リーガルコーナー第25回 韓国弁護士・朴永録

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新型コロナウイルスの拡散による韓国でのビジネスに関する留意事項

(虎門中央法律事務所と業務提携を行う韓国の法務法人オルンハヌルに所属する弁護士が、韓国における法律問題につき検討を行います。)

朴永録(パク・ヨンロク)――法務法人オルンハヌル弁護士

合併・買収、労働、プロジェクト・ファイナンス、不動産の投資信託など、様々な民事・行政上の事例を扱っている。 オルンハヌルにパートナとして合流する前は、韓国の大手法律事務所である法務法人(有限)太平洋に9年間勤務した。

日本企業が韓国の企業と取引したり、韓国に現地法人を置いたりする場合、それに伴う留意事項を熟知する必要があるところ、最近、新型コロナウイルス(COVID-19、以下「コロナウイルス」)の拡散により、様々な分野で契約が履行されなかったり、行政制裁を受ける事例が発生している。そこで、具体的な事業分野、契約内容や準拠法によって結論が異なることもあるが、ここでは特別な契約条項がないことを前提に韓国法を説明する。

1、契約履行に関して

A・不可抗力抗弁

「不可抗力」とは、当事者が支配できない領域で発生される不可避な事情をいい、代表的には天災地変、戦争等が例に挙げられる。

韓国大法院は、不可抗力を理由に損害賠償責任から免除されるためには、「債務不履行の原因が債務者の支配領域外で発生した事象として、債務者が通常の手段を尽くしても、これを防止することが不可能だったことが認められなければならない」と判断した(大法院2007・8・23判決2005年59475、59482、59499判決)。

具体的に、コロナウイルスのような感染症に関する判例・裁判例は見当たらないが、大法院の判例の中には、IMF事態及びそれによる資材需給の蹉跌を不可抗力と見ないと判示した事例(大法院2002・9・4判決2001・1386判決)や、下級審の裁判例の中には、北朝鮮の突然の無煙炭輸出禁止措置により、納品義務を遅滞又は不履行した場合、それは不可抗力に該当すると判示した事例がある(議政府地方裁判所2010・10・14・宣告2010が合計4018判決)。

実際には具体的な取引形態や契約内容によって結論は変わるが、代表的な例として、売買契約の場合には、売買目的物の引渡義務の不履行はコロナウイルスの拡散だけではなくて、政府の輸出入禁止措置のように、いかなる備え手段からも予め防止しにくい水準に達しなければならないと考えられる。

一方、現在のようにWHOがコロナウイルスのパンデミックを宣言し、世界各国が輸出入禁止等の各種制裁を加えている状況では、取引制限を十分に予見できるので、これを考慮せずに契約を締結した以降、これを理由に履行しない場合に不可抗力を主張することは難しいと考えられる。

B・金銭債務の不履行に関する特例

韓国民法第397条第2項によると、金銭債務の不履行の場合は、債務者は過失がないことを抗弁できないため、無過失責任を負担することになる。

しかし、売買契約のような双務契約の場合、売主が売買目的物を引き渡すことができない場合であれば、買主は同時履行の抗弁権を行使できるので、売買代金の未払いによる損害賠償義務を負担することはないだろう。

C・国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)

国際取引にCISGが適用されることもある。CISG第79条第1項は、不可抗力的状況について、「当事者は、自己の義務の不履行が自己の支配を超える障害によって生じたこと及び契約の締結時に当該障害を考慮することも、それを回避し、又は克服することも自己に合理的に期待することができなかったことを証明する場合には、その不履行について責任を負わない。」と規定する。韓国法と異なり、CISGは当事者の故意・過失を問わず損害賠償責任を認めるため、不可抗力を判断する際に重要となるのは、契約の締結の時に損害の発生に対する「予見可能性(foreseeability)」である。したがって、当事者が契約の締結の当時、コロナウイルスの拡散による損失を予見できたなら、損害賠償の責任は免れないだろう。

