新型コロナ対応に見るプーチン流の統治術 外信部・前谷宏

20180621dd1dd1phj223000cロシアでは欧州からの帰国者を中心に感染確認が相次いだ3月半ばから新型コロナウイルスの感染者が急増している。この原稿を書いている4月半ばの段階で国内の感染者数はついに2万人を突破した。この間、プーチン大統領は3月25日と4月2日、異例となる2週連続のテレビ演説を行った。ただ、その内容は多くの国民にとって予想外だったようだ。演説前には市民の私権を制限する「非常事態宣言」が出されるという観測が強かったが、プーチン氏が打ち出したのは国民に外出自粛を求める有給の「非労働日」を導入するという内容。市民の移動制限や都市封鎖などの措置については州や地方などの連邦構成体のトップに権限を委譲した。

ロシアは、名目上は今でも連邦国家だが、プーチン政権下で各構成体の権限や予算は削られ、中央集権化が進められてきた。その中で突然、危機対応を任せられた構成体のトップの間には当初、戸惑いも広がったようだが、首都モスクワのソビャーニン市長がいち早く市民の外出制限策を導入。非常事態宣言が出ていない中で市民の移動を制限することには法学者から違法性を問う声も上がった。しかし、プーチン氏が容認の姿勢を示すと、他の州や地方でも次々に同様の措置が始められた。

外出制限や隔離といった国民にとっての「悪いニュース」は地方に任せ、「有給の休日という良いニュースだけを届ける」(ユーラシア・デーリー・モニター)プーチン氏のやり方には独立系のメディアから「責任逃れ」という批判も出ている。ただ、国民に不人気な政策は部下に委ね、国民の「庇護者」を装う手法は、18年の年金制度改革の対応をメドベージェフ首相(当時)に任せた際にも見せたプーチン氏流の統治術だ。2度のテレビ演説後、プーチン氏の支持率は上昇傾向にあり、ここまでは政権の思惑通りに事態は進んでいるようだ。

しかし、足元では失業者の増加、原油価格の低迷といった不安要素も相次いでおり、コロナ危機による国民生活の混乱が長引けば、支持率の急落は避けられないという観測も出ている。世界的な危機の中でプーチン流の統治術がどこまで通用するのか、今後も注視していきたい。(2020年5月 外信部