駐日大使インタビュー⑨ 東ティモール民主共和国

石油・ガス依存から産業多様化へ アジアで一番新しい国

東ティモール イリディオ・シメネス・ダ・コスタ駐日大使

東ティモール民主共和国は2002年に独立を果たした、アジアでも最も新しい国。小スンダ列島ティモール島にあり、ティモール海をはさんでオーストラリアと向かい合う、岩手県よりやや狭い国土に126万人が暮らす小国だ。石油や天然ガスが国家財政の柱だが、政府は持続可能な成長のため、地下資源への依存から脱却し経済の多様化を目指している。昨年着任したばかりのイリディオ・シメネス・ダ・コスタ大使に聞いた。【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之

各国支援で感染拡大防ぐ

――まず新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

イリディオ大使 昨年3月に最初の感染が確認されこれまで49人の感染が確認されましたが、死者は出ていません。日本を含めた各国の支援を得て、政府は非常事態を宣言し国境を閉鎖して、マスク着用など国民の意識を高める呼びかけを行って、感染拡大防止に努めています。

地下資源と農業が柱 観光、漁業に高い可能性

「様々な分野で地元産業を育成し経済を多様化することが国の開発目標」と語るイリディオ大使=大使館で

――経済の現状はどうでしょう?

大使 政治的混乱から17年以降、国民総生産の成長率は鈍っており、20年は新型コロナウイルスの影響もあってマイナス6%成長と見込まれています。

我が国の最大の産業は地下天然資源と農業です。さらに観光、漁業にも可能性があります。オーストラリアとの間のティモール海の油田、ガス田からの採掘権収入で形成される「石油基金」からの引き出しによって賄われる政府の支出に、国の経済は大きく依存しています。

天然資源依存から脱却するため、観光や農業など、さまざまな分野で地元産業を育成し経済を多様化していくことが国の開発目標です。バニラ、コーヒー、コショウなどの小規模な生産農家を育成し、国内外のマーケットに販売していく。一方で、国内の失業率が高いため政府は労働力を海外に派遣し、海外からの送金は石油、ガスに次ぐ収入になって、特に家計レベルで経済に大きく貢献しています。

日本の支援でインフラ整備 フェアトレードでコーヒー輸出も

――日本とのつながりについて教えてください。

大使 我が国は日本の国際協力機構(JICA)の支援を得て、港、道路、空港など不可欠なインフラ整備を実施してきました。インドネシア領土に囲まれた飛び地であるオエクシ県に整備された港は、当時の日本の北原巌男・駐東ティモール大使の名前を取って「キタハラ港」と呼ばれています。唯一の国際空港であるディリ国際空港の拡張整備計画も、現在コロナ感染拡大で中断していますが、感染が収まれば再開される予定です。

一方、日本企業はガスやコーヒーを輸入し東ティモールの経済に大きく貢献しています。出光興産と三菱商事が出資したアストモスエネルギー社がガス田開発に携わり、液化石油ガスを日本に輸出しています。また、外食大手のゼンショーはフェアトレードの一環として07年からNPO組織「ピースウィンズ・ジャパン」「パルシック」と提携して地元の生産者組合からコーヒーを輸入し、グループの多くの店舗で販売しています。

コーヒーは我が国にとって最も重要な農業輸出産品で、石油・天然ガスを除けば第1位の輸出品目です。日本の専門家には、東ティモール産コーヒーは「まろやかでフルーティーな味わい」と高い評価を得ています。ゼンショーはNPOと連携しコーヒーの古木の再生などにも取り組んでいます。

日本の無償資金協力で実施されたディリ港フェリーターミナル移転の竣工式典で、テープカットを行う東ティモールのアグシティニ運輸・通信大臣(左)と中山展宏外務政務官(当時、右)=2020年1月15日、日本の外務省ホームページより

 

日本企業には人材開発への支援を期待

――日本の投資家に望むことは何ですか。

大使 海に囲まれた我が国は、珊瑚礁やダイビング、スノーケルスポットなど美しい海洋観光資源に恵まれていますが、ツーリズムの分野はまだ開拓されていません。漁業も地元の漁師による小さなボートでの操業に限られていますが、水産資源調査によると、ツナ類などの漁獲が期待でき、力を入れていく方針です。日本の旅行産業や水産加工の企業には特に関心を持ってもらいたいですね。

首都のディリの町を走る車は多くが日本車ですが、自動車のエンジニアも不足しています。農業ではコメも輸入しています。いずれも人材が不足しており、こういった分野での人材開発、能力開発につながる日本企業の進出に強く期待しています。

ディリの北約25キロメートルにあるアタウロ島のビーチ。白い砂浜や自然のままの珊瑚礁を楽しむことができる=東ティモール政府観光省ホームページより

イリディオ・シメネス・ダ・コスタ大使
His Excellency Mr. ILIDIO Ximenes da Costa Ambassador Extraordinary and Plenipotentiary of The Democratic Republic of Timor-Leste

1968年生まれ。地元の高校卒業後、インドネシアのジョグジャカルタにあるサナータ・ダーマ大教育学部で学ぶ。97~98年スアイ水供給・衛生プロジェクトのコミュニティマネジメントコーディネーター。2005~07年選挙支援とローカルガバナンスプログラムシニアプログラムオフィサー。11~12年男女平等促進担当長官顧問。12~17年職業訓練・雇用促進担当長官。19~20年経済問題調整閣僚顧問。20年特命全権駐日大使。