駐日大使インタビュー⑧ バングラデシュ人民共和国

急成長に世界が注目
独立から50年,中進国入り視野に

バングラデシュ シャハブッディン・アーメド駐日大使

毎日アジアビジネス研究所がアジアなどの新興国の駐日大使に聞く大使インタビューシリーズ。今月は、2020年にムジブル・ラーマン初代大統領生誕100周年、21年に独立50周年など次々に節目の年を迎える南アジアのバングラデシュ。人口過密で貧困問題が課題であった同国は、今世紀に入り世界が注目する高成長を実現。コロナ禍でも経済成長を維持する見込みだ。2021年に中進国、41年には先進国入りを目指す同国について、9月に着任したばかりのシャハブッディン・アーメド大使に聞いた。【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之

感染爆発危惧も政府の措置が奏功 コロナ禍でも経済成長を維持

「政府による迅速かつ慎重な措置が功を奏し、爆発的な感染拡大 は防がれている」と話すアーメド大使=バングラデシュ大使館で

――最初に新型コロナウイルスの感染拡大状況と、経済への影響を教えてください。

アーメド大使 2020年初頭にバングラデシュで初めてCOVID―19 陽性の症例が確認された際、我が国が世界でも最も人口密度が高い一国であることを考えると、感染拡大による大きな打撃を受けると予想されました。幸いなことにその予想は誤っていました。12月16日現在の感染者数は49万4902人、死者は7129人で、(人口規模を考えると)他国に比べそれほど多い数ではありません。民間と協力して不可欠な医療サービスを確保するなど、政府による迅速かつ慎重な措置が功を奏していると考えます。

感染拡大に打ち勝つため、シェイク・ハシナ首相は約119億ドル相当の経済刺激策を打ち出しています。国際通貨基金(IMF)はパンデミックの悪影響にもかかわらず、バングラデシュは21年に4%の成長率を達成すると予測しています。世界経済全体を考えるとこれは驚異的な数字です。IMFは今年度の国民1人当たりの所得がインドを超えると予測しています。

――バングラデシュは近年、途上国の成長モデルとして世界から注目されています。

大使 開発と成長のロードマップである「ビジョン2021」と「ビジョン2041」の元で、我が国は過去10年で平均6%以上と着実に成長し続けています。安定成長を実現した要因には、ハシナ首相の慎重で先見の明のある指導力があります。首相は必要なインフラ開発、人々へのデジタルサービスの展開、食料安全保障の確保、女性の生産活動への参加など、国の変革を正面から牽引してきました。

「ビジョン」は全ての国の開発計画の中心となる包括的なものです。21年までに中進国、41年までに先進国となることを目指すもので、我が国の経済は現在、開発途上国の成長のロールモデルとして注目を集めています。

――バングラデシュで進むインフラ整備について教えてください。

道路の立体化工事が進む首都ダッカ郊外=2019年8月、西尾撮影

大使 現在、政府は国内の交通ネットワーク整備に関するメガプロジェクトを実施しています。三大河川の一つであるパドマ川への架橋、チッタゴンにあるカルナプリ川の水底トンネル、ダッカ高架高速道路などです。人口約1500万人の首都ダッカは、毎日激しい交通渋滞に直面しています。政府は現在、日本の国際協力機構(JICA)から2035年までのダッカ大都市圏における都市交通戦略の改訂と更新について支援を受けています。交通渋滞と大気汚染を緩和し、経済成長を刺激する優先度の高いプロジェクトのリストで、バングラデシュで最初の大量高速輸送(MRT)システムの整備が進行中であり、MRT6号線は22年末までに運行を開始する予定です。

電力およびエネルギー部門では、デルタ南部に位置するパイラ、ミャンマー国境に近いモヘシュハリ、チッタゴンに近いマタバリ、およびダッカ北西160キロのループル(原子力発電所)で進行中のメガプロジェクトがあります。これらのプロジェクトは今後10~15年間、新しいプロジェクトとともに継続され、我が国の通信、運輸、港湾、エネルギー分野を変革していきます。

日本は最大の支援国 企業進出も急増

――国造りに日本が果たしてきた役割は?

