先日、とある会合で歯科医師の男性の口元に参加者の視線が集中した。薄い青色で、プリーツがあるマスクをしている。韓国では「デンタルマスク」と呼ばれ、もともとは医療用だ。男性は「医院にも中国産しか入ってこないし、枚数が足りないから、節約して使っているよ」と苦笑いした。
ソウルでは地下鉄やバス、タクシーでマスク着用が義務づけられている。マスクはもはや、社会生活を送る上での必需品だ。今ではサイズや形、質を問わなければ簡単に手に入る。ところが6月に入ると最高気温が30度を超える日も多く、微細粒子の遮断効果が高い「KF94」「KF80」よりも、薄く息がしやすいデンタルマスクを求める人が急増したのだ。最近、デンタルマスクと同様、息がしやすい上に価格も安い「飛沫遮断用マスク」の販売が開始されたが、インターネット上では売り切れが相次いでいる。
マスク供給に関して、韓国政府はきめ細やかな対応をしてきた。マスク自体が品薄になっていた3月9日には、生まれ年ごとに決められた曜日に住民登録証などを持って薬局に行けば、1週間に1人2枚(後に3枚)の「公的マスク」が買える「マスク5部制」を始めた。同時にマスクを生産する中小企業を支援して増産にはっぱをかけ、次第に供給は安定。6月1日からは曜日にかかわらず、いつでも薬局で公的マスクが買えるようになり、18日からは1人当たりの枚数が10枚に拡大された。ただ、公的マスクで売られるのはKF94やKF80。代わりにデンタルマスクや飛沫遮断用マスクを売るべきだという意見もよく聞く。
新たな対策が必要だと思うが、秋が来れば遮断効果の高いマスクの需要が再び高まるかもしれない。韓国政府はこれまで何度も軌道修正を図ってきており「そのうちなんとかなるだろう」という希望が持てる。一方の日本は、1世帯2枚の布マスク配布に固執し、方針発表から約2カ月半たってようやく、ほぼ配布が完了したと聞く。「アベノマスク」はすでに終わった話かもしれない。ただ、日本の新型コロナ対応が今後も、状況に合わせた方針転換ができないままだとしたら、少し心配だ。(2020年7月、ソウル支局)
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