駐日大使インタビュー⑩ ミクロネシア連邦

人口の2割が日系  持続可能な成長目指す海洋国

ミクロネシア連邦 ジョン・フリッツ駐日大使

新興国の大使に聞く毎日アジアビジネス研究所のインタビューシリーズ。今月は太平洋のミクロネシア連邦。人口の約2割が日系人の親日国。また、陸上の国土面積は奄美大島とほぼ同じ広さだが、世界でも有数の広大な排他的経済水域を持つ海洋国だ。産業や環境、エネルギー分野で持続可能な成長を目指す同国について、ジョン・フリッツ大使に聞いた。【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之

環境を維持しながら開発

――まずは国のプロフィールを教えてください。

「我が国が一番大切にしているのは、環境を維持しながら開発していくこと」と話すフリッツ大使=東京都港区のミクロネシア連邦大使館で

ジョン・フリッツ大使 スペイン、ドイツの植民地時代を経て第一次大戦後の約30年間、日本の委任統治領となり、今も日本語を話す人もいます。第二次大戦後は米国の施政下に置かれ1986年に独立しました。東西2500キロの間の607の島で構成される、ヤップ、チューク、ポンペイ、コスラエの4つの州の連邦国家です。面積は700平方キロメートル強ですが、排他的経済水域は日本の国土をすっぽり覆うほどです。

人種はモンゴル系で一部がポリネシア系。公用語は英語ですが、4つの州で8つの主な言語があります。ヤップ州とポンペイ州には伝統的な酋長制度が残っています。それぞれの文化を尊重しながら一つの国にまとめることが基本です。国の憲法はpeace, unity, libertyの三つの柱を定めています。

世界で今、環境が大きな問題となり、持続可能な開発目標(SDGs)が言われる中、世界中が一つになって対応していかければなりません。島国の我が国は、海面上昇の影響や食糧問題、小さい島から大きい島へ移住しなければならないなど、温暖化の影響で生活に変化が生じています。我が国が一番大切にしているのは、環境を維持しながら開発していこうという点です。例えば観光業でも、リゾート化していくのではなく自然を守りながら、環境観光立国としてエコツーリズムの国をめざします。

――新型コロナウイルス感染の状況は?

大使 人口11万人の小さな国に感染が起きれば、あっという間に広がってしまいます。政府は昨年2月と早い時期に緊急事態を宣言し、一切の入国を禁止する措置を取りました。自国民にも適用され外国にいる国民も帰国できない状況ですが、国内での感染者は出ていません。主要産業の一つである観光業は収入ゼロの状態ですが、米国からの供給で2月からワクチン接種が始まり、3月までには6~7割に接種が終わる見込みです。3月末には現在の防疫措置を延長するかどうかを判断します。

柱は漁業、観光、農業、エネルギー 日本企業の参入を

――経済について教えてください。

無農薬・無化学肥料で栽培されたミクロネシア連邦産のコショウ=大使館提供

大使 今後の経済の柱は漁業、観光、農業、そしてエネルギーです。観光業はCOVID-19が収束すればすぐに再開されます。農業は、小規模ですがコショウやコプラ(ココヤシの実の胚乳を乾燥させたもの)などを輸出しています。

我が国は食糧の6割以上を輸入に頼っており、食糧自給に力を入れています。昔は家の庭でとれる果物や野菜を食べ食生活のバランスが取れていたのですが、今は輸入物の缶詰やインスタント食品を好んで食べるようになり、WHOの調査では我が国の平均寿命は縮む傾向にあります。政府は“Let’s go local”と名付けたプログラムを実施しており、島内で生産された食品を中心にして足らないものを輸入する方向を目指しています。人口に行き渡る食糧を生産するため、そのノウハウを日本などパートナーの国々に求めたい。

漁業は各国との漁業協定で排他的経済水域での操業に入漁料を課しますが、ただ料金を払ってもらうだけでなく、雇用創出のため我が国の陸上での活動を行うよう求めています。

TMC(TAIYO MICRONESIA CORPORATION)社のまき網漁船「TAIYO WAAB」=同社提供

それに日本から手を挙げてくれたのが大洋エーアンドエフ株式会社(マルハニチログループ)です。地元の企業と合弁でTaiyo Micronesia Corporation(TMC)社を設立して、日本から専門家が来て技術指導し、鰹節の原料を製造・輸出しています。漁業分野では日本企業として初めてのケースで、小規模でもよいので、他の企業も関心を示してほしいと思います。

ココナツについても食料、燃料、化粧品の原料として日本企業が関心を持ち、今後地元企業に投資して工場を建設し輸出に乗り出す見込みです。新しい技術、ノウハウで我が国の産品から新しい製品を作ることに、日本の投資家が関心を持ち始めています。

国は石油から太陽光やコプラの活用などの再生可能エネルギーへの転換を目指しています。日本の政府開発援助で各州すべてに太陽光発電プロジェクトが設置され、大統領府は太陽光発電を取り入れています。今後、一般企業がビジネスとして参入し成功する可能性もあると思っています。

深刻なゴミ問題 使い捨てプラ輸入を禁止

首都パリキールにある大統領府に設置された太陽光パネル=JICA提供

――島国であり、ゴミの問題が深刻と聞きました。

大使 まずはゴミを分別し、埋設処理をしなければならないのですが、埋める場所がなくなってきています。また、太平洋の海流の影響で、沿岸各国で投棄されたプラゴミが漂着しています。政府は昨年7月、使い捨てプラスチック製品の輸入を禁じる法律を施行しました。今後、日本の自治体と協力して、プラゴミの減量やプラを使わずに様々なものを作るノウハウを学んでいきたい。まずは国の若者の意識を変えることから始めたいですね。

小規模なビジネスを歓迎 直行便開設を目指す

――国の成長に日本が果たしてきた役割を教えてください。

大使 日本政府の政府開発援助(ODA)は、港湾や空港、道路など国の発展に欠かせないインフラ整備で貢献してくれました。技術協力面では国際協力機構(JICA)が、漁業や環境、ゴミ問題の技術指導をしたり、日本に招いて研修を実施したりしてきました。この関係を次の世代に引き継いでいくために、奨学金を整備して日本で学ばせるなどしていきたい。

――最後に日本の企業に一言。
大使 我が国は人々は優しく政治的にも安定している。季節を通して温暖で、日本人ビジネスマンにとって癒やされる場所だと思います。小さな国なので、ビジネスも小規模になります。しかし物事を大きく考えるのではなく、例えば環境関連でも小規模に参入する、あるいは我が国で実験を行いビジネスモデルを構築する。政府はそういった取り組みを積極的に支援します。

我が国は人口の2割が日系人で、日本にとって「近い国」です。地理的にも日本との直行便があれば、4~5時間でミクロネシア連邦を訪れることができる。両国間の直行便の就航にも力を注いでいきたいと思います。

ジョン・フリッツ大使
His Excellency Mr. John Fritz Ambassador Extraordinary and Plenipotentiary of the Federated States of Micronesia

1960年生まれ。祖父が神奈川県出身の日系3世。地元高校から米国留学を経て東海大教養学部国際学科、同政治経済学部経済学科卒。独立前の1984年から在日ミクロネシア連邦連絡事務所で勤務し、独立後の88年から大使館一等書記官、98年同公使、2008年から特命全権大使。日本人の妻と子供4人。趣味は水泳、バスケットボールなど。東海大在学中にはライフセービング世界大会に日本チームのメンバーとして参加し金メダルを受賞している。