Asia Inside:コロナ禍後のビジネス インドと中国の現場から②

コロナ禍で急速に成長するデジタル経済・陳言

北京では連続56日間、新型コロナウイルスの感染者が出現せず、4カ月にわたって張りつめていた緊張感がほぐれ始めていた。6月6日は中国では古来、「六六大順」といい、「易経」に由来する伝統的な考えでは「ものごと全て順調」の意味だが、この日から北京市はコロナ警戒水準を2級(全市レベル緊急対応水準)から3級(区レベル緊急対応水準)に引き下げた。

しかし喜びもつかの間、その5日後の6月11日――東京都が「東京アラート」を解除した日――に、北京は警戒水準2級への逆戻りを宣言した。さらに22日以降、北京市民が北京を出る場合、PCR検査の結果を提出しなければならないなど、北京を出入りする条件はすでに非常に厳格になっている。

コロナ禍の中国では、飲食、旅行などのサービス産業は深刻な打撃を受け、回復は非常に困難だと見られている。一方、デジタル経済は異常なほど急速に発展し、本来、数年、数十年でやっと普及するデジタル化が数週、数カ月で実現し、一つのステレオタイプを形成し、今年1月の感染症拡大以前の状況にはほとんど戻っていない。教育のデジタル化、医療のデジタル化、シティー・マネジメントのデジタル化、ビジネスのデジタル化――。各方面でデジタル化は急激に進んでいる。

IT企業がデジタルインフラ整備に巨額投資

コロナ禍発生後、オンラインOAソフトが爆発的にもてはやされるようになった。日本では多くの企業がZoomを使ってオンライン会議を開いているが、この傾向は他国も同様である。その一日当たりのユーザー数は昨年12月の1000万人から今年4月には3億人に急増した。

中国の状況はかなり特殊である。アリババグループが開発した企業用インスタントメッセンジャー、釘釘(DingTalk)のデータによると、今年3月末現在、ユーザー数は3億人を超え、1500万社を上回る企業がこれを使用し、14万校、300万学級の1億3000万人の児童生徒がこれでオンライン授業を受け、600万人の教師が累計6000万時間の授業を行なった。

騰訊(テンセント)会議(テンセント・ミーティング)は昨年12月末にオンラインに参入し、2カ月以内に1日当たりのアクティブユーザー数は1000万人を超えた。

4月20日、アリババクラウドは3年以内に新インフラ整備に2000億元(約3兆円)を投入する、と発表した。5月8日、京東商城(JD・COM)はサービス産業デジタル化転換「京東新動力エネルギー計画」を発表し、技術輸出能力を企業デジタル化転換に適合させるインフラの提供を打ち出した。5月16日、ファーウェイクラウドは主に大型政府系企業市場向けの新戦略を発表。5月26日にはテンセントが今後5年間に新インフラと産業インターネット向けに5000億元(約4兆5000億円)を投入する、と発表した。

第三者研究機関、賽迪顧問(CCID)は以下のように予測している。2025年までに、第5世代移動通信システム(5G)、工業ネットワーク等の新インフラ整備の分野における投資は10兆元(約150兆円)に達し、連動して関連投資累計は17兆元(約255兆円)を上回るかもしれない。

アリババのクラウドスマート事業群最高経営責任者(CEO)で「ダモアカデミー」のトップでもある張建鋒氏の予測は次のとおりだ。今後2年に数兆元(数十兆円)の投資がデジタルインフラ分野に投入される。「これだけの大量の資金投入がなければ、新インフラ整備は不可能であり、デジタル化は語れない」。またファーウェイクラウドCEOの鄭葉来氏は、「コロナ禍はわれわれのデジタル化能力をちょっと試した程度だが、デジタル経済はわれわれを新たな時代に連れて行く」と語る。

中国社会を変えつつあるデジタル経済

2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が中国を襲った当時の携帯電話は、単に通話のツールだったが、6年後の09年には中国は3G時代に入り、今年の新型コロナウイルス襲撃では、移動ネットワークに依拠した中国デジタル経済とデジタルインフラが巨大な役割を果たし始めた。

中国の著名な経済誌「財経」(6月21日号)は「デジタル化技術と新興ビジネスモデルは、国民的防疫対策、公共的なマネジメントの面で主に四つの貢献をした」と報じた。

第1はウイルス拡大の抑制である。政府は大型プラットフォーム企業と連携して、位置情報サービス(LBS)、ビッグデータ分析、ロボット技術等を大規模に活用して、高リスク症例を追跡、識別し、人の流れを制限し、人と人との接触を最大限減らした。

コロナ禍の間、アリババクラウド、京東デジタル科学等の科技公司の人工知能(AI)ソリューションやプラットフォームがウイルス対策に投入された。例えば、AI能力を備えた音声対話型ロボットはこの間、中央、地方政府あるいはコミュニティー管理部門において、一対一の電話応対を行ない、検査、通知、折り返し通知などに役立て、疾病予防管理センター(CDC)の情報収集を支援した。通常の電話応対スタッフの処理能力は一日最大200本だが、ロボットだと通常毎分1000本の電話が可能である。

