Asia Inside:新型コロナウイルス禍の世界

医療分野の国際協調は?

北京より寄稿

■陳言

日本企業(中国)研究院執行院長
経済ジャーナリスト
1960年、北京生まれ。82年、南京大学卒。82-89年『経済日報』に勤務。89-99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99-2003年萩国際大学教授。03-10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。現在は「人民中国」副総編集長も務める。

 

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世界最悪の感染拡大地となった米ニューヨークで、病院に運び込まれる患者
=ニューヨーク・クイーンズ地区で2020年3月29日、隅俊之撮影

今年に入るや否や新型コロナウイルスによる肺炎感染症があっという間に拡大し、全世界のあらゆる側面に影響を与えている。

2月いっぱいは武漢危機の報道であふれた。筆者が暮らしている北京でも街中から人影が消え、コミュニティーの出入りにも通行証の提示を求められ、商店では厳格な体温測定が義務付けられた。メディアは日本の友人、知人、日系企業から中国に対してマスク、防護ゴーグル、医療設備の支援があったことを連日伝えていた。3月になると、中国の感染拡大は好転したが、スペイン、イタリア、米国などの国々が危機的な状況に陥った。さらに4月に入ると、日本政府が緊急事態を宣言し、今度は、筆者の周辺の人々や民間組織が日本向けにマスクなどの医療用品を寄のに、その日本にマスクを寄贈する事態になっているとは思いも寄らなかった。新型コロナウイルスは世界を変えつつあり、中日も防疫等の医療分野での新たな提携関係の構築を模索しなければならない。

新型コロナウイルスは世界を変えつつあり、中日も防疫等の医療分野での新たな提携関係の構築を模索しなければならない。

日系企業の支援と中国式防疫策

1月29日、在留日本人が武漢から引き上げる際に中国側に寄贈したマスク、防護服は中国民衆の対日感情改善に大いに貢献した。2月には、ほとんど全ての日系企業がさまざまな方法で武漢戦役―「戦疫」―を支援し、中国メディアもこぞってこれを報じた。

新型コロナウイルスによる肺炎を診断する際には新型の医療設備が不可欠だ。2月初め、日立製作所は中国側政府機関と武漢に医療関連設備を寄贈する件で協議した。最終的に日立は350万元(約5800万円)のコンピューター断層撮影(CT)装置を寄贈した。新型コロナウイルスによる肺炎か否かを診断する際に、しばしばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査方式を使う。この検査方法は複雑で時間がかかり、大規模検査には不向きだ。これに比べて、肺のCT撮影では直ちに鮮明な画像が撮影でき、1台の設備で診断に必要なデータを提供できる。機器整備、調整作業に多少時間がかかったが、3月19日、日立が寄贈したCT装置が武漢市第八病院に無事設置された。

富士フイルムが生産したX線撮影装置が武漢で大きな役割を果たした。他にも同社の3次元画像解析システムボリュームアナライザーはCT画像分析の面で、新型コロナウイルス感染患者の症状進行状態の判断をサポートし、また治療にデータ上の根拠を提供できた。2月、同社は武漢など各地に医療設備、主に移動型デジタルX線撮影装置、携帯型超音波画像診断装置などを寄贈した。

一方中国国内では、湖北以外の全中国省・市・自治区から4万2000人の医療従事者が各自の救急設備を持参して、1月下旬から、武漢など湖北省内の各都市に入り、またその他数千人の幹部公務員が地方の市県に派遣され、燃料、食糧、野菜、精肉類の湖北への振り分けを指揮した。中国の新型コロナウイルス対策は全国の全精力を湖北(武漢)支援に投入し、ウイルスを武漢(湖北)から外に出さない作戦だった。日本など各国政府、企業の積極的な支援を得て、中国はウイルスを湖北(武漢)に封じ込め、国内各地で同時多発する事態を回避した。

感染症対策の常態化が進む

4月26日現在、新型コロナウイルスは世界各地で猛威をふるい、全世界の死者は同日万人を上回り、その深刻さを物語っている。中国のネットニュースで報じられた主要各国の患者数と死者は以下の通りだ。米国が感染者92万9028人、死者5万2371人、スペインが感染者22万3769人、死者2万2902人、イタリアが感染者19万2994人、死者2万5969人――。

もし、感染症拡大に歯止めを掛けられなければ、今後、途上国であるインドや東南アジア全域、アフリカ、南米に拡大する恐れがあり、医療施設、感染症対応能力に欠け、人口密度が高い地域で、感染者、死亡者が増加するのは想像に難くない。

東南アジアやインドが中国のように集中治療方式を取る条件は整っていないし、欧米国家のような「集団免疫」は期待できず、死亡者は膨大になるだろう。

2002年末に始まった重症急性呼吸器症候群(SARS)のケースでは、ワクチンの研究開発は18カ月後になっても成功しなかった。あれからほぼ18年、SARSのワクチン開発は成功していない。さらに、米国などは研究開発の面で国際協力を望んでいない。

中米関係は新型コロナウイルス発生以前に貿易戦争、言論戦争が火を噴き、トランプ米大統領は中国のデカップリング(切り離し)を強調している。近い将来、中米協力の成果を見るのは困難だろう。

待ったなしの中日防疫協定

筆者が日本メディアの対中報道を見ている限り、中国方式の新型コロナウイルス対策は日本のメディアの批判を浴びている。日本は中国方式をとらず、また韓国のPCR検査選別方式も取りたくないようだ。日本は日本独自の方法を取るということだろう。

中日韓3国がそれぞれ独自の新型コロナウイルス対策を持っていることは、世界的な新型コロナウイルス制圧には好ましく、世界に多様な対処方式を提供しているといえる。しかし、中日は新型コロナウイルス対策で新たな提携プラットフォームを構築し、世界にもっと貢献することもできる。

中国はマスク、防護ゴーグル、防護服、人工呼吸器等の製造大国である。また、今回の感染症対策の過程で、中国の伝統医学である中医も大きな力をだ。さらに、ウイルス封鎖、圧倒的な陣容の医療を感染地区に集中する手法は、その過程で大量の医学データを蓄積し、これは世界医学の貴重な財産となり、また、中日医療提携の基礎でもある。

日本企業が開発した新薬、ファビピラビル(アビガン)は未だ市場に出ていないが、新型コロナウイルス治療薬としてすでに臨床使用されている。日本企業が製造したCT設備は新型コロナウイルスの診断に使われている。感染症対策と同時に日本は経済の正常運営を片時も忘れてはいない。緊急事態宣言後、直ちに経済上困難に見舞われている人々に対する援助を打ち出したが、こうしたテクニック、行政上の成功体験は世界各国が学ぶ価値がある。新型コロナウイルスは人類共通の敵だ。対策にさまざまな方法があってしかるべきだ。中日関係は、中国が「一帯一路」を提唱し、これに対して日本は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を打ち出している状況下で、相手方を完全に理解し、支持しているわけではないが、新型コロナウイルス対策においては、戦略目標を統一できるのではないだろうか。

中日共同の新型コロナウイルス対策のプラットフォームが構築できれば、そこで中日両国の共通の関心事である高齢化対応戦略、環境保護、新薬、新医療設備等の新技術に対する共同開発などに着手でき、相互理解を実現し、さらに両国関係を改善できると思う。