ロシア民間軍事会社雇い兵拘束の衝撃 モスクワ・前谷宏

20180621dd1dd1phj223000cベラルーシ大統領選(8月9日)が目前に迫っていた7月29日、首都ミンスク郊外の保養施設などでロシア人33人が「大規模な騒乱を企てた」として拘束された事件は国際社会に衝撃を与えた。ベラルーシ当局が33人をロシアの民間軍事会社「ワグネル」に所属する雇い兵と発表したからだ。

ワグネルはプーチン露大統領と関係の深い実業家のプリゴジン氏が経営しているとされ、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の別働隊とも指摘されている。これまでにシリアやリビア内戦などで活動していることが報道されており、ロシア軍が公的に関与できない任務を担う存在とみられている。

露政府は33人を「民間警備会社」の警備員とし、ミンスク経由で第三国に向かう途中だったと反論したが、多くは過去にウクライナ東部紛争に親露派武装勢力側として参戦していたとみられ、ウクライナ政府が引き渡しを要求。ベラルーシのルカシェンコ大統領も応じる姿勢を示し、天然資源の供給価格などを巡って対立が深まっていたロシアとの関係悪化が安全保障面にも及んだと指摘された。

だが、8月7日にプーチン氏とルカシェンコ氏が電話会談してから事態は一変する。直後に露メディアが33人はウクライナ情報機関が仕立てた架空の警備契約によってベラルーシに誘い出されたと報道し、露政府もこの説を追認。ルカシェンコ氏は対露批判をやめ、ベラルーシ国籍を持つ1人を除く32人をロシアに送還した。

当然ながら、ウクライナ政府は関与を否定している。ただ、同国の元高官からは関与を認める発言も出ている。これについてはウクライナ国内の権力闘争の側面もあるが、ほくそ笑んでいるのはプーチン政権だろう。振り上げた拳の落としどころを示されたルカシェンコ氏は大統領選後に抗議活動が高まる中、支援を求めてロシアに急接近し、これまで抵抗してきた国家統合の深化にも応じそうな勢いだ。

ただ、国民の支持を失ったルカシェンコ政権が長続きすると考える専門家は少ない。最後に笑うのは誰か、この原稿を書いている9月中旬の段階では予断できない状況だが、小説に出てくるような諜報合戦が今も世界で行われていることは確かなようだ。(2020年10月 モスクワ支局