リーガルコーナー第28回 虎門中央法律事務所弁護士・望月崇司

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紛争解決条項と準拠法条項について

望月崇司――虎門中央法律事務所弁護士
2002年上智大法学部卒、08年慶応義塾大法科大学院修了。09年虎門中央法律事務所入所。16年5月米ジョージタウン大学Law Center(LL.M.in International Business and Economic Law)修了。17年7月米国ニューヨーク州弁護士登録。同年9月虎門中央法律事務所復帰。訴訟などの紛争処理案件に多く関与し、特に、被告、債務者が海外に居住するケースなどの国際訴訟に精力的に取り組んできた。法分野としては知的財産権(主に著作権法)に関する紛争・相談等を多く扱ってきた。16年9月から17年7月まで、アメリカに所在する日系資本のメーカーに企業内弁護士として勤務。同社において、契約書チェック・管理、訴訟対応・管理、コンプライアンスなど企業内弁護士として幅広い業務に関与した経験を活かし、現在、グローバルなリーガルアドバイスを提供している。

先月号は、日本で初となる国際仲裁のための専用施設である日本国際紛争解決センターが東京・虎ノ門ヒルズビジネスタワー内に設置されたことから、国際仲裁の活用についてご紹介しました。

ところで、契約書には仲裁合意や管轄合意といった紛争解決条項のほかに準拠法条項も定められているのが一般的であるところ、これらの違いについてご相談を受けることがあります。

そこで、今回は、これらの条項の意義及び違いについて、設例を用いながら解説いたします。また、これに派生する論点として、紛争解決条項と執行の可能性についても解説いたします。

1 紛争解決条項とは

契約書を作成する目的は紛争の防止にありますが、紛争を完全に避けることは困難です。紛争が発生した場合、まずは当事者間で交渉することで任意に解決することを目指しますが、それでも解決に至らない場合は第三者にその解決を委ねるしかありません。そのような場合における紛争解決の方法・機関について定めるのが紛争解決条項です。

第三者による解決としては、裁判所による解決と仲裁による解決が代表的です。裁判所による解決を定めた条項を管轄合意条項と呼び、どの国のどこに所在する裁判所で紛争解決するかを定めることになります。これに対して、仲裁による解決を定めた条項を仲裁条項と呼び、どの国のどこに所在する仲裁廷において、いかなるルールのもとで紛争解決するかを定めます。紛争解決条項については基本的には管轄合意条項又は仲裁条項のいずれかを選択することになりますので、当該契約においてはいずれが適切かという観点から合意することになります。この点、先月号で解説したとおり、仲裁は、裁判と比較して公正性、執行の可能性・容易性、解決の柔軟性、非公開性というメリットがあると一般的に言われています。

2 準拠法条項とは

以上のとおり、紛争解決条項はどのような方法・機関で紛争を解決するかということに関する条項でしたが、これに対して、準拠法条項とは、契約上の法律関係をいずれの法にしたがって規律するかということを定めた条項になります。一般に、この法のことを「準拠法」と呼んでいます。

準拠法については一般的に国際私法と呼ばれる法分野により定められています(なお、日本においては「法の適用に関する通則法」という名称の法律により定められています。)が、契約取引においては契約書において当事者間であらかじめ合意しておくことで、いずれの法律が適用されるかを予め確定し、想定外の法が適用されるといったリスクを回避することができます。

3 設例

抽象的な説明だけでは理解しにくいところですので、設例を用いて解説いたします。

日本のA社が中国のB社から商品を購入したところ、商品に瑕疵があったとしてA社はB社に対して損害賠償請求を検討しています。契約書上は、準拠法を日本法、合意管轄を日本の東京地方裁判所と定めていますが、瑕疵に関して何ら規定がなかった場合、どのように紛争解決されるでしょうか。
(1) どの機関にどのような方法での紛争解決を求めるか(紛争解決条項の問題)

まず、A社はどの機関にどのような方法による紛争解決を求めるかが問題となりますが、これは紛争解決条項の問題です。本設例では日本の東京地方裁判所が管轄裁判所と合意されていますので、東京地方裁判所における裁判で決着をつけることになります。したがって、A社はB社を相手取って東京地方裁判所に損害賠償請求事件を提起することになります。

(2) 法律関係については何法を適用するか(準拠法の問題)

東京地方裁判所は、A社に損害賠償請求が認められるかを審理することになりますが、これは契約上の法律関係(売買に関する法律関係)をいずれの法にしたがって規律するかによりますので、準拠法の問題です。ここでは日本法を準拠法とする旨が規定されていますので、日本法にしたがってAB間の売買に関する法律関係を検討することになります。この点、日本の民法上、売主には契約不適合責任(2020年4月1日施行の改正民法では契約不適合責任になりましたが、従来は瑕疵担保責任と呼ばれていました)があるため、契約書上何ら定めがなくとも、これによって損害賠償請求をすることが可能となります。

4 紛争時を見据えて検討・選択する必要性

準拠法条項と紛争解決条項の違いについてはイメージがつかめたかと思いますが、契約書を作成するうえで重要なのは、いずれの条項も紛争時を見据えて検討・選択することです。ここでは、紛争解決条項と執行の可能性を例に紛争時を見据えて選択することの重要について解説します。

本設例において、A社がB社に対する勝訴判決を東京地方裁判所で得た場合、それで安心かといえばそうではありません。B社がかかる判決に基づき任意に支払いをしてくれるのであれば問題ありませんが、これに従わない場合には資産を差し押さえるなどの強制執行手続をとる必要があります。B社が日本国内に資産を保有している場合には、基本的には日本企業に対する強制執行手続きと同様に進めることとなりますが、B社が中国にしか資産を保有していない場合には大きな問題が生じます。先月号で触れた通り、日本の裁判所の判決は中国では執行できないこととなっていますので、せっかく取得した勝訴判決もB社が任意に従わない以上、絵に描いた餅となってしまいますし、契約書締結段階ですでに管轄合意を東京地方裁判所と合意してしまっておりますので後の祭りです。

それではどのようにすればよかったかのでしょうか。取引相手との関係性や紛争となる可能性の程度、費用対効果なども考慮し、(日本、中国または第三国の仲裁機関における)仲裁の合意をする、あるいは管轄裁判所を中国の裁判所と合意することで、中国における資産に対しても執行できる紛争解決条項としておくことも場合によってはあり得たかもしれません。そして、仲裁による解決と中国の裁判所における解決でいえば、公平性や日本法に精通していない中国の裁判官が担当することの不安定性の観点からは、第三国での仲裁による解決がより望ましいという整理になります。