「前代未聞」が続く生活:ロンドン 服部正法

外信部デスク 服部正法
新型コロナウイルスの感染が拡大し、異例の外出禁止措置まで発動した英国。メディア報道上や営業停止を告げる店の張り紙、知人とのメールのやりとりなどでも、unprecedented(前代未聞の)という単語が盛んに見られるようになった。

日常生活でもunprecedentedなことが目に付く。これまでアジア系の人を除いてほとんどマスクをしていなかったロンドンっ子だが、4月以降はマスク姿がかなり増えた。狭い歩道を歩いている時、前方から人が来ると察知すると、かなりの確率で通りを横切って向こう側の歩道に渡る人がいる。私がアジア系だから嫌がられているのではない。近距離ですれ違うのを避けているのだ。感染を防ぐための「ソーシャル・ディスタンシング」意識である。運動や散歩をするのは認められているが、公園などでも同居する家族以外と集まっていれば、警察は解散を求めることができる。

私個人にもunprecedentedな出来事があった。外出禁止措置発動の直前のこと。ロンドン中心部の支局に行こうと自宅そばの駅に向かった。駅構内で「日本の方ですか」と駅員さんに声を掛けられた。「不必要な移動は避けてください」という当局の英語のお願い文を日本語にしてくれないかと言う。駅周辺は日本人駐在員家族なども多いので、日本語でも周知を図るということらしい。

快諾して事務所で詳しく聞いたら、実はこの英文を日本語にして、駅構内のアナウンスにもしたいとのこと。結局、マイクの前に立たされて自分で訳した日本語の文章を録音する羽目に。感謝されてホームに降り、地下鉄を待っていると、下手な自分のアナウンスが聞こえてきて恥ずかしさでいっぱいとなった。

ところで、ロンドンでの感染症による混乱そのものはunprecedentedではなく前例がある。1665~66年のペスト大流行では、ロンドンだけで約10万人が死亡したとされる。この際には、葬儀も含めいかなる集まりも禁じられた時期があった。このころもソーシャル・ディスタンシングで感染拡大を防ごうとしていたのだ。科学はそれ以降、格段に進歩したと思うが、感染症に対する戦い方は意外と変わっていないようにも見える。それだけ感染症は強敵なのか。(2020年5月 欧州総局