自宅アパートがあるのは首都ワシントンの南側の南部バージニア州。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、州知事が、外出規制を宣言したのは3月30日だった。
他人との距離を6フィート(2メートル弱)以上とる「ソーシャル・ディスタンシング」は徐々に浸透し、犬の散歩をしていても、歩道ですれ違うのを避けようと、道路の反対側にわざわざ渡る人も少なくない。アパートの管理事務所は外出規制の前に早々と閉まってしまった。「社員の健康を守るため」とのメールが届き、急用がある場合は、メールか緊急連絡先に電話をするよう求められた。
4月初旬のある朝、たまった洗濯物を洗濯機に入れ、スイッチを入れたところ、まったく動かない。数カ月前に壊れて、新品に替えてもらったばかりだ。妻がメールで連絡すると、私の携帯電話に、すぐに返事があった。事務所は閉まっていてもメンテナンスのスタッフは待機していた。
「これからすぐに行く。事務所が閉まっていて合鍵がないので、玄関の鍵を開け、ベッドルームに全員で待機してくれないか」。住民と顔を合わせ、話をすると感染する恐れがあるので、会社の方針でそうしているという。
言われた通り、妻と2匹の犬とベッドルームに待機した。洗濯機があるのは玄関を入ってすぐの廊下だ。入ってきたスタッフは、しばらくたって「電気系統を調べる必要があるが、サーキットブレーカーがベッドルームにある」と言うので、今度は全員でバスルームに移動した。
ガタゴトと音がした後、もう一度大声が聞こえた。「終わった。ちゃんと動くはずだ」。「ありがとう。助かった」と返事をすると玄関のドアが閉まる音がした。
洗濯機の上にある乾燥機が振動で動き、洗濯機の電源コードが揺さぶられ、外れただけだった。スタッフに礼は言ったが、ドア越しで相手が誰だか分からない。問題は解決したが、どこかすっきりしない。当たり前のことができなくなっているのだと改めて認識した。(2020年5月 北米総局)
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