シリーズ・タイの農水産物加工品③

地元企業と二人三脚
半世紀に渡り「パイン缶」日本に届ける――三菱食品

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作付けされたパイナップルが実を付けた東部ラヨーン県のパイナップル畑
=三菱食品提供

タイは年間最大200万トンのパイナップルを収穫する世界最大の生産国。収穫されたパインは大部分が缶詰や果汁、ドライフルーツに加工され海外に輸出されている。三菱商事グループの食品商社、三菱食品(本社・東京都文京区、森山透社長)は半世紀近く前から、タイの製造企業と二人三脚でパイン缶を生産し日本で販売。南国の甘い香りを日本の消費者に届け続けてきた。

LilyCasual_パインスライス100パーセントジュース漬けEO3号_高画質食べて飲んで、2度楽しめるパイン缶

缶切り不要のプルトップ式の黄色い缶を開けると、甘い香りが広がる。今年2月に三菱食品が発売した「Lily Casual パインスライス100%ジュース漬け E03号缶」=写真=は、輪切りの果実をシロップではなく果汁で漬けたパイン缶だ。砂糖不使用で、漬け汁はそのままパインジュースとして飲むことができる。非濃縮の100%パイン果汁は、甘過ぎずさわやかな味わい。食べて飲んで、2度楽しめるパイン缶だ。

「リリー」は三菱食品のトラディショナルなフルーツ缶ブランド。「カジュアル」はそのセカンドブランドで、コンセプトは「品質そのまま、値段そこそこ」だ。同社のパイン缶は一般的なシロップ漬けがリリーとリリーカジュアルで1種類ずつ。さらに新発売のカジュアル「100%ジュース漬け」1種類の、計3商品で展開している。

2カ所の工場で年に40万トン加工

製造しているのは、タイのパイン缶製造企業「タイ・パイナップル・キャンニング」(TPC)社。現在、タイでトップ、世界でも4位のパイン缶メーカーだ。前身企業は1967年の創業で、72年に三菱商事との合弁でTPC社となった。2002年にタイで5位だった同業の「SAICO」社を子会社化してからは、マレー半島側のホアヒンに近いプランブリにTPC工場、東部のラヨーンにSAICO工場を構え、SAICO社が2工場でパイン缶詰製造を運営している。18年には三菱食品が商事の持ち株をすべて買収し、現在は三菱食品の出資会社になっている。

TPC社役員も務めた三菱食品加食事業本部商品開発オフィスの森川博昭室長によると、バンコクを中心に西にTPC工場、東にSAICO工場と産地が2カ所に分かれることで、原料の安定確保が図れるという。2工場合わせて年間40万トンのフルーツを加工。製品は5~10%程度が日本向け、残りは欧米など全世界に輸出されている。

原料のうち1割ほどは自社農園、残りは工場周辺の契約農家から仕入れている。担当者が農家を定期的に訪問し生育や農薬の使用状況を直接確認。農家とのコミュニケーションを大切にし、農家が生活できる買い入れ価格保証制度を設けている。

工場の加工現場では原料のトレーサビリティーや残留農薬のチェックなどの一般的な「安心安全」対策に加え、原料の二重洗浄や金属探知機、磁石などを使った異物除去などを行っている。さらに、すべての缶をたたいて異常がないかを確かめる日本発祥の「打検」を実施。「少しでも缶にへこみがあると返品になってしまう」という、欧米に比べても厳しい日本の消費者の基準に対応し、「日本の市場でも消費者からのクレームはほとんどありません」(森川室長)という。

コロナでパイン缶需要は急増

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TPC工場と合わせ年間40万トンのフルーツを加
工するラヨーン県のSAICO工場=三菱食品提供

今年3月以降、コロナウイルス感染拡大に伴う休校措置で子供が自宅にいる時間が長くなり、パイン缶はデザートとして食べられるだけではなく、特に自宅でのパンケーキなどの製菓材料として需要が急増した。また8月の猛暑でフルーツ缶全般の販売が好調だという。