第2はリアルタイム情報通報。デジタルプラットフォームとハイテクの効果的な支援によってリアルタイム情報公開を実現し、一般市民の恐怖心緩和に対して重要な役割を果たした。さまざまなビジネスプラットフォームのオンライン、オフラインのAI問診システムが一般社会住民の焦燥感を和らげた。

第3は生活のクオリティーの保証である。企業はオンライン、オフラインを併用するO2Oサービスとそのプラットフォームを活用し、ユーザーの隔離期間中の基本的な生活需要を満足させるだけでなく、彼らの時間つぶしを手伝い、オンラインカラオケ、オンライン将棋などによって、長期間にわたる家居の苦痛と気持ちの落ち込みの緩和に力を貸した。

第4は生産意欲の立て直しである。全国各地の多くの企業がデジタル技術を応用して営業を再開している。突出的なのは消費者とのライブ・インタラクティブ、弾力的なテレワークを活用した従業員の職場復帰を通じて、生産と営業を次第に常態に戻している。外国語などの教育ビジネスを行なっている新東方は03年、存亡の危機を乗り切ったことがある。SARSの影響を受け、受講料返還を求める受講生が北京本部ビルの4階から1階まで並んだ。創始者の俞敏洪氏は友人らから1000万元(約1億5000万円)余を借り集め、何とか危機を乗り越えた。

歴史を繰り返さないために、俞氏は今回、借金して受講料を返還した外に、別の選択肢を用意した。全国80校以上の分校、子会社の100万人以上の受講生をライブ授業に切り替えさせた。これは新東方が1年ほど前に立ち上げたたばかりのクラウドクラスルームシステムが、急増したライブ配信任務に応じなければならないということだった。こうした大量のライブ配信の安定を保証するために、バックにはテンセントクラウドの2000基余のサーバー、レッスンストレージ、ライブCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)サービス等のデジタル技術やサービスがある。

デジタル経済技術が発揮する新たな役割

今年2月、ファーウェイは華中科技大学同済医学院基礎医学院、同付属武漢小児科病院、西安交通大学第一付属病院、中科院北京ゲノム研究所など多くの研究機関と連携して、5種類の新型コロナウイルスに有効な抗ウイルス薬をスクリーニングした。研究開発システムはファーウェイクラウドを基に、コンピューターシステムは毎晩、1~20回アップグレードされ、アルゴリズムを多次反復し、新薬研究開発の効率とスピードを保証した。

新型コロナウイルスまん延は人類生活と世界経済に未曾有の破壊力を振るい、公衆衛生上の対応措置は日常生活を変え、各経済体に対して、不可逆的なマイナスの影響を与えた。各大企業はこれまでさまざまなリスクを経験してきたが、今回の危機はさらに複雑で、最大の難題は、一般的な問題は通常、短期的な準備で対応できるが、期限が定まらない危機に対する管理方法をいかにして制定するか、企業側が全く分からないことである。

デジタル技術は社会的なシステム運行と企業の危機対応の強靭性を保証する。テンセンントクラウドの湯道生CEOは「財経」記者のインタビューに「新型コロナウイルスがもたらした大
変化の中で、科学技術はその広さ、深さ、速さの三つの次元で社会全体を変えた」と答えた。

具体的に言うと、広さでは、地域から全国をカバーする生活のデジタル化を発展させ、例えば、暮らしの中で最も関心が集まる教育、医療の分野でオンライン教育、オンライン医療が出現した。深さで言えば、中央から基層まで行政のデジタル化を推進し、例えば、健康コードの普及がある。速さの面では、オンライン、オフラインの分離から融合までの企業デジタル化転
換、Eコマースと物流の密接な結合を加速し、多くの中国人の防疫生活の安定が基本的に保持された。

ポスト・コロナ期を迎えても、上述の変化は直ちに消えるわけではなく、ウイルス拡散マップ、健康コード、オンライン学習等の新応用は将来的にかなり長期間残り、各産業界のデジタル化を推進する。さらに、深さの分野では、スマートフォン、スマートホームステイ、スマートファッション、スマート製造を含めた10兆元(約150兆円)規模の応用市場が中国にはすでに出現した。

産業デジタル化とは、伝統産業がデジタル技術の応用によってもたらされる効率改善、ビジネス増進を通じて、スマート自動車、工業ネットワーク、スマート都市等の出現を促進させるこ
と、と解釈できる。

しかし、筆者が特に重視している事がある。米国のアップル、マイクロソフト、テスラに比べると、中国のデジタル企業の発展は速いが、業務範囲が中国に集中し、利潤も中国国内に由来し、国外に出て、世界各国に提供する公共プロダクトになるには、中国企業はもっと努力が必要である。

■陳言

cover-e6cKjYxI99HkAwBC9HHCD3gcERt0rjIo毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー
日本企業(中国)研究院執行院長
経済ジャーナリスト
1960年、北京生まれ。82年、南京大学卒。82-89年『経済日報』に勤務。89-99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99-2003年萩国際大学教授。03-10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。現在は「人民中国」副総編集長も務める。