Asia Inside:ポストコロナ禍

中国に出現した「リベンジ消費」

北京より寄稿

■陳言

毎日アジアビジネス研究所シニアフェロー
日本企業(中国)研究院執行院長
経済ジャーナリスト
1960年、北京生まれ。82年、南京大学卒。82-89年『経済日報』に勤務。89-99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99-2003年萩国際大学教授。03-10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。現在は「人民中国」副総編集長も務める。

5月下旬、中日両国では注目すべき二つの出来事があった。一つは中国で、21日に中国人民政治協商会議(国政諮問機関)が、翌22日には全国人民代表大会(全人代、国会に相当)――中国国内ではこの二つの全国会議を会わせて「両会」と称している――が、新型コロナウイルスの影響で、2カ月余り遅れて開催された。中国経済は国内外のコロナ禍の影響を受け、成長率はかなり下落したが、会議の討論から見ると、安定成長を保持し断崖絶壁的な急降下は避けられるという、想定の範囲内の結論だった。

5月25日、日本は遅れていた5都道県を含む全国の緊急事態宣言を解除した。中国メディアの報道によると、人口1億2000万人の日本では、新型コロナウイルス性肺炎確定診断を受けた患者数は1万6569人、死亡825人(5月25日現在)で、欧州の主要国や米国に比べて、日本の新型コロナウイルス被害は軽微だと言える。緊急事態宣言解除後の日本の経済にいかなる変化が現れるのか、世界の注目を集めている。

中日両国は前後して新型コロナウイルスの襲撃第一波をかわしたが、本稿は中国社会に起きている変化、とりわけ、消費面における変化について報告、分析したものである。

預金減少と消費の反発

中国人民銀行(中央銀行)がこのほど発表したデータによると、4月の世帯預金は7996億元(約12兆円)減少しており、4月に1日平均で266億元(約4000億円)を超える預金が銀行から流出したことを意味している。

これは、第1四半期の世帯預金の大幅増加と鮮明な対比となっている。中央銀行のこれ以前のデータによると、第1四半期には世帯預金は6兆4700億元(約97兆円)増加しており、毎日平均700億元(約1兆円)が預金として銀行に流入したことになる。

中央銀行のデータは同時に、世帯への貸付金も4月には前年同期比6669億元(約10兆円)増加していることを示している。中でも個人消費貸付金を主とした短期貸付金が2280億元(3兆4000億円)増加し、個人(不動産購入)銀行ローンを主とする中・長期貸付は4389億元(約6兆6000億円)増加している。これは、第1四半期の世帯貸付は新たに1兆2100億元(約18兆1500億円)増え、昨年同期よりも6022億元(約9兆円)増加が少なく、中でも短期貸付は509億元(約7600億円)減った。

住宅積立の減少はコロナ禍で長期間抑制されていた消費が報復(リベンジ)的反発を開始することを意味しているのか否か?

自動車、不動産は住民支出の二大項目だが、最近、明らかに復調の兆しが見えている。

民生銀行首席研究員、温彬氏が5月中旬に発表したリポートは、4月に入って、国内の感染制御が効果を現し始めると、それに伴って、職場復帰、生産再開、取引再開、市場再開が整然と行われ、住民の消費も回復の兆しが見え、不動産、自動車販売の面で、第1四半期に比べて明らかに復調した。

自動車では、5月11日に中国汽車(自動車)工業協会が発表した最新の生産・販売データによると、4月の自動車生産・販売台数が今年初めて前年同期比プラス成長となり、中でも販売台数は21カ月連続の下落に歯止めがかかった。

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4月の北京の自動車販売店。店の前にはナンバープレートを付けていない在庫の車が多く止まっていた=北京市内で2020年4月13日午後、赤間清広撮影

このデータは市場の予想を超えており、国内のコロナ制御情勢が好転し続け、中央と地方政府の先行きのある一連の政策が発表されるに従って、市場では自動車業界の生産・販売が続けて回復に向かうだろうと考えられるようになった。中国汽車協会によると、現在自動車メーカーの生産・経営は基本的に回復しており、生産量もすでに昨年同期と同レベルに達している。中でも商用車は前年同期比で顕著な伸びを示していて、生産・販売台数は一カ月の最高記録を更新している。

国務院商務部(省)の王炳南副大臣は、5月8日の記者会見で、「自動車・家電などの前期に抑制・凍結されていた耐久消費材販売数が顕著に上昇している」と発表した。5月の「メーデー休暇」中、重点観測企業の自動車販売額は前年同期比で上海が49・6%増、重慶が28・5%増、浙江が8・8%増となった。

自動車消費の復活以外にも、不動産の成約状況も改善している。大手不動産仲介機関の中原地産公司のデータによると、4月の一線都市の商品住宅の契約率は前期比45%増だった。中でも上海では57%増、深圳では8%増、北京と広州ではどちらも50%を超える伸びとなった。

