韓国における債権回収の特殊性
(虎門中央法律事務所と業務提携を行う韓国の法務法人オルンハヌルに所属する弁護士が、韓国における法律問題につき検討を行います。)

犯罪捜査の弁護、刑事裁判、企業内部調査、関税、知的財産権などの各種の刑事・民事案件を扱っている。オルンハヌルを設立する前は、ソウル北部地方検察庁、釜山地方検察庁等に検事として合計5年間勤務した。
日系企業が韓国に進出し、取引を開始したが、取引先が金銭の支払いを拒んだというケースも想定されることから、債権回収について把握しておくことは重要である。特に、韓国においては、債権回収の手段として、刑事手続を用いることが日本と比較して多いという点で特殊性があるといえよう。そこで本稿では、一般的な民事手続による債権回収を紹介したうえで、刑事手続を利用した債権回収や考えられる告訴の類型について解説したい。
1、一般的な民事手続による債権回収
一般的に民事訴訟手続を通じて債権の弁済を受ける方法としては、債権回収の民事訴訟を起こして判決を受けた後、債務者の財産に対して強制執行を行うという方法が考えられる。このとき、債務者の財産の現況を把握している場合、通常訴訟の前に仮差押など保全手続きを通じて財産を保全し、勝訴した後に執行手続に着手すればよい。
他方、債務者の財産現況を把握していない場合には、民事訴訟の勝訴判決を得た後に財産開示手続又は財産照会手続を通じて債務者の財産の現況を把握した後、執行手続に着手することができる。ただし、これは債務者が自分の名義で保有している財産について、債務者が裁判所の財産開示の実施決定に従って任意に財産リストを作成し、開示する場合にのみ実効性があるだけであり、例えば、本来的には債務者の財産であるにもかかわらずこれを他人の名義で保有し財産リストに掲載しない場合など、これを隠匿した時にはその実効性が落ちてしまう。
2、刑事手続を通じた債権回収及びその有用性
韓国では、民事訴訟で勝訴しても、上記の通り債務者の財産の状況を把握できなかったり、債務者が自分の財産を隠匿するなどの方法で債権回収を妨害したりする場合、多く債権者が刑事告訴という手段を利用している。
典型的な告訴の内容は、債務者が返済能力又は返済意思がないにもかかわらず、まるで返済能力や返済意思があるかのように偽って債権者を欺いたため、詐欺に該当するということ(韓国刑法第327条、詐欺罪)や、強制執行を免れる目的で財産を隠匿したため強制執行免脱犯罪に該当するということである(韓国刑法第327条、強制執行免脱罪=注1)。
韓国で債権回収のための強力な方法として刑事告訴を利用するという現象自体については、民事事件の刑事化、それによる犯罪者の量産という批判もあるが、法律サービスの利用者からは以下の理由により好まれる傾向にある。
第一に、刑事告訴の対象に特別な制限はなく、捜査機関は告訴された事件について捜査を進め、起訴処分又は嫌疑無しという結論を出すようになっている。
第二に、刑事告訴を進めるにあたり、弁護士の報酬は相対的に高くなく(通常は被害金額の10~30%)、一方、事件が順調に進めば、債務者は処罰を避けるために任意に債務を履行することも多い。被害金額が数千万ウォン以上の事件において詐欺容疑が認められれば、債務者には実刑判決が言い渡される可能性が高いため、債権者は弁護士報酬を支払ってもそれ以上に被害の一部を回復することができ、実益がある。
第三に、事件の終結という側面で、民事手続きに比べてかなりの時間を節約することができる。通常、民事手続を通じて債権を回収するためには2年ないし3年の期間を要するが、刑事告訴は6カ月ないし1年くらいで事件が終結するため、早い債権回収が期待できる。
第四に、事実関係を確定するための証拠収集においても利点がある。捜査機関は強制力を持って債務者の財産の状況、財産の譲渡の経緯などの事実関係を調査するため、債権者が把握しにくい証拠を代わりに収集したりもする。
3、刑事告訴の具体的・代表的な類型
ア・商品代金や用役代金の騙取
ある会社が他の会社に商品を供給したり、役務を提供したりしたにもかかわらず、その代金の支払いを受けられない場合がある。
商品の供給又は役務の提供を受けた後に、急な経済事情の変化により、代金を返済できなくなった場合、詐欺罪に該当すると見なせず、告訴しても実益がないことがある。
しかし、債務者が商品や役務を受ける当時、既に債務超過の状態に陥っており、その代金を支払うことができなかったという場合には、返済能力に対する欺瞞行為ということができ、詐欺罪が成立する可能性がある。継続的な取引関係にある会社であっても、ある時点からは債務超過の状態に陥り、返済能力がないとして、その時点から供給された商品または用役代金については詐欺罪が成立するという可能性もある。
イ・投資金の騙取
相手を騙して投資金を騙取する場合、詐欺罪が成立する可能性がある。不動産開発事業、金融商品の販売などの過程で、収益率を誇大広告したり、会社が転換社債(CB)、新株引受権付社債(BW)を発行する過程で、売上高または営業利益を水増ししたりする場合が代表的な投資詐欺の事例になり得る。
ウ・借金の騙取
借用金の詐欺は会社間だけでなく個人間で発生しうる債権債務関係として、韓国における詐欺罪の告訴の相当部分を占めている。韓国では、個人間の金銭消費貸借が比較的多いが、債務返済がなされない場合、刑事手続につながる場合が非常に多い。結局、詐欺罪が成立するかどうかは、金銭を借用する当時に債務超過状態などで返済能力がなかったかによって判断される。
エ・強制執行免脱行為
韓国の刑法上の強制執行免脱罪は、強制執行を免れる目的で財産を隠匿したり、虚偽の財産を譲渡したり、虚偽の債務を負担し、債権者に被害を与えたときに成立する。実務上、強制執行免脱罪は告訴をしても起訴されにくい犯罪の一つである。隠匿した財産を見つけることが難しいだけでなく、財産の譲渡が虚偽という点を立証することが難しいからだ。
ただし、このような事案において強制執行免脱罪で告訴する場合、捜査機関が強制捜査権に基づいて債権者の代わりに債務者の財産の隠匿または移転の経緯などを調査してくれるため、民事手続の詐害行為取消訴訟より好まれる傾向がある。または、詐害行為取消訴訟と並行して刑事上強制執行免脱罪で告訴する場合も多い。
4、まとめ
以上のように韓国においては民事手続に基づく債権回収のほか、刑事告訴による回収も比較的行われており、より実効性がある場合がある。日系企業としては、債権回収といえば民事手続のみを連想しがちであるが、韓国で債権回収が必要な場合は、刑事手続による回収について専門家のアドバイスを求めるのも一考である。
注釈
(注1)日本における強制執行妨害目的財産
損壊等罪に相当する。
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