シリーズ・タイの農水産物加工品①

国土生かした農水産国・タイ

付加価値高め日本の食卓へ

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穏やかな気候に恵まれたタイ北部にあるエダマメ畑。収穫されたエダマメは冷凍加工され日本向けに輸出される=チェンマイ・フローズンフーズ社提供
自動車などの生産拠点が集中し工業国としての地位を固めるタイ。一方で、豊かな国土と海を生かした農水産業は依然GDPの8・5%(2017年)、就労者は全労働人口の42%を占め、同国の主要産業であり続けている。近年では一次産品を加工して付加価値を高める大規模なアグリビジネス(農業関連産業)が発展し、多くの農水畜産物加工品が日本へと輸出されている。新型コロナウイルス禍で家庭内の食品需要が伸び、スーパーマーケットでタイ産加工食品を手にする機会も増えている。日本の食卓に並ぶタイ産農産物加工品を、今月から3回シリーズで紹介する。【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之】

人気の「冷凍唐揚げ」
日本基準の品質で大量生産

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ショーケースに並ぶ鶏肉を加工したニチレイフーズの冷凍食品のラインナップ。並んでいるのはすべてタイの工場で生産された製品だ=東京都内で西尾撮影

唐揚げ、ささみ天、つくね――。売り場のショーケースにずらりと並ぶ鶏肉を加工した冷凍食品の数々。「冷凍食品唐揚げ売上ナンバー1の『特から』をはじめ、ここにあるのはすべて当社のタイの工場で生産している製品です」。冷凍食品大手「ニチレイフーズ」(本社・東京都中央区)の小幡修平・海外生産管理部長は話す。

日本の家庭で人気の高い冷凍唐揚げなどの鶏肉加工冷凍食品は、日本がタイから輸入する農水畜産物加工品の代表選手だ。政府の貿易統計によると2019年、海外から輸入された鶏肉調製品(主に冷凍食品)は金額ベースで2638億円。このうちタイからの輸入が1701億円に上る。

小幡部長によると、タイの鶏肉の年間生産量は約330万トン。このうち約44万トンが日本向けに輸出され、うち約30万トンが主に冷凍食品などの加工品、残りは未加工の冷凍鶏肉の形で日本に入ってくる。鶏肉生産量トップ10に入る鶏肉大国タイで飼育されるニワトリの、11羽に1羽が唐揚げなどの冷凍食品となって日本の食卓に上る計算だ。ちなみにニチレイフーズの製品は30万トンのうち5万トン強。冷食メーカーとしてはトップクラスだという。

ニチレイフーズは1989年、タイ企業と合弁でサムットプラカーン県に設立したグループ会社「スラポン・ニチレイ食品」(現スラポン・ニチレイフーズ=SUNIF)社で日本向け冷凍食品の生産を開始。同社は94年に第2工場、97年に東部プラチンブリ県に3カ所目のカビンブリ工場、2010年にカビンブリ第2工場と次々に工場を増設。さらに2010年11月にはチョンブリ県にニチレイフーズのもう1社の現地との合弁グループ会社「GFPTニチレイタイランド」(GFN)社を設立して生産を開始し、タイ産鶏肉冷凍食品の生産、日本への輸出を拡大してきた。今年秋にはGFN社の第2工場も稼働を開始する予定だ。

SUNIF社は鶏肉を部位ごとに買い入れて加工。GFN社はニワトリを1羽ごと買い取り加工している。SUNIF社はほぼ全量が日本向け輸出だが、GFN社は日本人に人気のあるモモ肉は日本向け、欧州で好まれるムネ肉は欧州向けと、部位によって輸出先を分けている。タイでスープなどに好んで使われるガラは国内向けに出荷、羽も加工して魚の飼料に利用するなど、1羽まるごとすべての部位を利用することによってコスト削減を図っている。

日本で考案のレシピを忠実に再現するスキル

小幡部長によると、自社の鶏肉加工食品はタイを中心に一部は中国と日本国内でも生産しているが、主力はタイでの製造だ。中国での生産は外部の工場によるOEM生産で、グループ内企業で生産しているタイのように全面的に加工技術を現地に移転することができない。