しかしタイでは昨年と今年、エルニーニョ現象や地球温暖化によるとみられる降雨不足が影響し、パイナップルは記録的な不作が続いている。農家がパイナップルからタピオカやゴムに転作する動きもあり、需要を満たす原料確保が困難になっている。三菱食品は5~7月、出荷調整を実施。また、需要に応じるためにタイ以外の国からも製品の輸入に踏み切った。

森川室長はTPC社役員だった5年ほど前、加工のバラエティーを広げようとドライフルーツの製造を提案。TPC社は3年前からパイナップル、マンゴー、パパイアなどのドライフルーツ製造にも乗り出し、日本のコンビニなどで販売している。

「三菱食品のTPC社への出資比率は20%だが、そもそもTPCは三菱商事がタイのオーナー家と設立した会社で、三菱商事グループとの関わりは深い。私たちはただタイから製品を買って日本で売るだけではなく、タイに根付き、タイでものを作っていく企業でありたい」。森川室長はそう話す。


タイ産米を使った「亀田のあられ、おせんべい」
シンハー社と提携 世界戦略の拠点に――亀田製菓

コメ生産大国で良質な原料米確保

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戦後、「亀田郷農民組合委託加工所」とし
てスタートした亀田製菓。ヒット商品を次
々に生み出して国内最大の米菓製造メーカ
ーに成長し、今は世界に進出している
     =新潟市の本社、亀田製菓提供

日本のお茶の間に欠かせない、コメからつくるせんべいやあられなどの米菓類。その米菓で国内シェアナンバーワンの「亀田製菓」(本社・新潟市、佐藤勇社長COO)は、世界戦略の一
環として世界有数のコメの生産国、タイに進出し、タイ産のコメを使った米菓類を日本の他、欧米市場向けに輸出している。

1946年、新潟県で「亀田郷農民組合委託加工所」として水飴の委託加工からスタートした亀田製菓は、66年に「ピーナッツ入り柿の種」、67年に「サラダうす焼」、76年に「ハッピーターン」、86年に「ぽたぽた焼き」と、いずれも現在に続く国民的なヒット商品を生み出し、米菓トップ企業の地位を確立してきた。

一方で同社は、日本発の米菓の欧米やアジアへの販路拡大と、生産拠点の国際化というグローバル展開にも乗り出している。1990年代から米国での製造販売を開始。今世紀に入ると中国、タイ、ベトナム、インド、カンボジアと矢継ぎ早に拠点を拡大。このうち中国とタイとカンボジアは基本的には日本や欧米、豪州などへ輸出する製品の製造拠点。元々国内に一定規模の米菓市場が存在するインドとベトナムは、それぞれ両国の国内向けの製造販売拠点という位置付けだ。

タイでは現地企業に資本参加する形で生産を開始し、2013年にこの会社を100%子会社化して「タイ・カメダ」社とした。「タイは日本の倍のコメを生産するコメ大国で、良質の原料米を確保できる。亀田製菓のグローバル展開の中で、製造拠点、さらには今後の国内市場として非常に重要な拠点」と、同社海外事業部の神田晋之介マネージャーは話す。

タイ・カメダ社の工場は1990年代初頭の建設で、30年を経て老朽化が目立ち製造コストがかさむようになってきた。亀田製菓は今年6月、地元大手ビールメーカー、シンハー・コーポレションと新たな合弁企業「シンハー・カメダ・タイランド」社を設立。タイ・カメダ社から合弁会社に年内を目途に生産を移管する予定だ。

タイ国内で高い知名度を持つシンハー社との合弁は、生産の効率化だけではなく、米菓を含む健康志向食品の市場拡大へ向けた狙いもある。「かつてタイ国内向けに商品開発も行ったが、まだ市場が小さかった。しかしタイを中心とした東南アジアは将来的な市場としての可能性は大きい。マーケティング、商品開発力に優れたシンハー社を選択した」と神田マネージャー。

