コロナが日露交渉に影響 モスクワ・大前仁

モスクワ大前世界的に猛威を振るう新型コロナウイルスは、日露の平和条約交渉にも影響を及ぼしている。安倍晋三首相は平和条約問題の進展を諦めず、積極的な外交日程を組んできたが、方針の見直しが余儀なくされてきた。

日露両政府は、2月上旬に次官級協議を開催して中旬に外相会談を開き、集中的に平和条約問題を協議する予定だった。しかしロシア側代表のモルグロフ外務次官がコロナ対策の担当に任じられたことから、東京で予定されていた次官級協議が延期された。

一方で外相会談は同月15日に予定通り開き、茂木敏充外相は条約交渉について「フェーズは変わってきている」と発言。「原則論を互いに戦わすといったことではなく、より前向きな話し合いに入っている」と続けた。

文字通り受け止めれば、停滞していた交渉が動き始めたとの印象を抱いてしまう。しかしロシア側は外相の発言に冷めた視線を注ぐ。「そもそも今回の外相会談自体は50分しか実施していない。本来は2月上旬の次官級協議で細部を話し合ってから外相会談に臨むつもりだった。外相同士では表面的なやり取りで終わることが多い」。外交筋の一人はこのように語り、「フェーズが変わってきている」との見方に同意しなかった。

20190510日露外相会談
日露外相会談に臨むラブロフ外相=モスクワで2019年5月、大前仁撮影

今後の外交日程では、モルグロフ氏が訪日し、延期された次官級協議を仕切り直す方針だ。安倍首相も5月9日、モスクワで予定されている対独戦勝記念式典への出席に意欲を示している。その前段階として、ラブロフ露外相が訪日し、再び外相会談を催すことも検討されている。だがコロナ問題が終息の気配を見せない中、3月半ばの段階で日露両国がこれらの外交日程を実現する目途が立っていない。更に日本国内で感染者拡大が伝えられる中、ロシア側は訪日に難色を示している模様だ。

平和条約締結の見通しが遠のく中、新たに浮上したコロナ問題は安倍政権に打撃を与えている。自民党総裁としての任期が残り1年半に迫り、平和条約問題はますます時間切れの装いを強めている。それでも安倍首相は今後も、平和条約締結の意義を訴えていくのだろうか。(2020年4月 モスクワ支局)