新型コロナ対策で沈静化したタイの反政府活動:バンコク・高木香奈

20160712dd1dd1phj731000c久しぶりにタイの新聞で名前を見た気がした。5月中旬、解党した新未来党党首のタナトーン氏が実業家の経歴を生かして新型コロナの感染対策に取り組んでいると報じられた。新未来党は昨年の総選挙で第3党に躍進したが、政権の影響下にあるとされる憲法裁判所が解党命令を出した。タナトーン氏は議員資格を剝奪され、10年間の政治活動禁止を命じられたが、若者を中心に支持は根強い。2月の解党命令直後にインタビューを申し込んだが、取材依頼が殺到していたとみられ秘書に断られた。今回は時間を取ってくれるといい、党事務所を訪ねた。

新型コロナ対策で「流行の第2波に備えたい」と、経営者や技術者らと協力し、医者と患者を隔離して安全に治療できるモジュール型の診療室や輸送装置を開発、国内の病院に提供した。タナトーン氏は自動車部品製造大手の創業者一族出身だが、政界挑戦を機に経営からは退いており、個人として寄付に参画したという。

新型コロナ対策で、政府は3月26日から全国に非常事態宣言を適用し、指揮命令権限をプラユット首相に集中させた。ただ移動制限や店舗閉鎖は通常法の権限で十分に可能で、首相が強権維持のために利用しているのではないかとの指摘もある。タナトーン氏は「たくさんの生活困窮者が出て、人々は限界にきている。政府は早く制限を解除すべきだ」と指摘。「『コロナ後』のタイはかつてない変革のチャンス」と話していた。

新未来党の解党命令への抗議で広がった街頭の反政府活動は、新型コロナ対策の外出制限で一気に沈静化した。学生団体が「自宅で集会」を掲げて政府への不満を書き込んだ紙を掲げてソーシャル・ネット・ワーキングサービス(SNS)に投稿する運動が起きたが、かつての盛り上がりはない。6月に入っても非常事態宣言は解除されず、段階的な制限緩和が進められる。感染拡大が抑えられていることもあり、世論調査でも政府の対策は一定の支持を得ており、外交関係者は「政権にとりクーデター以来の追い風だ」と話す。タナトーン氏が言うような「コロナ後」はやってくるのだろうか。(2020年7月、アジア総局