デジタル化が進展する東南アジアでスタートアップのブームが起きている。シンガポールに次いで盛んなのがインドネシアだ。代表格は配車サービスのGOJEK(ゴジェック、本社・ジャカルタ)である。先進国で成功したビジネスモデルを取り入れ、現地に合わせて独自に進化し生活全般のプラットフォームを担う。シリーズ7回目は今やインドネシアを代表する企業となったゴジェックを取り上げる。【毎日アジアビジネス研究所長・清宮克良】

米国でMBA取得

.jpgインドネシアのジョコウィ大統領は10月23日、ゴジェック創業者のナディム・マカリム氏(35)を教育・文化相に大抜擢した=写真は閣僚就任式、KOMPAS撮影。ナディム氏は早くもIT(情報技術)教育の充実などに意欲を見せている。ナディム氏は1984年生まれ、米ブラウン大学を卒業し米ハーバード大学経営大学院で経営学修士号(MBA)を取得。東南アジアにおいて同じ配車サービスで覇権を争うシンガポールのGRAB(グラブ)の創業者、アンソニー・タン氏とは同経営大学院の同級生である。

アジアのスタートアップ事情に詳しい日本総合研究所調査部の岩崎薫里・上席主任研究員は「ナディム氏もアンソニー氏もハーバード・ビジネススクール出身のエリートで米国式のビジネスモデルを学んでいる。(両氏の)配車サービスのモデルはUber(米ウーバーテクノロジーズ)です」と話す。

.jpgナディム氏は米大手広告会社のジャカルタ支社に勤務した後、2010年にゴジェックを創業した。よく知られた話であるが、ナディム氏が起業したきっかけは、インドネシアに根づいてるOJEK(オジェック)と呼ばれるバイク・タクシーの運転手から「勤務のうち、7割は客待ちの時間だ」という話を聞いたことだ。運転手の待ち時間の有効利用するため、2011年に配車サービス事業を20人の専業登録ライダー=写真、同=で立ち上げ、先進国で成功した米ウーバーのビジネスモデルを取り入れた。

現地化戦略で拡大しスーパーアプリに

しかし、ゴジェックは米ウーバーとは違い、不十分な決済システムなどに対応するため徹底した現地化戦略を展開した。米ウーバーは利用車両が乗用車、運転手が個人、支払い手段がクレジットカードであったのに対し、ゴジェックはバイクを利用し、専業の運転手による現金決済だった。

.jpg岩崎氏は「ゴジェックの場合、バイク・タクシーの配車サービスとしてスタートし、交通渋滞の激しいジャカルタで瞬く間に普及、多くの社会課題を解決するイノベーションの担い手として、配車サービスを超えて発展し、生活全般のスーパーアプリ=写真、同=となった。(社会インフラが)あまり整備されていない分、社会課題解決型のゴジェックは大きく成長した」と指摘する。

ゴジェックの提供サービスは、GORIDE(バイク・タクシーの配車)、GOCAR(自動車の配車)、GOFOOD(フードデリバリー)、GOBOX(宅配便)、GOCLEAN(出張掃除サービス)、GOGLAM(出張美容サービス)、GOPAY(決済サービス)など生活全般のサービスに広がっている。

.jpgナディム氏はインドネシアのKOMPAS(コンパス)紙などのインタビューに対し、東南アジア最大の市場であるインドネシアのコミュニティへのこだわりを口にする。個人や地域、政府と築いてきて人間関係を生かし、インドネシアのビジネス環境や生活を良くすることをミッションにしている=写真はジョコウィ大統領にスマホのアプリを見せるナディム氏、同

 

グラブと覇権争い

.jpg結局、グローバル展開する米ウーバーはインドネシアからの撤退を余儀なくされた。そのゴジェックは、インドネシアを皮切りに、ベトナム、タイ、シンガポールに進出し、東南アジアで同業のライバルであるグラブと激しい競争を繰り広げている=写真はベトナム・ハノイで挨拶するナディム氏、同。

閣僚に就任するナディム氏は退任し、今後はアンドレ・ソエリスティオ社長と共同創業者ケビン・アルウィ氏が運営にあたる。岩崎氏は「ナディム氏が去った後のゴジェックについては、さほど心配していない。すでにインドネシアを代表する企業にまで成長しているうえ、

世界中から優秀な人材を経営陣に招へいしているからだ。逆の見方をすれば、ナディム氏は自分がいなくてもゴジェックが立ち行くことを確信したからこそ、政権入りしたのではないか」との見方を示している。

目立つインドネシアのユニコーン

日本総研調査部によると、東南アジアには8社のユニコーン(推定評価額10憶ドル以上の未上場企業)が存在する。このうちインドネシアの企業は、企業価値が100億ドルといわれるゴジェックをはじめ、Tokopedia(Eコマース)、Traveloka(オンライン旅行予約)、Bukalapak(Eコマース)、OVO(電子決済)の5社を占める。このほかはシンガポールのグラブとTrax(リテールテック)、それにフィリピンのRevolution Precrafted(プレハブのデザイナーズ住宅販売)だ。

これらのユニコーンへの外資の出資も目立つ。ゴジェックには日本の三菱商事、米国のグーグル、中国のテンセントやJD・ドット・コムなどが出資している。

三菱商事が出資

2三菱商事はインドネシアはじめとするアセアンを今後のさらなる成長が期待される重要市場としており、今年に入り、同地域でのモビリティサービスを深掘りするため三菱自動車とともに配車サービスのゴジェックに出資した。三菱商事はインドネシアにおける三菱自動車や三菱ふそうトラック・バス製品の輸入・販売総代理店として、1970年にKRAMA YUDHA TIGA BERLIAN MOTORS (KTB)を設立して以来、約半世紀にわたって自動車事業を展開してきた。2017年にはKTB社を取り扱いブランド別に事業再編するなどして、部品製造・組立から車両生産、卸売販売、小売販売、販売金融・周辺事業、アフターセールス・中古車販売まで、いわゆる川上から川下への強固なバリューチェーンを構築していた。今回、配車サービスをはじめ生活全般を網羅するデジタル・プラットフォームを持つゴジェックと提携することにより、利用者により近い川下のサービスを強化することが可能となった。三菱商事は「自動車事業では川下のバリューが高まっている。総合的なサービスを提供するため、ゴジェックとの提携は親和性がある」(同社自動車事業本部)としている=写真はゴジェックの専用ヘルメット、同

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清宮克良(せいみや・かつよし)毎日アジアビジネス研究所長

pho_seimiya1983年毎日新聞社に入社。水戸支局、社会部、政治部。98年に米ジョンズポプキンス大学国際関係大学院(SAIS)客員研究員、その後、ワシントン特派員、政治部副部長、さいたま支局長などを経て執行役員国際事業室長。中国、インドネシア、ベトナム、ミャンマー、タイ、ロシアでフォーラムやイベントを手がける。2018年10月から現職。