コロナ禍の不安:ジャカルタ・武内彩

ジャカルタ武内
イスラム教の断食月(ラマダン)が始まる直前の4月22 日、インドネシアから日本に一時帰国した。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、脆弱な医療体制やラマダン期間の社会混乱を懸念したためだ。帰国翌日の深夜、インドネシア政府が突然、24日から国内、国際線ともに航空機の旅客輸送を禁止すると発表した。事実上の「国境封鎖」だ。感染を広げないため、ラマダン明けの大祭(レバラン)に合わせた帰省を禁止したことに伴う措置だという。

3月25日時点ですでに60以上の国・地域で日本人の出国が困難になっていた。一方、インドネシアでは感染による死者が急増していても、日本への定期便があるということが在留邦人のよりどころだった。米国など第三国に乗り継ぎ帰国する外国人にとっても日本便は貴重な手段になっていた。その後、混乱を避けるため、政府は外国人が帰国するための臨時便運航は認めると発表した。ただ、国内の移動が制限されているので国際空港にたどり着けないという事態が起きている。在ジャカルタ日本大使館には5月初めの時点で10件ほどの相談が寄せられたという。

インドネシアからの帰国者は、空港でのPCR検査の結果が陰性なら、自宅などで14日間の自主隔離が求められる。隔離先まではタクシーや公共交通機関が使えないので、私は帰国者の送迎を行っているハイヤーを利用。実家が遠方のため、自主隔離の利用と断ったうえで東京都内のホテルに宿泊した。この移動や宿泊費は帰国者負担で、私の場合は航空券を合わせて30万円近くになった。家族がいれば出費はかさみ、特に留学生には大きな負担だ。

インターネット上では帰国者に対して「感染を広げるから帰ってこないで」といった言葉も見かける。コロナ禍の不安を、他者を排除することで軽減しているのだろうか。「周りの目が怖くて親戚にも帰国を知らせていない」と話す知人もいる。5月1日付け毎日新聞朝刊に一時帰国の体験記を掲載したところ、70代の女性読者から反響があった。米国に暮らす息子が心配だが帰国させるか迷っているという。社会の許容度の低下や相互監視のような雰囲気は行き過ぎてはいないだろうか。(2020年6月 ジャカルタ支局