ニチレイフーズでは日本の研究開発センターで製品のレシピを考案し、タイの工場で日本人駐在員と現地スタッフが協力して実際の製造ラインでそのレシピ通りに製品を再現していく。日本で人気商品である鶏肉冷凍食品を多くの日本人に認めてもらうためには、調味料の配合や唐揚げの揚げ時間など日本で考え抜いたレシピ通りに、工場で製造していく必要がある。また、手作業(人の手)でやることで最終商品品質に大きく影響する工程もある。

「タイの工場には、忠実にまじめに、これを再現していくスキルがある」と小幡部長。日本の消費者の品質に対する要求は世界一厳しいとも言われる。広く品質管理の概念が行き渡ったタイにはそれに応える素地がある。

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ニチレイフーズのグループ企業、スラポン・ニチレイフーズ社の工場(上)とGFPTニチレイタイランド社の工場(下) =ニチレイフーズ社提供

直接、消費者の口に入る食品として安全性の確保は大前提だ。外部の認証機関の様々な監査を受け安全性を担保するほか、工場には本社から派遣された日本人スタッフが常駐し日本人の目で各工程のチェックを行っている。

それに加え、現地で急速冷凍した冷凍食品を日本に輸出するには、工場の冷凍庫から日本の冷凍倉庫まで一度も冷凍コンテナの電源を落とすことなく運搬する、高度なコールドチェーンが必要だ。「これは一企業で実現できることではない。国レベルで対応していないと難しい」という。

2011年にタイで起きた大規模な洪水などの気候面、さらには上昇する人件費などのリスクはあるものの、主力製品である鶏肉関連冷凍食品のタイ生産の利点は明らかだ。「タイや中国以外の国での生産も検討はしているが、安全、安心な商品を安定的に大量供給できるという点で、タイの優位性は当面揺るがない」と小幡部長は話す。


日本の胃袋支えるタイ産「冷凍エビ」 原料トレースシステムで安全性担保

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タイの工場に集荷され冷凍加工されるバナメイエビ=Kingfisher Holdings Limited提供

フライや天ぷら、寿司ネタにと、日本人の食卓に欠かせないエビ。国内産は昨年、天然、養殖合わせて約1万5000トンだったのに対し、海外からは国内産の10倍を上回る約16万トンが輸入されている。数量からいえばベトナム、インド、インドネシアが輸出元のトップ3だが、タイ産のエビは原料のトレースシステムが整備され、安全性が高いのが特徴だ。

大手水産会社「マルハニチロ」(本社・東京都江東区)のタイのグループ企業「キングフィッシャー」社は、バンコク近郊のタイ湾に面したサムットサコン県と、タイ南部のソンクラーの2カ所に冷凍食品製造工場を持っている。タイ全土で養殖される新鮮な生のエビを年間1万トン以上集荷して加工し、うち4割を日本向けに輸出している。

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タイで冷凍加工され日本に輸入されるバナメイエビ=Kingfisher Holdings Limited提供

同社のタイ産冷凍エビは日本で、寿司ネタやサラダ、ピザにトッピングされるボイルエビ▽コンビニのレジ横コーナーで販売されるエビフライ▽スーパーに並ぶ家庭用エビチリセット▽パスタソース具材用のエビスープや市販用冷凍食品――など、多彩な姿で消費者の口に入る。

現在、世界で養殖されているエビには、いずれもクルマエビ科の「ブラックタイガー」と「バナメイエビ」の2種類がある。ブラックタイガーは1尾30~40グラムほどで、バナメイエビはそれよりもやや小ぶりだ。エビ養殖が各国で本格化した1980年代から、最初はブラックタイガーの養殖が中心だったが、後発のバナメイエビは生産効率がよく、養殖の環境への負荷もブラックタイガーに比べ小さい。現在では世界で生産されるエビの85%以上がバナメイエビだ。

サステナビリティ重視の養殖目指す

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タイのエビ養殖施設=Kingfisher Holdings Limited提供

マルハニチロ社によると、他国に先駆けてバナメイエビの優位性に着目したのがタイ政府だ。積極的な生産支援を行い、他国に先駆けてタイはバナメイエビ養殖のパイオニア的存在となった。

