ビジネス情報:パイロットコーポレーション

インド消費者に日本品質のボールペンを
代理店育てて市場拡大

1918(大正7)年創業の100年企業で、日本を代表する筆記具メーカー、パイロットコーポレーション。創業の数年後から米国や欧州、中国へ進出し、日本メーカーの中では最も早い時期から本格的な世界展開を開始した1社だ。同社は今、巨大な人口が集中するアジアなどの新興国で積極的に筆記具の市場開拓に取り組んでいる。【毎日アジアビジネス研究所】

海外進出、100年近い歴史

パイロット社のインドでの主力商品の水性ボールペン=同社提供

「所得が一定の水準に達すると、筆記用具が売れ始める。識字率が8割程度ある国も有望。我が社は1926年にニューヨーク、ロンドン、シンガポール、上海で海外進出をスタートし、市場を拡大してきました」。中国に次ぐ巨大マーケットであるインドなど南アジア各国を担当する、海外第二営業部営業第二課の私市広樹係長は話す。

現在、世界190弱の国と地域で筆記用具を販売しているパイロット社は、南アジアでは1950年代にインドでの万年筆販売からスタート。バングラデシュ、パキスタン、ネパール、アフガニスタン、スリランカと各国で代理店を定め、市場拡大の努力を重ねてきた。

人口が多く、将来の市場の伸びを期待している」という南アジア。主力商品は水性インキのボールペンだ。インド市場で主流の油性ボールペンは製造が比較的容易で、地場企業も多く製造している。地元メーカーの油性ボールペンは決して品質はよくないものの1本5~20ルピー(1ルピーは約1・42円)ほどで売られており、同じ油性ボールペンでは価格面で競争が困難なためだ。

とは言っても、パイロット社の水性ボールペンは、インドでの販売価格は1本50~60ルピー程度になる。「価格差をブランド名と品質で埋めていく。品質を消費者に理解してもらうとともに、代理店、小売店にも我が社の製品を売るメリットを感じてもらう様に、努力している」。私市氏は話す。

パパママショップ回って営業活動

インドの商店で販売されているパイロット社などの ボールペン=同社提供

現在は新型コロナウイルスの感染拡大で出張もままならないが、通常は私市氏は年の半分以上を現地出張し、小売店を回る日々だ。一度出張すると、2カ月は東京の本社に戻らないこともあるという。

インドの都市部では近代的な文具店も増えてきているが、販売の8割は「パパママショップ」と呼ばれる家族経営の小規模店だ。日本のコンビニのような存在で、食料品や日用品、文具など何でも扱う。ボールペンも雑多な種類が、ほこりをかぶった状態で乱雑に売られていることが多い。

代理店の営業担当者とともに、大都市の営業拠点から車で数時間かかるような地方都市のパパママショップを訪れ、まずは自社商品のほこりを払い、目立つように並べてもらうところから始める。自社のブランド名が入った吊り下げ式のディスプレイや、書き味の良さを実感してもらうための試し書きキットを製作し小売店に提供する。さらに学校の文化祭に協賛したりクイズのイベントを開催したりするなどして試供品を提供。メインタ―ゲットの一つである生徒、学生向けのキャンペーンも行う。

インドの学生、生徒を対象にしたキャンペーン活動 =パイロット社提供

万年筆の販売からスタートしたパイロット社は海外の代理店を大切にし、1国1社の代理店と長く付き合う伝統がある。インドの代理店とも数十年の付き合いだ。「製品が売れるようになれば代理店営業員のコミッションも増え、シェア拡大につながる。私の役割は代理店の営業の皆さんに当社製品を自信を持って売ってもらえるようにすることです」。

南アジアで使用する商品ディスプレイを手にする私市広樹氏=西尾英之撮影

コロナ禍で小売店に足を運ぶ消費者が少なくなっている中で、急速に伸びているのがEコマース(インターネット上での通信販売)だ。インドの主要なECサイトであるアマゾンやフィリップカートなどで、代理店を通してパイロット社の製品が売られている。伸びは「小売店を通しての普及の倍のスピード」という。

「EC上では若く新しいものに敏感な消費者が多い。手頃な万年筆やボールペンの多色セット、カリグラフィーに向いたペンなど特徴ある製品が売れている。直接、消費者に利点をアピールでき、拡販のきっかけにもなる」と私市氏。

インドは「日本製品」というだけで全面的な信頼を得られるマーケットではないと私市氏は話す。「『メードイン・ジャパン』というよりも、ブランドそれ自体への信頼感の方が強い」。

一度、手に取って字を書いてみれば、パイロット社のペンと安価な地元製のペンとの違いは歴然だが、価格に極めて敏感なのもインド市場の特性だ。「決してあきらめないが、品質とブランドでは埋められない価格差がある分野で戦うのは難しい。我が社の製品の強みを出せる部分をインドのマーケットにフィットさせていく。そのために付加価値を高めていく」。

「市場性は高いが日本企業の成功例は少ないのがインドマーケット。市場がまだ成熟しているとは言えず、代理店とじっくり付き合い、育てていくことが重要です」。私市氏はそう話す。