アフガン和平協議の行方:ニューデリー 松井聡

デリー松井アフガニスタン政府と旧支配勢力タリバンによる和平協議が9月12日から中東カタールで始まった。原稿を執筆している9月中旬時点では、協議の議題や手順などを決めるための折衝が始まったのみで、本格的な停戦などの交渉には至っていないが、政府とタリバンが何を目指し、何が今後の障壁となり得るのかについて考えてみたい。

まず協議の議題となるのが2001年以降続く戦闘の終結だ。政府は真っ先に恒久的な停戦を実現したい構えだが、「暴力を交渉のテコ」と考えるタリバンは簡単には応じないだろう。タリバンは政治体制などについて、自らの要求が一程度程度実現するめどがついてからしか停戦しない可能性が高い。タリバンは思うように協議が進まなければ、攻撃を激化させる可能性もある。

政治体制も主要議題となる。政府は現行の選挙に基づく民主主義の維持を目指す。一方のタリバンは「厳格なイスラム体制の確立」を繰り返し主張してきたが、その具体像ははっきりしない。1996~2001年まで政権を担った際は、映画やテレビ、音楽、スポーツを禁止するなど独自のイスラム教の解釈に基づく恐怖政治を敷いた。タリバン幹部は「我々は過去から学んでおり、昔のタリバンではない」と説明するが、強権的な統治が復活するのではないかとの懸念は根強い。

また女性の権利も協議の大きなテーマだ。タリバン政権下では女性の教育や就労の機会が制限され、国際社会から批判された。タリバン幹部によると、この反省から、タリバンは女性の教育や就労、政治参加は認める方針だ。だがあくまで「イスラム教に則った範囲」での権利擁護にとどまる。司法トップや国の最高指導者への就任は認めないという。ただ、アフガンは宗教的に保守的な国柄だ。女性の権利については、政府とタリバンが一致点を見いだせる可能性がある。

これらに加えて、国名(タリバンは「アフガニスタン・イスラム首長国」を自称)や、タリバン兵と親政府民兵の処遇も解決しなければならない問題だ。互いが妥協しながら一致点を見いだすことができるのか。協議が決裂すれば、内戦がさらに泥沼化する危険性もはらんでおり、情勢は予断を許さない。(2020年10月、ニューデリー支局