現在、バナメイエビの養殖は世界中で行われているが、タイで養殖されるエビの特徴は、官民一体の原料トレースシステムに支えられたその安全性だという。

「弊社で集荷する原料のエビは、どこで育てられたかはもちろん、養殖業者の身分証明書(免許証等)の情報まで特定できる」と同社。養殖業者が責任を持って出荷する構造ができあがっており、抗生物質や抗菌剤といった薬剤の過剰投与や不法使用のリスクが、他国と比べて極めて低い。マルハニチロ社によると、日本がタイからエビを輸入する際には、検疫当局による輸入時の残留抗生物質等の命令検査が免除されている。

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マルハニチログループのタイの工場
=Kingfisher Holdings Limited提供

さらに近年、サステナビリティを重視し自然環境と生物多様性の保護や児童労働の禁止などの社会的責任を定めた、養殖業に関する認証を取得した養殖も始まっている。

タイはタイ湾とアンダマン海に面した水産資源国。マルハニチロ社はエビだけではなく、アンダマン海で採れる新鮮なアジを加工したアジフライや、最終的には日本のグループ工場で竜田揚げに加工されるタイ産の小型マグロを、フィレカットした醤油漬けにして凍結して日本側に輸出するなど、様々に加工した冷凍水産物を日本へ輸出している。

「原料だけでなく、高い加工度の商品を製造できるのがタイの水産業の優位性です」。同社はそう指摘する。


穏やかな気候生かし「冷凍エダマメ」輸出
厳格な生産管理で安全性を確保

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冷凍で日本に輸出されるエダマメ=チェンマイ・フローズンフーズ社提供

日本でビールの友として親しまれるエダマメ。スーパーへ行けば、パッケージに「タイ産」と記された冷凍エダマメが売られている。なだらかな山岳地帯に囲まれたタイ北部は、台風がなく気候も比較的穏やか。エダマメやインゲンなど日本向けの野菜が栽培され、冷凍加工されて輸出されている。

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近代的な箱詰めされていく冷凍枝豆
=チェンマイ・フローズンフーズ同社提供

バンコクに本社を置く「チェンマイ・フローズンフーズ」社は、エダマメ、インゲン、スイートコーンの3品目を中心に、タイ北部を中心とした契約農家6000~8000軒が栽培した作物を北部の中心都市チェンマイ近郊にある2カ所の工場で冷凍加工。85~90%を日本の商社や食品加工メーカー、小売業者向けに販売。残りはタイ国内及び欧州や米国向けに販売している。

同社は1988年、日本の総合商社と台湾、タイの3者の合弁企業としてスタートし90年から生産を開始した。当時、日本は台湾から冷凍エダマメやインゲンを輸入していたが、第2の供給国として厳格な生産管理の下に安定して枝豆を供給できるタイが選ばれた。チェンマイ・フローズンフーズ社は94年にはタイ証券取引所に上場。昨年2019年の年間売り上げは3800~4000万ドルに上り、大手の冷凍野菜製造、輸出企業に成長した。

徹底した残留農薬検査

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タイ北部の中心都市チェンマイ郊外にある工場=チェンマイ・フローズンフーズ社提供

現在、日本へのエダマメ輸出のトップは台湾、2位はタイ、3位は中国だ。ライバル輸出国との競争で最も気を使うのが、製品の品質と安全性。アンクーン・ポルピパッタナポーン社長によると、同社は日本の残留農薬基準を満たすため、契約農家に対し厳格な基準を設定して監督。収穫前、原料段階、半製品段階、完成品段階で残留検査を実施している。また製造工程では、食品製造工程の安全基準を定めた国際基準「FSSC」などに従い、製品の安全性が国際基準に合致していることを確認している。

アンクーン社長は「あらゆる工程で最高の品質を維持し、また最新の日本の規制を確実に順守するために、製造工程や品質管理の情報を常に日本の取引先のお客様と交換し、お客様からは高い評価をいただいている」と強調する。

「タイの農産物加工産業は過去10年から15年の間に、国際的な食品安全の概念を取り入れて最新の生産スキームを導入し、その水準を大幅に引き上げてきた。タイの農業もまた世界基準に準拠するため、地元農家の知恵を取り入れながらその質を高めていく」。アンクーン社長は「個人的な意見」としながらも、タイの農産物と農産品加工産業についてそう話す。

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契約農家で栽培されるエダマメ。残留農薬などの管理のため農家には厳しい栽培基準を課して、守ってもらっている=チェンマイ・フローズンフーズ社提供