駐日大使インタビュー⑥ タイ王国

インフラ整備進み裾野産業も発展
産業高度化へ日本企業も投資を

タイ シントン・ラーピセートパン駐日大使

毎日アジアビジネス研究所がアジアなど新興国の大使に、自国の魅力や投資へのアドバイスを聞く大使インタビューシリーズ。今月は、東南アジアでも特に日本との結び付きが強く、多数の日本企業が進出しているタイ。日本で高校から大学生活を送りタイでも有数の日本通外交官、シントン・ラーピセートパン大使に聞いた。【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之

王室、経済、一般国民まで 太いパイプで結ばれた両国

――――日本にとってタイはアジアでも特に結びつきが強い国です。両国関係をどうご覧になりますか?

シントン・ラーピセートパン大使 両国の正式な外交関係樹立から今年で133年ですが、両国の交流はそれよりずっと前から始まっています。明治以降はタイ王室と日本の皇室の親密な関係が交流の礎となり、他の分野にも関係が拡大していきました。今では特に経済の結びつきが太く、日本はタイにとって2位の貿易相手国で、投資に関しては累積でも単年でも日本が1位です。タイ経済は日本からの投資、日本との貿易で発展してきたと言えるでしょう。

また、現在はコロナウイルスの問題で難しくなっていますが、昨年、日本に入国したタイ人観光客は130万人に上り、リピーターも増えています。それほどタイ人は日本が好きです。王室、皇室から経済界、一般国民まで、両国は太いパイプで結ばれているのです。

東部経済回廊(EEC)にインフラ集中整備

――タイは東南アジアでもいち早く急速な工業化に成功しました。今後はどのような方向性を目指しますか?

大使 タイは日本の政府開発援助(ODA)を活用して早い時期からインフラ整備を進めてきました。当初は輸入代替産業が主で、後には輸出産業が発展しました。

しかし最近では経済成長に伴い人件費が上がり、これまでのような労働集約的な産業では近隣国に勝てなくなってきました。今後は人が行ってきた作業を自動化してロボットにやらせるなど、高度なイノベーションを必要とする産業に移行しなければいけないと考えています。政府は産業の高度化を目指す新たな国家戦略「タイランド4・0」を策定し、産業の高度化に取り組んでいます。その一つが、日系企業の集積が進んでいる東部3県を特区に指定し集中的なインフラ整備を実施する東部経済回廊(EEC)政策です。

日本企業にとってタイはすでに基盤がある地域です。今後はさらに、より高度な技術を有する産業分野への投資を進めてほしいと考えています。

――日本企業に今後望むことは何ですか?

大使 日本企業は日本人技術者をタイに送るだけではなく、タイ人の技術者の育成にも力を入れてくれています。今後も、ただタイで製品をつくるだけではなく、研究開発もタイで進めてほしいですね。EECで教育機関、研究機関に投資すればさらなる恩典を受けることができます。

日本企業からは、タイ人の人材が不足しているとの声も聞こえます。企業は日本政府とも力を合わせて、タイの人材育成にもさらに力を入れてほしい。日本には高等専門学校(高専)という技術者養成の優れた制度がありますが、日本側の協力で、タイに日本の高専から講師を派遣してもらい、日本式の高等専門学校を設置する取り組みが始まっています。

人件費は上がっていますが、インフラが整備され、製造業の裾野産業が発達しているタイは、総合的に見て魅力的な投資先です。自動車であれば、次世代の電気自動車づくりなどを目指してほしい。あるいはタイは農業国で多くの食品企業が進出していますが、一般的な食品製造だけではなく、より高度な加工食品、健康食品、オーガニック食品などをタイで製造することも考えられます。

コロナの封じ込めには成功 ビジネスマンや家族は入国可能

――最後になりますが、コロナウイルス感染の状況はどうですか?

大使 タイでは9月はじめに、ほぼ100日ぶりに市中感染者1人が確認されました。それまでは3カ月以上、感染者は海外からの入国者のみで、市中感染はゼロの状態が続いていました。4月から5月にかけての夜間外出禁止など、日本に比べて厳しい強制力を伴う措置が取られてきました。国民は普段はのんびりな性格ですが今回は大変協力的で、爆発的な感染拡大は防ぐことができています。

もちろん経済は打撃を受けています。政府は中小企業への助成や、雇用維持のため賃金の半分を補助するなどの企業支援策を実施しています。大使館は現在、日本のビジネスマンやその家族が入国できるようアレンジしています。入国後の14日間の隔離についても、できるだけ快適に過ごせるようなホテルも用意してあります。

シントン・ラーピセートパン大使
(Ambassador Mr. Singtong Lapisatepun)

16歳から日本に留学し、1983年東京学芸大学附属高、87年横浜国立大学経済学部卒、89年同大学大学院修士課程修了。同年タイ外務省入省。92年から96年在ロサンゼルス領事。2002~06年と10~15年駐日大使館で公使など。18~19年駐韓大使。19年駐日特命全権大使に着任。