政治的発言をたたえる国、たたく国:ロサンゼルス 福永方人
福永方人Pテニスの全米オープンで優勝した大坂なおみ選手が毎試合、警官の過剰暴力で命を落とした黒人計7人の名前入りのマスクを着けて登場し、世界で大きな反響を呼んだ。黒人差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ)」運動への連帯を示す行動で、米国ではニューヨーク・タイムズ紙が「優勝よりも大きな目標のために闘った」と伝えるなど称賛された。一方、日本ではソーシャルメディア上を中心に「黒人優遇運動をスポーツに持ち込んだ」「アスリートは政治に口を出すな」といった批判も目立った。
日本ではアスリートや芸能人が政治的発言をすると、よくたたかれる。5月にも歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんが検察庁法改正案に抗議したツイートが「炎上」し、削除を余儀なくされた。こうした現象は、米国にいると奇妙に映る。個人の意見表明が尊重されるこの国では、大統領選候補者を表立って支援するなど、政治的な立場を鮮明にする著名人が珍しくないからだ。超人気歌手のビリー・アイリッシュさんは18歳の若さながら、8月の民主党全国大会に登場し、トランプ大統領を「国や私たちが大切にしているものを全て壊している。構造的な人種差別や不平等と闘うリーダーが必要だ」などと堂々と批判した。プロバスケットボールNBAのスーパースター、レブロン・ジェームズ選手も6月、大統領選に向け黒人の投票を支援する非営利団体を設立。米メディアに「将来、バスケ選手としてだけではなく、アフリカ系米国人としての生き様も認められる選手になりたい」と語っている。著名人の政治的言動を批判する日本人は右派が中心とみられるが、要は「お上に逆らうな」という主張である。権力に従属する志向がうかがえ、安倍政権の支持者とも重なっている。そうした意識の背景にあるのは「不安」ではないか。人は不安になると、強い存在や安定した体制を求めがちになるからだ。不安の原因は人それぞれだろう。格差の拡大などに加え、新型コロナウイルスの流行も影響しているかもしれない。

社会正義のために勇気を出して声を上げることが否定される日本。今、母国がとても生きづらそうに見える。(2020年10月、ロサンゼルス支局

見開き紙面で大坂なおみ選手の全米オープン優勝を伝えるニューヨーク・タイムズ紙=2020年9月13日、福永方人撮影