不確かな情報による集団パニックへの不安 ジャカルタ・武内彩

ジャカルタ武内インドネシアでも3月2日、ついに新型コロナウイルスの感染者が確認された。ジョコ大統領は同日、報道陣の取材に応じて、感染者がジャカルタ郊外に住む女性(31)とその母親(64)で、マレーシア在住で先に感染が確認されていた日本人女性と接触していたと明らかにした。日本人が感染源と根拠を示して明言したわけではないが、大統領が示唆したことで「日本人からうつった」と既成事実化した。周辺国で感染拡大する中、「ゼロ」を保っていただけに国民の動揺は大きかった。

インドネシア政府は2月5日から、14日以内に中国本土への渡航歴のある外国人の入国を禁止するなど水際対策を講じてきた。中国・武漢市周辺に滞在する国民をチャーター機で帰国させ、南シナ海に浮かぶ島で2週間の隔離策も行った。ただし、隔離期間中にせきや発熱などの症状がなかったことから検査は行われなかった。保健省の会見では記者から「感染者が出ていないのは検査が十分ではないからではないのか」という質問が毎回のように出たが、テラワン保健相は「祈りのおかげだ」とはぐらかして否定してきた。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため出勤時にビルの入り口で検温さ れる会社員=ジャカルタで2020年3月10日、武内彩撮影

そこにきて初感染の確認だ。テラワン氏の説明内容はぶれ、不確かな情報が拡散してしまった。SNSでは感染者の個人情報が暴かれ、激しい誹謗中傷も起きた。在留邦人の間でも不安が高まった。欧州などでのアジア人差別が対岸の火事ではなくなったのだ。日本大使館は3月5日、「日本人に対する悪質な嫌がらせの行為が増加する可能性がある」として相談窓口を開設した。タクシー乗車を拒否されたという話も出ており、私自身も何とはなく自粛モードになっている。

一方、感染者に関する詳細な情報共有を徹底しているのが隣国シンガポール政府だ。保健省のホームページでは個人情報は伏せながらも、発症時期や直前に訪れていた職場などの場所、感染者同士のつながりなどを公表する。「移民労働者が感染して死亡した」という噂が出れば、すぐに「検査結果は陰性だった」と否定する徹底ぶりで、過度な不安を抱かせないようにしている。

不確かな当局情報が引き起こす集団パニックは、ウイルスと同じくらいやっかいだ。(2020年4月 ジャカルタ支局)