Asia Inside:バイデン時代の米中対峙 さらなる不確実性の世界へ

バイデン時代の米中対峙
さらなる不確実性の世界へ――陳言

毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー・北京より寄稿

■陳言

毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー
日本企業(中国)研究院執行院長
経済ジャーナリスト
1960年、北京生まれ。82年、南京大学卒。82-89年『経済日報』に勤務。89-99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99-2003年萩国際大学教授。03-10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。現在は「人民中国」副総編集長も務める。

遺産引き継ぎ「不安定な平和」

バイデン次期大統領

2017年1月にトランプ氏は米国大統領就任を宣誓したが、同氏は選挙運動期間中にさまざまな厳しい対中非難発言をしていたため、中国は極めて不確実な4年間の米中関係を経て、筆者の周辺の人々の多くは、バイデン時代になると、あれほど不確実ではなくなり、とりわけ、地球温暖化、多国間国際貿易体制の維持の面では、米中は確実に接触し、交渉も可能で米中関係はコントロール可能、予測可能になると感じているようだ。

筆者は17年から18年に、かなり多くの中国人学者、メディア関係者が、トランプ氏はビジネスマンなので、最終的に求めているのは利益であり、特に貿易面ではある程度米国の赤字問題が解決されれば、米中関係にはさらに推進できる余地もある、と単純に考えていたことを記憶している。

しかし、実際にはトランプ氏個人はビジネスマンだが、米国の政治体制は中国との関係において大きく後退した。トランプ氏の捉えどころのない性格はこの後退に拍車をかけた。1979年の米中国交樹立以後、トランプ時代は両国関係に最も長期的で最も先鋭的な対峙を発生させた。過去にも対峙した時期はあったが、米国がこれほど強硬だったことはなかった。トランプ時代は両国対峙を作り出しただけでなく、その遺産をバイデン時代にそっくり引き継ぎ、米中対峙を新たなステージに押し上げた。

バイデン時代の米中関係は中国・清華大学国際関係研究院の閻学通院長の表現を借りれば、世界は「不安な平和」を迎えたということである。筆者は、新時代は方式を変え、トップをすげ替えた新たな不確実性と認識している。

表面的に見て、バイデン氏は直ちに高関税政策をキャンセルできないだろうが、トランプ時代のように高関税政策によって、貿易衝突を引き起こす方式はある程度引っ込められるだろう。少なくともバイデン氏が新たな高関税政策を打ち出すことはないだろう。高関税は米国に産業回帰をもたらさず、米国国内の消費需要も解決しなかったからである。

大阪市で開かれたG20サミットで席を並べる(左から)トランプ米大統領、 安倍晋三前首相、習近平・中国国家主席 =2019年6月28日、米ホワイトハウス撮影

高関税政策が後退すると、米国と他国との政治(軍事、外交)上の衝突はさらに顕在化し、時間の経過とともにますます増加し、もたらされる不確実性もますます深まるに違いない。筆者はメディア報道から欧州などの情勢を知るだけだが、比較的よく知っている日本の事情から見ると、日米は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、関税問題における食い違いは言うまでもなく、また米国が日本に在日米軍基地関連経費の負担増を求めている問題ももちろん、地球温暖化問題、中東問題処理などの面で、日本は米国と完全に一致しているわけではない。対中姿勢については、外交、安保で日本は米国と完全に一致しているが、経済面でトランプ氏は日本に他の国との二国間交渉、自国利益第一主義方式を要求しなかった。バイデン政権になると、バイデン氏は日本に経済問題上でも必ず同一歩調を要求し、日本がいかに米国側の要求に応じるかという問題は、今はまだ推測が難しい。

政治的な意図で国際経済衰退も

国際情勢には以下のような状況が生まれるかもしれない。つまり、経済問題、イデオロギー対立を問わず、米国はトランプ政権の一国主義の段階から、バイデン政権が国連に要求する段階になると、ある問題、例えば、中国の第5世代移動通信システム(5G)技術などの共同排除において、米国と日本、欧州連合(EU)などの国々は一致するかもしれないが、別な問題、例えばグローバルサプライチェーンの再構築、世界貿易体制の再編などでは、一部の国々は米国を支持し、一部は多国間交渉の方式を選択するだろう。大多数の国際問題はその時の状況に基づき、時間、場所、利害の違いに応じて各国がそれぞれ異なる選択を行う。こうして国際戦略に不確実性が出現する。戦略に基づいて下された各国の決断でなければ、地域ないしは国際情勢に大きな混乱が生まれる。

