世界で最高の原料求め進出

「鰹節屋、だし屋である我が社にとって、よいかつお節をつくることが何よりも重要。よい製品のためにはよいかつお節が必要、よいかつお節のためにはよいカツオが必要。モルディブ進出の最大の理由は、世界で最高のカツオの存在です」。城戸専務はそう言い切る。

城戸専務によると、モルディブのカツオがかつお節にとって世界最高である理由は次の3点だ。1点目は、良質の漁場に囲まれたモルディブならではのカツオの鮮度だ。「青魚であるカツオはいたみが早く鮮度保持が重要だが、ここでは海で釣り上げてから工場に入るまでの時間が極めて短い」。漁場は、工場があるアッドウ市からごく近いインド洋。夜のうちに出港した漁師は日が昇ると同時に一本釣りを始め、早ければ昼には帰港する。水揚げされたカツオはそのままYMAK社に運び込まれる。港から工場までトラックで10分もかからない。

モルディブ最南端のアッドウ環礁にあるYMAK社の工場=ヤマキ提供

カツオの一本釣り漁法は日本の漁船でも行われているが、一般的にはカツオ漁船が「日帰り」で帰港することはモルディブ以外ではほとんどないという。インド洋のカツオ漁場のまっただ中にあるモルディブの地理的な条件が、極めて鮮度のよいカツオの確保を可能にしている。

 

一本釣りでカツオを釣り上げるモルディブの漁師たち=ヤマキ提供

2点目は、赤道直下の温かい海で獲れるカツオの脂肪の少なさだ。「誤解がないように言えば、刺身で食べるのであればカツオは脂がのっているほうがうまい。しかし、かつお節の原料としては脂肪が少ないほうがよいのです」(城戸専務)。だしをとるためにかつお節を削ると、脂肪分は酸化し雑味や酸味の元となる。その点からも、モルディブのカツオはかつお節には極めて優れた魚質だという。

そして3点目は、「海のエコラベル」とも呼ばれる、持続可能な漁業に与えられる「MSC認証」をモルディブのカツオ漁業が取得していることだ。一般的にはMSC認証は漁船、あるいは漁業会社単位で取得するが、モルディブでは政府が取得している。モルディブ政府のライセンスを持つ漁船が獲ったカツオは、自動的にMSC認証のカツオとなる。

工場で加工されるカツオ=ヤマキ提供

ヤマキは2019年に、それまではパートナー企業だったYMAK社の株式の99・9%を取得し完全子会社化。YMAK社から愛媛県の本社工場まで一気通貫で、流通、加工を通してMSC認証を得た水産物を他の水産物と混同せずハンドリングしていることを示す「MSC CoC」認証を取得した。

「カツオの鮮度と魚質のよさは『おいしさ』のため。MSC認証は、『おいしさ』を超えた会社としてのSDGsへの貢献のため」。城戸専務はそう話す。

 

輸送手段が充実 理解示す政府も後押し

とは言っても、製造したかつお節を日本へ運ぶ輸送手段などのインフラがなければ、工場進出は難しい。モルディブへの投資を後押ししたのは、安全や国内、国外の輸送、電気や通信、水など生産に不可欠な基礎インフラが整備されていることだ。

離島国家のモルディブでは、生活物資などを運搬するため島から島を結ぶ国内の海上コンテナ輸送網が整備されている。YMAK社があるアッドウ環礁は、首都マレから550キロ南。製造されたかつお節は、工場からすぐ近い港から、冷蔵・冷凍機を備えるリーファーコンテナで首都マレの港に運ばれ、さらに外航コンテナ船に積み替えられて、そのまま同社製品へと最終加工される日本のヤマキの工場へ向かう。

観光産業が発展しているモルディブでは宿泊施設は充実し、技術指導などで日本から訪れるヤマキの社員や関係者が安心して出張できることも好条件だった。

さらに欠かせないのは現地でのローカルパートナーの存在や、当局の理解だ。ヤマキは以前から現地の業者との取引があり、YMAK社立ち上げの際に信頼できるローカルパートナーがいたこと、また同社の子会社化にあたってはモルディブ、日本の両国政府の積極的なサポートを得られたことも、スムーズな投資を後押しした。

YMAK社の子会社化にあたって、城戸専務は自身でモルディブ政府のファイヤーズ・イスマイル経済開発相に事業内容をプレゼンテーションしたという。開発相は事業に理解を示し、歳入庁や漁業農業省などとの政府内での横の調整役を務めてくれた。「他国ではさんざんたらい回しにされて苦労したこともあるが、モルディブはすべてワンストップで済んだ。政府側の対応も非常に迅速でありがたかった」。城戸専務はそう振り返る。

 

同じ食文化を共有の両国 ウィン・ウィンの関係築く

日本からは遠く離れたモルディブには「ヒキマス」、あるいは「モルディブフィッシュ」と呼ばれるカツオの干物が、伝統食として古くから食されている。カツオを煮た後に燻して乾燥させる作り方は日本のかつお節と同じだが、工場生産ではなく家内工業でつくられている。燻製にはココナッツを使い日本の鰹節とは香りが異なるが、世界でこのような作り方のカツオの燻製が存在するのは、日本とモルディブだけだ。「同じ島国、海洋国家の不思議な絆を感じる」と城戸専務。

カツオ一本釣りは、地元の漁師が保有するグラスファイバー製の近代的な漁船で行われている。漁師は基本的には個人事業主で、漁自体にはYMAK社は関わらず漁師から漁獲したカツオを直接購入している。「漁業自体は外資には開放されておらず、水産資源はその国の人たちのもの、という考え方です」と城戸専務は話す。

来日したソーリフ・モルディブ大統領(右)に自社製品を紹介する ヤマキの城戸克郎専務(左)。中央は城戸善浩社長=ヤマキ提供

モルディブから日本への輸出は2019年の統計で3億5100万円。このうち72%に当たる2億2500万円がYMAK社からヤマキへのかつお節の輸出だった。同社の進出はモルディブと日本の経済関係の拡充に大きく貢献し、ヤマキの城戸善浩社長と城戸克郎専務は19年10 月、天皇即位の礼出席のため訪日したモルディブのソーリフ大統領と面会。事業について大統領に直接説明し、大統領からは同社に感謝の念が伝えられた。

YMAK社の現地従業員は現在約30人。地元のパートナー企業や従業員にとっては、安定した収入や生産技術を手に入れることができる。また、地元漁師から継続してカツオを購入することで、地元経済も雇用や外貨収入を確保できるようになった。さらにヤマキにとっては、高品質のカツオを安定して調達することが可能になった。

城戸専務は「モルディブ漁業は獲った魚の冷凍輸出が中心だが、貴重な水産資源に付加価値をつけて有効活用していくことは国にとっても重要なこと。それぞれが利益を得られるウィン・ウィンの関係です」と胸を張る。

YMAK社で記念写真を撮影する城戸克郎専務(右から2人目)と現地スタッフ・関係者=ヤマキ提供

 

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