克而瑞(CRIC)研究センターの統計データによると、一線都市の上海、深圳のハイエンド顧客群の購買力は依然として強く、二、三線都市では感染症により抑制されていた不動産購入需要が集中的に解放され、特に重慶、徐州、杭州、青島などの都市で顕著に上昇し、同規模の都市の中でもトップクラスになっているという。

コロナが変えた中国の消費トレンド

一大危機を経て、続く経済トレンドを決めるのは、往々にして二種類の力である。一つは習慣性の回復で、つまり深い落ち込みの後の大幅なリバウンドであり、例えばSARS(重症急性呼吸症候群)や2008年の国際金融危機後の中国経済はいずれもスピーディーなリバウンドを実現している。これは人類の経済活動の自然な回復であり、恐慌心理が収まった後の、平常の状態への回帰である。

もう一つの力とは、われわれが当たり前に思っていた条件がすべて変わることだ。われわれが経済と商業の基本面、特に危機以前に当たり前と思っていたものに変化が生じる、あるいは遥か先のことだと考えていた変化が起き、突然現実になった。

中国市場に発生した新たな変化には、次のようなものがある。

コロナ禍が重篤だった都市。ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)、公共交通、中央ビジネス地区(CBD)、消費などの認識と行動が変化した。例えば、公共交通の利用に対する敬遠、北京の消費者はマイカー運転を好むようになり、その結果、渋滞がひどくなった。コロナ禍後、中国ではスマート外出の分野の都市改革が推進され、第5世代移動通信システム(5G)―自動運転、電気自動車(EV)―スマート、グリーン、ヘルシー外出、モノのインターネット(IoT)、エネルギーシステム関連政策の明確化がさらに進んだ。

コロナ禍は米国製ビデオ会議アプリZOOM のユーザーが激増し、科学技術の大手企業は次々と会議ソフトを発売し、PC、モバイル、会場、企業向け、即興式などありとあらゆる細分化された商品で、人々の多様化したニーズに応えている。

一部の大手科学技術企業はすでに、年内は社員のリモートワークを続けると発表している。さらに第三の空間での仕事、柔軟なワークスタイル、リモートワークなどを含むテレワークとオフィスの結合が普通の状態になろうとしている。これは、かえってこれまでのオフィス、オフィスビル、ひいては工業団地やCBDなどの新たな設計や建設をもたらすものとなり、その背後には、企業内部や企業とエコ・パートナーの協力スタイルの変化があり、新たな効率の範囲や革新の可能性を探し求めるものだ。

人々は健康について、これまでになく注目するようになり、個人の健康から家族の健康、ひいては地域衛生に至るまで、環境全体に注目し、気候変動に関心を向け、健康的なライフスタイルへの認知を新たなものとしている。消費者は人類の生存環境の脆弱さを痛感し、消費の中で持続可能主義(サステナビリティ)を体現しようとしている。

都市封鎖(ロックダウン)の期間中、家庭には自給自足機能が必要とされ、経済と正常な社会生活が戻った後も、家庭に関する消費とサービスは増加するだろうし、その中でも大きなものは外食から中食への変化、家庭のキッチンへの転向、映画館から居間へと、家庭の設備と環境はアップグレードし、周辺地域の消費とサービス業態には調整が行われるだろう。

中国は世界最大規模の製造業を有し、グローバル・サプライチェーンの中心でもある。コロナウイルス感染症が流行拡大している時期には、サプライチェーンが中断し、操業再開は困難で、スマート製造の進行を速めることとなるだろう。より高いレベルでの自動化・スマート化は、サプライチェーンに与えた衝撃に対応することができ、作業の連続性を保つことができる。工場はデジタル化が進む最大の場となり、より多くのセンサー、ビッグデータ、スマート化された予測、検査測定、運行、メンテナンス技術、人と機器との連携、機器と機器とのコントロールと連携、相互学習と方針決定がより多用され、これらすべてが加速して発展していくだろう。

教育の分野ではメインのオンライン化が一晩のうちに実現し、コロナ禍の間に、一部の学校は各教師にオンライン教育ツールに早く、習熟するように要求した。中国ではオンライン教育がすでに常態になっている。

目に見えないところで消費に変化が生じ始め、消費に新たなトレンドを生み出し、コロナ禍後の消費でもある程度持続しそうだ。

日本は教育、医療、工業製造のなどの各分野で、中国の技術をリードしているが、新型コロナウイルスが猛威をふるっていた時、中日民衆、企業は手を携えて共同防疫活動を行い、共通認識を持った。これらが中日相互信頼の基礎になれば、新たな中国の消費拡大潮流に乗って、日本企業が発揮する役割は巨大だ。マクロ的に見ると、新型コロナウイルス制圧後、中日経済の安定が維持され、成長速度は欧米に比べて高く、中日韓の相互信頼を増大させれば、両国提携に新たなチャンスが生まれるだろう。