さらに、シンハー社はアジアに限らず輸出販売を通して欧州にも強いネットワークを持っている。亀田の製品のアジアおよび欧州での販売に、このネットワークの活用も期待できる。

「シンプルなモチのうまさ」タイ産米で実現

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タイ米を使って日本国内で製造されている堅揚げモチ「堅ぶつ」。タイ米の持ち味を生かしかみ応えを出している=亀田製菓提供

一方、亀田製菓は、WTO合意に基づき日本政府が輸入しているタイ産米を購入。日本国内の工場でも、タイ産米を原料として米菓を製造している。

タイ産米を全面的に活用した製品が、一口サイズの堅揚げモチ「堅ぶつ」だ。「鏡割りしたモチをおばあちゃんが揚げたあられ」をイメージしたという「堅ぶつ」は、他の製品よりもさらに堅いかみ応えが売り物。「日本のコメを使うともう少し柔らかい食感になり、堅さを出すのにタイ米が非常によかった。油のくどさも抑えられ、シンプルにモチのおいしさを味わえる」と、マーケティング戦略部の渡辺重樹マネージャー。

亀田製菓が原料米として使用するタイ産米は、タイ・カメダ社の工場と合弁会社の工場を含むと年間約7000トン、日本国内の工場で同4300トンに上る。タイ工場からは約2割がバルクの状態で日本に輸出され、日本の工場で海苔巻きせんべいやあられの材料として使われる。

タイで生産する残り8割は欧米向けの輸出だ。亀田製菓は海外における売上高を、2023年度には30%まで引き上げる目標を掲げている。タイ産の米を使った日本発祥のせんべいやあられが、さらに世界に広がることになる。

米菓は小麦を使わないグルテンフリー食品。「欧米では5~6年前には『グルテンフリー』がトレンドワードだったが、現在ではグルテンフリーは当然で、さらに添加物のないものと健康志向はどんどん強まっている。世界の健康志向の高まりの中で、米菓を浸透させていきたい」と神田マネージャーは話す。

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タイで生産される米菓の数々=亀田製菓提供

「ツナ缶」王国タイ
原料にこだわり「自社ライン」で生産――いなば食品

日本の食卓には欠かせないツナ缶。タイは世界有数のツナ缶製造・輸出大国だ。国内のスーパーの売り場にも、タイで生産されたツナ缶が並ぶ。タイで14年間、ツナ缶の生産を続けてきたいなば食品に聞いた。

生産支える安定したインフラ、製造技術

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タイで生産されているいなば食品のツナ缶=同社提供

ツナ缶は英語でツナと呼ばれるマグロ類やカツオを油漬けや水煮にした缶詰で、豚肉や牛肉などの宗教的なタブーもなく、世界中で消費される人気商品だ。世界食糧機関(FAO)によると、世界中で年間200万トン以上が生産されているが、このうち4分の1がタイ産。「原料となるカツオやマグロは、太平洋やインド洋の赤道に近い海域で漁獲される。タイがツナ缶製造大国になったのは、まず漁場に近い地理的な理由があります。弊社も当時他に選択肢がなく、ここで独自に生産を開始してきた」と、いなば食品マーケティング部は話す。

さらに安定した生産を支える電力などのインフラ設備もある。原料が鮮魚であるツナ缶の製造には、冷凍庫や冷蔵庫が必需品だ。停電があれば原料が傷んでしまう。東南アジアでは依然、停電が日常的に発生する国もあるが、タイでは高い品質の電力供給が実現していることが大きい。「日本の技術も導入しながら培ってきた高い製造技術も、タイのツナ缶産業を支えたと思います」という。

いなば食品(稲葉敦央社長)の起源は江戸時代の文化年間(1805年)の、初代稲葉由蔵による静岡の焼津港に水揚げされる魚を原料とした鰹節生産にまでさかのぼる。幕末から明治にかけては3代目稲葉由蔵が鰹節生産を拡大し、併せて生ミカンのカナダ輸出を大々的に行った。1936(昭和11)年に現社長の祖父である稲葉作太郎が静岡市清水区由比に「稲葉缶詰所」を開き水産物の缶詰生産をスタート。戦後の48年に稲葉食品株式会社として再スタートを切った。

