トップダウンのほころび:北京 河津啓介

河津啓介 本社員中国で新学年が始まる9月、内モンゴル自治区のモンゴル族向け小中学校で授業ボイコットが広がった。原因は、政府が標準中国語の教育を拡充する施策を打ち出し、モンゴル族が「民族文化の危機」と受け止めたからだ。

「学校長の責任で児童・生徒の出席率は100%を確保しなければならない。達成できなかった担任や学校幹部は責任を問う」。内モンゴル自治区オルドス市オトク前旗(旗は町村に相当)の教育当局は9月5日、管内の小中学校にこんな緊急通知まで出した。

新たな施策では、民族語での授業が認められている小中学校であっても、「国語」を標準語の授業とし、全国統一の教科書を用いる。従来、標準語の授業は小学2~3年生から始まったが、1年生からに前倒しされ、授業数が増える。今後、「道徳」「歴史」の科目も標準語になる。

当局は「民族語の授業数に変更はない」と説明するが、モンゴル族の反発は激しい。

内モンゴル自治区の人口約2500万人のうち、モンゴル族は約2割にとどまる。社会生活では標準語を使う機会が圧倒的に多い。ただでさえ民族語が衰退する中、当局が追い打ちをかけた形になり、民族感情が燃え上がった。新たな施策が9月の実施直前まで公表されなかったことも、モンゴル族の不信感を高めた。

ある保護者は「1年生から民族語と標準語を学ぶと、子供の負担が重くなる」と語った。学習能力に加え、自己アイデンティティーを確立する上での悪影響を懸念する声もある。

習近平国家主席は「中華民族の共通意識」の確立を掲げ、標準語教育の強化を推進してきた。習氏肝いりの施策だけに、当局が譲歩する気配はない。学校関係者や保護者を逮捕、処分し、反対意見を封じようとしている。

中央の方針を強権的に推し進め、かえって現場の混乱を大きくする構図は、香港情勢にも通じる。習氏は権力の集中によって執行力を高める政治体制を目指したが、2期目の後半にさしかかり、トップダウンのほころびが目につくようになった気がする。(2020年10月 中国総局