ダッカ市内で工事が進むバングラデシュ最初の大量高速輸送(MRT)システム6号線=2019年8月、西尾撮影

大使 日本はバングラデシュにとって最大の二カ国間開発パートナーです。2014年のハシナ首相と安倍晋三首相の相互訪問の際に、二国間協力の地位は「包括的パートナーシップ」のレベルに引き上げられました。ビジョン2021、2041の達成のために、日本政府は通信インフラ、電力、エネルギー、ヘルスケア、教育、人材育成、都市や農村開発など様々な分野の継続的な支援を続けてきました。

独立以来、日本はバングラデシュへの融資や技術援助の形で247億2000万ドル以上の財政支援を実施してきました。現在、円借款、無償資金協力、技術支援により、合計99のJICAによる支援プロジェクトが実施されています。 2020年には過去最大の3382億4700万円に上る7件の開発プロジェクトに対する円借款が署名されました。

ダッカ郊外にある経済特区工業団地。日本の既製服メーカーが進出している=同月、西尾撮影

日本の企業もバングラデシュの社会、経済的発展と工業化に重要な役割を果たしてきました。日本からの投資は過去10年で3倍に増加しました。現在、我が国で事業を行っている日本企業は315社で、投資額は7億3000万ドル以上に上ります。政府はさらに日本企業を呼び込むために、ナラヤンガンジ地区のアライハザールに、日本企業専用の経済特区を設置しています。日本企業は、バングラデシュ国内市場だけでなく海外市場への輸出を狙った生産拠点を設けることができます。

――国内産業は繊維などの軽工業が中心です。

大使 バングラデシュは過去10年間一貫して経済成長を果たしてきました。輸出も増加し続けていますが、総輸出の8割以上は既製服で、輸出先も欧米に集中しています。政府は既製服以外の分野として皮革及び皮革製品、履物、プラスチック及び工学(電子、電気製品、自転車、自動車、蓄圧器、蓄電池等)など4つの優先分野に焦点を当て、成長と競争力強化のためのプロジェクトを実施しています。日本の自動車メーカーの関心が強い自動車産業開発政策についても、まもなく策定される見通しです。

印中ASEANの結節点 成長エリアのロジ拠点に

――バングラデシュはインド、中国、ASEANの巨大経済圏の中心に位置します。

大使 バングラデシュは南アジア地域協力連合(SAARC)諸国だけではなく、中国や他のアジア諸国のロジスティックのハブとなる大きな可能性を秘めています。この地域の貿易や投資、接続性の連携が深まると、我が国は新しい市場、高品質で競争力のある価格の製品の新しい輸入元、輸送およびロジスティック・サービスの機会の増加から利益を得ることができるでしょう。

バングラデシュは我が国のほかインド、モルディブ、スリランカ、タイ、ネパール、ブータンを多国間協力のフォーラムでグループ化する「ベンガル湾多分野技術経済協力構想」(BIMSTEC)で主導的な役割を果たしています。 2014年以来、このグループの事務局はダッカに置かれています。我が国はインドとの間で、道路、鉄道、海路の接続強化を図っています。インドとの接続強化は、我が国とインド北東部の州との貿易増につながります。インドは、自国の北東部の州への輸送コストと時間を削減するため、バングラデシュを経由する道路、鉄道輸送に関心を持っています。

マタバリ深海港開発プロジェクトは、2014年にバングラデシュと日本の間で発表された「ベンガル湾産業成長ベルト構想」(Big―B)の一環です。インド北東部各州とネパール、ブータンまで含めたロジスティックのハブとなり、輸送のスピードアップとコスト削減が期待されています。

シャハブッディン・アーメド大使
His Excellency Mr. Shahabuddin Ahmed
Ambassador Extraordinary and Plenipotentiary of the People’s Republic of Bangladesh

1960年、南部のデルタ地帯ボラ県生まれ。ダッカ大学大学院修了。英バーミンガム大学で開発金融の修士号取得。86年にバングラデシュ政府の国家公務員となり、20年以上財務部門で国家予算策定に携わってきた。食料省長官を経て、2020年9月駐日大使に着任。