1971(昭和46)年には、当時加工用としてはほとんど使われていなかったカツオに混じって混獲される「キハダマグロ」に着目し、市場に先駆けて「いなばライトツナ」缶を発売した。キハダマグロという新しい資源を使っただけでなく、魚肉のフレーク化や高速充塡システムの導入などでツナ缶の大量生産化の道を開き、画期的な商品となった。

同社のツナ缶は国内で生産されてきたが、地震災害に備えたリスク分散やコストダウンを目的に、一部の海外への移転を検討。2000年代に入り、すでにツナ缶製造大国となっていたタイでの生産に乗り出した。

同社はタイの大手水産加工企業の工場の生産ラインに、自社専用のラインを設置。製造作業に当たるのはタイ企業側の従業員だ。製造時には従業員にはいなば食品の帽子をかぶってもらっている。

専用の生産ラインにこだわったのは、原料であるツナの鮮度を確保するためだ。しっかりした管理が行われているタイだが、それでも魚を生で食べる習慣がある日本とは鮮度に関する感覚が違う部分がある。いなば食品は工場に自社スタッフを派遣し、原料の鮮度をチェック。自社の目で確認した原料のみを受け入れ、自社の基準で管理して生産している。

現在、同社のツナ缶の売り上げの2~3割をタイ産が占める。依然、主力は国内生産だが、食味や味はさほど大きくは変わらない。人件費などの関係でタイ産の方が少し販売価格は安くなるという。

カレーシリーズも大人気に

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人気商品となったいなば食品のタイカレー=同社提供

いなば食品の一つの柱に成長したのが、タイで生産している「カレーシリーズ」だ。ツナを使った新たな製品を模索する中で2011年、ツナを使ったタイのグリーンカレーの缶詰として生まれた。100円台の低価格で本格的な現地の味が楽しめると人気を呼び、鶏肉を使ったグリーン、イエロー、レッドのタイカレー=写真=やインドカレー、さらにタイ料理で最近日本で人気を集めている鶏肉とバジルを炒めたガバオの缶詰など、次々に新商品が発売されてきた。

カレーシリーズは2013年から、中部サラブリ―県に新設した自社工場で製造されている。「現地の香辛料を乾燥させず、フレッシュな状態でそのまま使うことができる。日本で缶を開けた時、現地そのままの香りを楽しめます」という。使用するハーブ類もすべて契約農家で厳しい農薬使用基準を守って生産されたものだ。

一方、製造開始から半世紀を経て、食品分野とともに同社の経営のもう一方の柱となっているのがペットフードだ。鶏肉などとともに、ツナ缶で使われない魚の血合いの部分が使われる。以前からタイでも生産されてきたが、14年にサラブリ―県の工場に新たにペットフードの生産工場が併設された。この工場は現在、1000人の従業員を雇用し、次第に主力製品に育っている。

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タイ中部サラブリ―県にあるいなば食品の工場=同社提供

「香り米」輸入のパイオニア
世界の最高級米 日本の食卓に浸透を――木徳神糧

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真っ白な粒が美しいタイ香り米(ジャスミンライス)。「世界ライスコンテスト」で何度も最高賞を受賞するなど、国際的には最高級のコメの一つに数えられている=木徳神糧提供

日本で主食として食べられているコメは粘り気の強い「ジャポニカ」系。しかし世界では、粒が長く粘り気が少ない「インディカ」系が主流だ。大手米穀販売の「木徳神糧」(本社・東京都、平山惇社長)は、インディカ系の最高級品種であるタイの香り米(ジャスミンライス)を日本に紹介するパイオニア的存在。コロナウイルスによる「巣ごもり消費」の拡大もあって、同社の「タイ香り米」は一般家庭向け販売が急増している。

