パンデミックで吹き出す矛盾 モスクワ・前谷宏

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8月以降、旧ソ連諸国で混乱が相次いでいる。ベラルーシでは8月9日の大統領選の結果に対し、26年にわたる長期政権を築いてきたルカシェンコ大統領の退陣を求める抗議活動が続いており、ソ連時代から続くアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフを巡る対立は9月27日に新たな戦闘へ発展した。さらに独立後、2度の政変を経験した中央アジアのキルギスでも10月4日の議会選の結果に対する抗議活動を受け、ジェエンベコフ大統領が辞任に追い込まれた。

自身の勢力圏とみなす旧ソ連地域で異変が相次ぐことに「宗主国」ロシアの影響力低下を指摘する声が出ている。一方で一連の混乱にはもう一つの共通項も見えてくる。新型コロナウイルスの影響だ。

ベラルーシの状況について、多くの専門家は、ルカシェンコ氏への国民の支持が最終的に崩れた要因として、ウオッカやサウナが効くなどと迷言を繰り返した新型コロナへの不十分な対応があると指摘する。アゼルバイジャンとアルメニアについても7月に小規模な衝突が起こったころから国内の感染拡大と外出制限に伴う国民の不満をそらすために愛国心に訴えているという指摘が出ていた。産油国のアゼルバイジャンは原油価格低迷の影響も受ける。

キルギスは国内経済を支えるロシアなどへの出稼ぎ労働者の多くが新型コロナにより職を失い、帰国を余儀なくされた。隣国・中国との貿易も止まり、3月には国際通貨基金(IMF)から緊急融資を受けたが、政権は効果的な経済対策を打ち出せず、国外からの援助を政権幹部が懐に収めているのではないかとの疑念が国民の間で広まったという。

ベラルーシで続く独裁体制、ナゴルノカラバフを巡る民族対立、そして南北の地域対立を背景に政変を繰り返してきたキルギス。いずれもソ連崩壊後に保存されてきた矛盾がパンデミック(世界的大流行)の影響下で一気に吹き出したように思える。平時には目立たなかった矛盾が新型コロナの影響で増幅される事例は旧ソ連地域だけに限らず、これからも現れてくるだろう。パンデミックが国際政治に与える影響の全容が明らかになるのは、まだこれからだと感じている。(2020年11月、モスクワ支局