バイデン時代の米中関係の不確実性は世界の不確実性が集中した形で現れるに違いない。同氏が4年間の任期を全うできるかどうか誰にも分らない。世界はこれほど長時間の不確実、混乱を経験のしたことがない。トランプ時代がある種の恣意的な不確実性だったとすれば、バイデン時代のそれはある種の政治的な意図はあるが、その政治的意図はEU、日本との認識において全面統一は実現せず、さらに南米、アフリカおよび中東国家の理解を得られなければ、新たな国際情勢の混乱はわれわれの予測の範囲を上回り、国際経済自体の衰退をもたらすかもしれない。

ここで強調しておきたいのは、不確実性は大国間に軍事衝突が起きることを意味しているのではない。人類は米ソ二大陣営が対峙した時代でさえ大規模な軍事衝突は起こさなかったが、米中対峙時代に直接軍事衝突が起きる可能性はさらに小さい。まして日中の領土紛争が軍事衝突に発展する可能性は微々たるものである。

トランプ時代の米中対峙は主に経済上のものであり、もちろん外交・安保上の対峙もあったが、熱戦には発展しなかった。バイデン時代になっても、米中対峙は依然として、主に経済問題に出現し、激烈な外交・安保の対峙と同じようにコントロール可能な範囲内であろう。

中国はトランプ時代の米中対峙でも自信を失わなかった。本稿は20年の新型コロナウイルス禍の要素を抜きにして経済問題に絞って書いている。 16年、中国の国内総生産(GDP)は米国の59・89%で、日本のそれは米国の26・26%だった。19年になると中国は米国の68・73%に達し、日本はさらに後退し23・70%になった。この数字が示すように、過去4年の間に、米中の経済規模の差は縮まり、しかもそのスピードはかなり速い。これに比べて、日米間の経済格差はさらに開き、米国の経済は停滞せずに発展し、日本よりもかなり速い。言い換えれば、中国の発展スピードが最も速く、続いて米国、この後に日本が続く。経済の安定的な発展が米国との外交などの面での中国の自信を担保している。この種の自信はバイデン時代になっても維持されるに違いない。

デジタル経済で「不敗の地位」

中国の経済発展計画を俯瞰すると、21年は「第14次5カ年計画」が開始され、これは2035年にいたる15年の中長期計画におよび、さらに2049年の中華人民共和国成立100周年までの今後30年にわたる総合的な発展方針である。経済上の将来的なレイアウト、プランにおいて、中国には中国の特徴があるが、基本的には持続的な発展のチャンスをうかがわせている。

経済発展の重要な促進要素は制度改革の推進、対外開放ができるか否かにかかっている。21年といえば、大部分の中国人は国有企業改革の推進を直ちに連想し、中央経済工作会議の表現を借りれば「国有企業改革3カ年アクションプランの深化、実施」である。その時点で中国は日本が主導する包括的および先進的なTPP11加入交渉開始の条件がそろう。

経済発展のもう一つの重要な要素は技術革新である。21年から中国は基礎研究10カ年アクションプランに着手し、基礎科学を研究の中心にレイアウトし、中国の基礎研究分野のぜい弱性問題を解決する方針である。ITプラットフォーム、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、量子コンピューター、新素材等のデジタル経済関連の産業が今後数年の間に急速に発展すると見込まれる。またデジタル経済を通じて、中国の発展をさらにスピードアップできるだろう。

国家の科学技術政策が国民経済に及ぼす役割について、筆者は日本の学者、関連官庁関係者と何度も意見交換した。日本は自由発展、市場競争の趨勢にあり、特定の産業政策は制定していない。デジタル経済で見ると、2000年以前、日本はIT科学技術で優勢な地位を備えていたが、その後次第にその地位を失い、半面、米中にはITプラットフォーム企業を中心として、デジタル革命が起きた。日本は20年になって初めてデジタル庁を設置し、全日本の力量をデジタル経済に集中し突破口を開こうとしている。日本は20年近い回り道の後、やっと国家政策に力を発揮させる道に戻って来た。19年になっても、中国経済の規模は米国の7割足らずだが、過去4年の間に米中の経済距離は絶えず縮小している。その割合は16年59・89%、17年62・76%、18年67・16%、19年68・73%だった。もし年平均3ポイントずつ縮めれば、ウサギとカメの競争のように中国が最終的に米国を追い抜くだろう。

こうした経済発展の自信が、米中対峙で中国経済を前に進め、軍事的な衝突がなくても、過分な財政を軍備に投入する源泉になっている。経済上の発展だけが、経済的に米国を上回ることによって、中国は米国との対峙において見晴らし台を占拠し、不敗の地位を手に入れられる。