香ばしい匂い 気分はバンコク

電子レンジで加熱した「タイ香り米」のパックを開けると、香ばしい匂いが立ち上る。口に運ぶとインディカ系のパサパサ感はなく、米の甘さが広がる。ブームを呼んでいるレトルトなどのタイカレーやガバオ(鶏ひき肉のバジル炒め)などのタイ料理とあわせれば、日本の家庭に居ながら気分はバンコクだ。

タイの香り米は、国際的には世界でも最高級のコメの一つだ。隣国カンボジア産とともに、世界の米穀関連業界が選ぶ「世界ライスコンテスト」で最高賞受賞の常連。価格はタイ国内の一般的な主食米の3倍程度と高価で、生産量の8割は海外輸出向けという。

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タイ東北部のナコンラチャシマ県に本社を置く大手精米企業「チアメン」社=木徳神糧提供

タイ東北部のナコンラチャシマ県に本社を置く大手精米企業「チアメン」社は扱いの9割が香り米で、この分野のトップ企業。同社の香り米は世界統一の「ゴールデンフェニックス」というブランド名で、国内外で販売されている。

木徳神糧はチアメン社と特約店契約を結び、同社の香り米を日本で独占的に輸入販売している。一般消費者向けには450グラムのパックを中心に、輸入食品販売で知られる「カルディーコーヒーファーム」の全国の店舗で販売。また明治屋や紀伊國屋などの高級スーパーチェーンでも扱っている。

当初は販売に苦労

木徳神糧がタイの香り米輸入に乗り出したのは、1990年代後半。しかし、当初は販売に非常に苦労したという。

日本では1993年、冷夏のため米づくりが極端な不作となってコメ不足が深刻化。政府はそれまでの「一粒たりとも輸入しない」との国内農家保護政策を転換し、中国や米国、そしてタイなどからのコメの緊急輸入に踏み切った。この時、タイから輸入されたのは一般のインディカ系の主食米。インディカ米になじみのない日本人には「パサパサしている」などと不評で、大量に売れ残った。日本の要請に応じてせっかく輸出したコメが廃棄処分され、タイ側で不満が高まる事態も招いた。

木徳神糧が香り米の輸入に踏み出したのは、95年のガット・ウルグアイラウンドに基づくミニマムアクセス米の輸入開始がきっかけだ。「香り米は緊急輸入のタイ米とは違う品種で、柔らかくパサパサ感もない。日本人にも受け入れられる味」と、同社海外事業部の大森明部長補佐。しかし緊急輸入時の「タイ米」に対する悪いイメージが残り、最初に輸入した数十トンのロットを完売するのに何年もかかったとい
う。

同社は毎年日本で開かれるタイフェスティバルで、香り米を「ヤマモリ」社のタイカレーといっしょに食べてもらうなど地道な活動を続け、需要の拡大に努めてきた。数字は徐々に伸び始め。昨年の輸入量は10年前と比べほぼ倍増の約2000トン。右肩上がりの拡大が定着してきた。

「巣ごもり」需要で販売急増

450gBG-MockupBag4これまでは8割がレストランなどの業務向け。一般家庭向けは2割程度だったが、ここへ来て「巣ごもり需要」で家庭向けが伸びている。「『いつもと違うものを、自宅で食べてみたい』という人が増えている。一般家庭向けは単月で前年比200%以上の伸び」と大森部長補佐。タイフェスティバルなどで消費者から寄せられていた「手軽に香り米を食べたい」という声を受けて、1食分180グラムをパックに詰め電子レンジの加熱で食べられるパック商品=写真=も販売を開始した。

チアメン社の香り米は、タイ東北部のコラート台地(イサーン)を中心とした限られたエリアの契約農家が栽培している。乾いた気候とやせた土地で、タイでも貧しいエリアとされてきたコラート台地だが、「香り米はコラート台地のように、土壌に塩分があるほうが向いている」と、木徳神糧海外事業部のタイ人スタッフ、ジョイスさん。「一般的な農薬検査などに加え、日本向けに特別に管理、コントロールされたコメが輸出されています」と話す。