2、コロナウイルス関連の法規の改正

最近、コロナウイルスの拡散を防止するため、「感染症の予防及び管理に関する法律」(以下、「感染予防法」)等が改正された。本法により新設または改正された規制を熟知する必要がある。

感染予防法第40条の3第1項は、保健福祉部長官は、第1級感染病の予防・防疫及び治療に必要な医薬部外品、医薬品等の急激な価格上昇又は供給不足で国民の健康を著しく阻害するおそれがあるときは、その輸出又は国外への搬出を禁止することができる旨規定する。現在、適用対象物品はマスク、消毒剤、保護装備等である。

また、第1級感染症の患者と疑われる場合、保健福祉部長官等は病原体検査、自己隔離又は入院治療を指示することができる。 これを拒否した場合、刑事処罰の対象となる。

さらに、「検疫法」の改正により、検疫感染病の患者、その接触者、危険要因にさらされた人、感染病が流行し又は流行する恐れのある地域から来た外国人やその地域を経由した外国人の場合、保健福祉部長官が入国禁止を要請することができる(検疫法第24条)。

日系企業としては、韓国企業との取引に先立ち、上記の輸出制限対象に該当するか否かや、業務担当者が韓国出張する際、上記の検査対象に当たるか等を事前に検討する必要がある。

3、人事労務管理上の諸問題

A・休業手当の支給可否

韓国の現地法人には韓国の「勤労基準法」 (注1)が適用される。勤労基準法第46条第1項によると、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の七十以上の手当を支払わなければならない。

韓国の雇用労働部(注2)は、労働者のうちコロナウイルスの感染者、症状者、接触者が発生し、消毒・防疫のために事業所を休業する場合、使用者の責に帰すべき事由によるものではないため、休業手当の支給義務はないとしている。

では、コロナウイルスの拡散による業務量の減少による休業はどうだろうか。大法院は「使用者が自分の責に帰すべき経営上の必要性により個別の労働者に対して待機発令を行ったとすれば、これは勤労基準法第46条第1項で定めた休業を実施した場合に該当する」と判示している(大法院2013・10・11宣告2012ダ12870判決)。したがって、コロナウイルスの拡散による業務量の急減により休業する場合には、労働者に70%以上の休業手当を支払わなければならないとみられる。

ただし、この場合にも使用者がやむを得ない事由により事業を継続することが不可能であり、労働委員会(注3)の承認を得た場合には、平均賃金の70%に達しない休業手当を支給できる(勤労基準法第46条第2項)。

B・業務中に従業員がコロナウィルスに感染させられた場合における使用者の法的責任

業務上の事由で疾病に感染された労働者は、「産業災害補償保険法」により療養給付、休業給付などの支給を受けることができる。この場合も、使用者が労働者に対する保護義務を違反した場合には、非給与項目及び残りの賃金、慰謝料などを支払う義務がある。

使用者は労働契約に伴う信義則上の付随的な義務として、被用者の生命、身体、健康に対する保護義務を負担する。従って、使用者が事業場内の措置を疎かにして、勤労者がコロナウイルスに感染させられた場合、使用者に損害賠償の責任を請求することができる。

それ故に、使用者の立場で最も重要なことはコロナウイルスの予防である。出張、対面会議、公式行事、会食などを取り消しまたは延期し、実施することが必要な場合には、画像または電話会議に置き換えることが望まれる。労働者の業務と密接な関連がある活動に対しては、使用者の保護義務の水準がより厳しく判断される可能性が相当である。それ故に、労働者に上記の注意事項を公開し、明確に知らせておくことが望ましいだろう。

注釈
注1)日本における「労働基準法」に相当する。
注2)日本における「厚生労働省」の労働関係の機関に相当する。
注3)雇用労働部の所属機関で、労働関係に関する判定及び調停の業務を行う機関。