感染拡大防止策のジレンマ ジャカルタ・武内彩

ジャカルタ武内

新型コロナウイルスの感染が広がるインドネシアのジャカルタ特別州で4月10日から、ようやく「大規模な社会制限」措置が始まった。生活必需分野以外の事務所やモスク(イスラム教の礼拝所)の閉鎖など市民生活を制限するもので、違反すれば禁錮刑や罰金が科される。アニス知事が3月20日に非常事態を宣言し、23日から外出自粛や在宅勤務を要請していたが、そこに治安当局による取り締まりや罰則が加わった格好だ。

周辺のマレーシアやフィリピンでは3月半ばから、厳しい「都市封鎖」や「活動制限」といった措置が取られている。インドネシアのジョコ大統領は「国民性や財政力が違う」として、強制的な封鎖を否定してきた。ジャカルタでの制限も州政府からの強い要請を受けて、保健省が承認したものだ。自粛要請だけでは感染を食い止めるのは難しく、その後、制限措置は近隣の都市にも広がった。ただし自家用車やタクシーの通行など移動を禁止したわけではなく、「封鎖」ではないという見解だ。

制限措置が始まって4日目、食料品を買いに外出した。月曜ということもあって車やバイクの通行量は思った以上にあり、途中にある軽食の露店には客が次々に訪れていた。暇を持て余した配車アプリのバイクタクシーの運転手らが木陰に集まり、高層ビルの建設現場では工事が続いている。スーパーでも店員がいつも通りに働き、道路の清掃作業員も変わらずに見掛けた。いずれも市民生活や経済への影響、失業者の急増を避けるために制限の対象から外れた人たちだ。

感染防止のためには、欧州などのように厳しく制限するのが効果的だろう。ただ、インドネシア政府が感染防止と生活困窮者の増加というジレンマに陥り、中途半端な制限にとどまったことも理解できる。雇用の受け皿になっているバイクタクシーが客を乗せることを巡っても判断は二転三転している。濃厚接触の危険がある一方で、収入が途絶えることは避けたいという切実な要望があるためだ。政府は低所得者への現金給付や物資の配給などの救済策を打ち出しているが、滞れば社会はたちまち混乱する。何が正解か分からない中、手探りが続いている。(2020年5月 ジャカルタ支局