ジョイスさんによると、タイ国内でもコロナ禍で香り米のオンラインを含めた売り上げが伸びているという。1882(明治15)年創業の木徳神糧と1937年創業のチアメン社という両国の老舗米穀会社がタッグを組んで、世界が認める「タイの最高の味」を広げる挑戦が続く。


シリーズ・タイの農水産物加工品 インタビュー

国土の4割超える農地、豊富な水産物
食品輸出支える技術、インフラ、政府振興策

タイ王国大使館農務担当官事務所
チョンティサック・チャーオパークナーム所長・公使参事官に聞く

3回に渡って日本の食卓に上るタイの農水産物加工品を紹介してきたシリーズの最終回。タイ王国大使館農務担当官事務所所長のチョンティサック・チャーオパークナーム公使参事官(農務担当)に、タイの農水産業やその加工産業の特徴、政府の振興策や「安心・安全」への対応などについて聞いた。【毎日アジアビジネス研究所】

■食糧自給、生産に余力

――タイは豊かな国土と海に恵まれ農水産業が盛んです。タイの農水産業の特徴を教えてください。また、タイには多くの食品加工産業が集積し、加工食品の海外への輸出も盛んです。タイが食品加工産業の集積地となった理由を教えてください。

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チョンティサック・チャーオパークナーム
公使参事官

チョンティサック・チャーオパークナーム公使参事官 タイの農地面積は、国土面積3億2100万ライ(約51万3000平方キロメートル)に対し43%にあたる1億3800万ライ(約22万590キロメートル)もあり、農業生産はGDPの1割を占めます。タイの農業は多岐にわたり、青果物は1年を通して収穫し食べることができます。また水産物では、魚やエビ、カニなど、海のもの、川のものとも豊富です。畜産業も豚、鶏、ガチョウ、牛、ヤギなど、多くの種類を飼育することができます。野菜の栽培、養殖、畜産など、国土のほぼ全域で行うことができます。よってタイは食料を自給できる十分な生産力があり、かつ輸出にも対応できるのです。

これらのことから、タイには食品生産に必要な産地が数多くあり、国外に加工食品を幅広く輸出しています。輸出の比率としては、生鮮食品56%に対し加工食品が44%の割合です。

また、タイには質の高い労働力があり、スキルと経験を持った生産拠点として、輸送システム(陸路、空路、海運)、工業団地、研究機関も備えています。さらには、政府による食品産業を含む各分野の産業に対する優遇投資奨励政策が行われています。

――政府による農水産業や農水産品加工業の振興策、また将来の振興策について教えてください。

公使参事官 タイ政府は、環境に安全な農業システムを利用した農業生産の管理を奨励しています。そして、消費者にとって安全な製品を提供する農業安全基準と有機認証システムを推進することにより、農業安全基準で認定され、国内外をカバーする製品の生産を生産者に対しさらに奨励します。

農産物加工業については、消費者のニーズに合わせて農産物の加工をサポートし、市場のニーズにあった製品とパッケージを開発します。開発には加工技術の向上によって、例えば、省力化、作業者の手に触れる機会を減らすため効果、精密性、生産性向上のための自動化や、AIによるマーケティング、消費者データを収集し、消費者のニーズをとらえる新製品開発など、生産性の向上と最高の品質と安全性を備えた製品をサポートします。

さらには、業界団体、商工会議所、タイ工業連盟などの民間部門では、例えば、大規模事業者の国際市場での経験と成功例をもって、小規模事業者のメンターとして、企業発展と製品開発の両面で、自社製品の高付加価値化で輸出できる製品開発などの小規模事業者育成を支援しています。

■政府が主導し「安心・安全」確保

――世界、またタイ国内でも、食の安全性への関心が非常に強まっています。タイ産農水産物、またその加工品について、タイではどのように安全性を確保していますか?

公使参事官 タイ政府には、タイの食品安全に明確に焦点を当て、「世界の台所」として、基準に則り、タイ国内外の消費者のニーズにあった食品を生産するという農産品の市場拡大政策があります。タイの食品を管理する法律である「仏歴2522年食品法」には、販売前管理(Pre-Marketing Control)という規定があります。販売前の製造所、製造施設、食品表示に対する管理、認可登録の制度です。

また、食品の販売後の管理(販売後管理)では、生産された食品が安全で品質基準を満たしていることを確認するための追跡調査と監査を行います。また、タイには食品の基準と安全を規制する以下の機関があります。

①食品薬品局(Food and Drug Administration: FDA)には、基準に則った安全な製品によって、国民の健康を守り、保護する使命があります。

②消費者保護委員会事務局 (Office of The Consumer Protection Board)は、権利を侵害されたことによる被害補償を受けることができるよう、権利侵害をする事業者を監督し、消費者を保護する監督する権限と義務を有します。

③農業・協同組合省傘下の機関である、全国農産品・食品基準局(The National Bureau of Agricultural Commodity and Food Standards)は、農産品や食品の品質改善および向上、タイの食品が品質と安全性で世界基準を満たすための中心的機関です。

■日本向け輸出 今後も成長

――タイは農水産物加工品の輸出先として日本市場をどうとらえていますか?

公使参事官 日本はタイの主要貿易相手国であり、食品では特に加工農産物の輸出が盛んです。タイ食品加工業協会(Thai Food Processors’ Association)の会長であるウィシット・リムルチャ氏によると、現在、タイから日本へ輸出される加工農産物は、全体の約10%を占めています。上位5品目は、水産加工食品、缶詰(36%)、ペットフード(18%)、肉および肉添加物(11%)、加工野菜、缶詰(6%)、その他の小麦および調理済食品(6%)です。ペットフードは年間2~3%成長しており、野菜缶詰や加工野菜、加工果物・食品調味料など多くの加工農産物は、今後も成長が見込まれています。

――日本だけではありませんが、コロナウイルス感染拡大でレストランなどでの外食が減り、家庭で食べる内食が伸びています。タイの農水産物加工産業は、この事態にどう対応していますか?

公使参事官 ウィシット・リムルチャ氏によると、新型コロナウイルス感染拡大によって消費行動が変化し、外食が減った一方で、食の健康志向が高まるなど、ほかの傾向もみられます。消費者は、選択するための品質と効率を踏まえた判断が増え、食事の宅配やオンラインショッピングを使用する行動が増えています。また地方ブランドの製品の人気が高まっています。さらに食品備蓄や調理済食品を許容する傾向も強まっています。

こうした消費行動から、農産物加工業界では、以下の準備、協力を行っています。

①食品の安全や工場での製造工程に予防策を講じています。清潔・安全を徹底し、信頼と消費者に選んでもらえるための安心の構築を目指します。

②小売業者向けオンライン配信チャネルまたは配送サービスを追加する必要があります。飲食店の場合、持ち帰りまたは配達サービス(フードデリバリー)が可能な食品の種類を増やす必要があります。

③梱包サイズ関しては、レストラン配達用の大きなものから、より多くの家庭での消費に適した小さなサイズまでの梱包サイズの変更が必要です。

④消費者を惹きつけるために、新しいメニューの開発や、効果的なマーケティングチャネル、キャンペーン、クリエイティブマーケティングや購買力の低下に対応して、安価内水漁業事務所 所長で費用対効果の高い食品メニューの提案も検討しています。

チョンティサック・チャーオパークナーム (Mr. Choltisak Chawpaknum)

国立プリンス・オブ・ソンクラー大学天然資源学部水圏科学学科、国立カセサート大学水産科学専攻修士課程卒。1989~2002年、農業・協同組合省水産局内水面漁業課チョンブリー内水面漁業開発センター水産専門官。03~07年同局サラブリー県内水面漁業署内水漁業事務所長。08~12年同局内水面漁業開発研究所研究グループ水産上級専門官。13~15年在上海タイ王国総領事館 農務担当領事(農務)。2015年から現職。

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豊かな土、水、そして海や川に恵まれたタイ=木徳神糧提供